若手が台頭しない野球チームと起業家が育ちにくい国Next Wave(1/3 ページ)

日本には、100年以上の歴史を持ち、好業績を上げている企業も多い。しかし若い企業が台頭してこなければ、その国の経済は活性化しない。

» 2008年06月20日 11時55分 公開
[幾留浩一郎,ITmedia]

あなたは「起業能力」がありますか?

 あなたは「新しいビジネスを起業するために必要な知識、能力、経験が、自分に備わっていると思いますか」という質問にどう答えるだろう。

 GEM(Global Entrepreneurship Monitor)が行った調査結果によれば、米国では5割以上、先進7カ国の平均でも4割近くが「そう思う」と答えている。しかし、日本人の場合にはたった1割。つまり日本人の9割が最初から「できない」と考えているようだ。

 GEMとは、米国のパブソン大学と英国のロンドン大学が中心になった研究機関で、スイスのIMD(International Institute for Management Development)の国際競争力ランキングなどの既存の国際的調査に、起業活動に関するデータが含まれていないのはおかしいのではないかという議論から、1999年に創設された。当初、10カ国の1万人程度の18歳から64歳までの成人を対象にしたアンケート調査から始まり、年々拡大し、2007年には42カ国16万人にまで調査規模を拡大している。毎年のリポートはGEMのホームページで公開されている。起業活動やその環境に関して、国ごとの違いが分かり、なかなか面白い。

 昔、米国の大学院で聞いたジョークを思い出した。米国の大学には沢山の人種が集まる。教授が学生と話をしてもなかなか客観的な評価ができない。ある人種は、例えば日本語の単語を数個知っているだけで「私は日本語を話せます」と堂々と答える。一方、日本人の場合、英文の専門論文を読解する能力があるのに「英語は分かりません」としか答えない。そこで聞いた内容を調整するための人種別の係数表があるのだと。通常は割り引くのだが日本人だけは増幅して聞いてあげる必要があるという話。

 人種や国民性だけですべてが分かるわけではないし、このエピソードはもちろん単なるジョークの域をでない話かもしれない。だが、確かに、日本は謙譲文化であり、自分の事に関してつつましく控えめな回答をする傾向はあると思う。

スポーツ選手とベンチャー企業

 実際に、「起業活動に関わっている人が成人人口に占める割合」を見ても、米国の10%前後、欧州諸国の平均の5%前後に比較して、日本は2%台と、先進国の中でほぼ万年最下位で、明らかに起業活動に関わっている人の数が少ない。また「今後3年以内に起業しようという計画がある人」の割合は調査国中ダントツ最下位である。「控えめ」なのは答え方だけではないようだ。

 ベンチャーとは文字通り、リスクは高く、成功の確率は低い。特にIT産業などのハイテック分野では成功のリターンも大きいがリスクも相当高い。一般的に、10社の新規ベンチャー中、7社は設立後5年以内に消滅し、2社はなんとか生き残るだけ、成功できるのは1社しかないと言われる。つまり一種の確率のゲームだけに沢山の挑戦者が必要であるが、最初に「できない」と考えたら何も始まらないのである。

 ベンチャーキャピタル投資総額がGDP(国内総生産)に占める比率も、日本は、調査国の中で毎年ほとんど最下位にある。米国と比較しても1/10程度に過ぎない。つまり日本は、将来への投資(ベンチャー投資)を、現在の国力に比べ、十分に行っていないということになる。

 ベンチャー企業1社あたりへの平均投資金額を比較してみても、米国がトップで、1社あたり約9億円、ヨーロッパの主要国の平均値が約3億円であるのに対し、日本は約6000万円と桁違いに小さい。これでは世界に通用する新しい企業を育てるのは難しいのではないだろうか。

 前回のアテネオリンピックで日本選手がメダルを沢山とれたのは、充実した選手強化ができた結果であると新聞で報じられていたが、つまりは十分な強化資金が投入された結果である。すでにスポーツも根性だけでは勝てない世界になっているが、ベンチャーも同じである。世界レベルの新しい企業を育てるには、それに見合った強化支援が必要である。これは文化の問題ではなく社会的な仕組みの問題であると思う。

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