中堅中小企業の経営基盤改革術

報酬制度で競争力を高める人事戦略コンサルタントの提言(1/7 ページ)

ベリングポイントの組織・人事戦略コンサルタントが、人材マネジメントの潮流を踏まえ、戦略からIT活用に至るまでさまざまな観点から具体的なアドバイスを提供するシリーズの2回目。

» 2008年07月17日 13時00分 公開
[吉岡利之, 池谷和之,ベリングポイント]

 「中堅中小企業のタレントマネジメント戦略」と題して、米大手コンサルティングファーム、ベリングポイントの組織・人事戦略コンサルタントが、日本の中堅中小企業を取り巻く事業環境や人材マネジメントの潮流を踏まえ、戦略からIT活用に至るまでさまざまな観点から具体的なアドバイスを提供する。今回はその2回目。中堅中小企業の報酬制度設計の進め方について提言する。

 「報われ感」を生み出すさまざまな要素に整合性を持たせ、包括的にそれらを向上させることで、従業員のエンプロイーエンゲージメントを高める戦略(トータルリワード)が、中堅中小企業に有能人材を定着させるために有効である。このことは第1回目で述べた。今回はその中でも、本人やその家族の生活に直接影響を及ぼす重要な要素である報酬、特に給与、賞与、手当などの金銭報酬の設計について述べていく。

【図1】エンゲージメントを生み出すもの

報酬制度を規定する3つの要因

 報酬制度は「企業の事業・仕事・職場の特性」「そこで働く人たちの特性」そして「企業を取り巻く社会環境」の3点から決まってくるものである。前2者は企業の独自性ということであり、それにあった制度でなくてはならない。世間で広く行われているものだからといって、それをそのまま導入しようとしても必ずしもうまくいかない。

 一方で、組織やそこで働く人たちはその属する社会の一員であり、法制度や事業環境だけでなく、一人ひとりの意識、価値観、ライフスタイルといった面でもその影響を受ける。社会の潮流とその中での自社の立ち位置の両面から設計を進めていくことが必要となる。

 では、多くの中堅中小企業に共通する特性とはどのようなものであろうか。一言で言えば「最適化が容易なほど良いサイズ」ということではないだろうか。

 「企業の事業・仕事・職場の特性」という点では、大企業の場合、事業が多岐にわたったり、仕事の分化・専門化が進んでいたりしてそれら個々の特性に合わすということが難しい。カンパニー制や持株会社下での分社化により、各事業や仕事にあったマネジメントスタイルや人事制度を構築するという動きはあるものの、その場合には企業全体、グループ全体としてのシナジー効果、人材の流動化が損なわれるというデメリットがでてしまう。それに対し、中堅中小企業では事業や仕事のバリエーションが比較的少なく、設計者がそのすべてを把握することも可能であろうし、それに最適な設計を行うことも比較的容易である。

 「そこで働く人たちの特性」という点でも、200人程度の規模であれば一人ひとりの顔が見えるマネジメントが可能であろう(ちなみにcompanyには、会社という意味のほかに軍隊の中隊という意味があり、その規模は各国で共通して150-200人といわれている。これがお互いを個人的に知り、機能する集団の規模の限界といわれている)。報酬制度というと、公平性や透明性の確保の必要性が言われるが、最も大切なことは皆が納得するということである。一定規模以上の企業では設計を進めるにあたり従業員を類型化・モデル化せざるを得ず、個々人の特性を考慮することは困難である。これに対し中堅中小企業では従業員の顔を思い浮かべながら作業を進めることができる。この利点は大きい。

 ただし、ここで注意しなければいけないことは、個々の従業員に合わせんがために複雑な制度やあいまいな制度となってしまうことである。それでは納得を得ることは難しい。結果としての制度はシンプルであることが望まれる。

【図2】 報酬制度をとりまく環境

 事業や仕事やそこで働く人にフィットする報酬制度は、中堅中小企業であるからこそ実現が容易であるとも言える。ではオリジナリティがあり、シンプルな制度を作るにはどうしたらよいか。次項ではそのポイントについて述べていく。

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