しかし、CIOの重要性は高まりつつある。
CIO先進国である米国でCIOが重要視され、その制度が定着しているのは、それなりの背景がある。90年代初頭、アル・ゴアによって唱えられた「情報スーパーハイウエイ構想」、その後のIT産業の興隆、さらにインターネットの普及によって、民間企業でCIOが注目されるようになった。加えて、2001年の9・11事件によって予期せぬ緊急事態への対応や情報セキュリティの必要性などが注目され、CIOの重要性が一層認識されるようになった。
一方、1996年「IT管理改革法」によって、米国連邦政府の各省庁にCIOが任命され、CIOが各省庁のIT導入促進・運営・維持に責任を持つように決定された。
そして何よりも、米国にはCIO市場が存在する。官民の人事交流も活発である。その背景には、CIOやその候補者向けの大学院教育が整備されているように、人材教育体制がしっかりできていることがある。
筆者がビジネスで米国の大手企業を訪問して幹部に会った時、意識してCIOについての彼らの認識を尋ねてみたり、場合によってはあえてCIOに会う機会を作ってもらったりしたが、社内でいかにCIOが重要視されているか、CIO自身もいかにモラールが高いかを知らされたものである。日本の有力企業で同じことを試みても、その反応はおそらく寂しいものだろう。それは、上記の実態の例からも充分に想像される。
日本でCIOが重要視されない原因としては、トップの意識や能力の問題、組織や企業の仕組みの問題がもちろん主要部分を占めるが、CIO自身にも問題があることは、上の実態例にも示した。それでは、ダメだ。
CIOの重要性は、ますます増している。それを最も知っているのは、CIOである。そのCIO自身から変わろうとしなければならない。そのテーマについては、次回以降で触れたい。
ますおか・なおじろう 日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを歴任。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。現在は「nao IT研究所」代表として、執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)
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