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» 2008年09月19日 08時00分 UPDATE

差のつくITIL V3理解:「IT」という名のモンスターを飼いならす魔法の書物? (1/2)

情報システムの現場でなじみの出てきたITILというキーワード。すでにバージョン3にいたり、洗練の度合いを増している。日本語版の刊行も進む中、あらためてその理念を学び業務に役立てよう。

[谷誠之,ITmedia]

運用管理の域を越えていない?  従来のITIL

 企業情報システムの運用においてIITLというキーワードが注目を集めるようになり、久しい。関連書籍も書店を賑わしている。かくいう筆者も昨年からITIL関連の記事を寄せている。ITILの考え方はISO/IEC20000という国際規格に採用され、ITサービスマネジメントという言葉も市民権を得てきた。国内では来年度から始まる新しい基本情報処理技術者試験にITILの概念が導入されるに至った。ITILという考え方の普及は、一定の成功を見せたといえるだろう。

 普及の背景には、企業や社会におけるITの役割が非常に大きくなり、その管理に限界が生じてきたからだという事情がある。従来の「運用管理」という考え方では、ITという肥大化した怪物をなだめて従わせるには、力不足なのだ。

 そこで生まれたのが、ITサービスマネジメントという考え方。ITという名の怪物は、さまざまに形を変える。ある見方をすると、ITはモノ(ハードウェアやソフトウェア)である。別の見方をすると、ITは知恵(ソリューション)である。さらに別の見方をすると、ITは資産(有形、無形を問わず)である。そして最も重要な見方は、ITは「目の前にある課題を解決するための」サービスである。この「ITはサービスである」という考え方に注目し、ITサービスが、そのサービスの提供を受ける人々(顧客)に何を提供するのか、どのように提供するのか、提供できなければどうなるのか、そして提供できないという事態を回避するためにはどうすればいいのか、ということを体系的にまとめたものが、ITILである。

 さて、一定の成功を得た従来のITILは、どちらかというと業務からの求めに応じてサービス内容を定義し、ITサービスのキャパシティや可用性、コストといったものを調整した上で(サービスデリバリ)、用意されたITサービスを日々管理していく(サービスサポート)という部分が重視される結果となった。ITIL関連の書籍は7冊(「ITIL入門」という書籍を含めて8冊という見方もある)刊行されたが、重要視されたのは「サービスデリバリ」と「サービスサポート」という2冊の書籍であった。分かりやすいといわれればその通りだが、「結局、ITILは運用管理の域を越えていない」という批判もあった。

 それだけがきっかけではないだろうが、2007年の5月に英国政府機関「CCTA(Central Computer & Telecommunications Agency)」はITILを大幅に改定した、通称ITIL V3を発表した。ITサービスと価値の提供という部分を根本から見直し、体系を再構成したのである。述べられていることが変わったわけではない(増えてはいるが)。ただ、まとめ直したのである。日本語化はやや遅れたものの、そのニュースはいちはやく日本にも伝わり、一部の熱心なユーザーは洋書を購入し、試験が英語であるにもかかわらず受験し、新たなスキームを手に入れているようだ。また2008年5月からはITIL V3 Foundationの試験も日本語化され、手の届きやすい位置に降りてきた。

コア書籍とそれぞれの関係

ITIL V3のコア書籍とそれぞれの関係 図1:ITIL V3のコア書籍とそれぞれの関係

 ITIL V3の中核となる書籍(以下、コア書籍と表記する)は5冊から成る。従来の7冊(8冊)の内容を、ITのライフサイクルの観点で構成しなおし、さらに足りない部分を追加したものと考えればよい(図1)。

 それぞれのコア書籍は、次のような目的で書かれている。

  • サービスストラテジ

ITサービスやITシステムを、組織がその業務を遂行する上で必要な戦略的資産としてとらえ、サービスマネジメントをいかに設計し、開発し、提供するかということについての手引きを提供するもの。また、ITサービスマネジメント全体に渡る方針、指針、およびプロセスの策定に役立つ手引きも提供する。図1で示したように、ITIL V3の全体の中心となる。つまり、ITサービスマネジメントの戦略と計画の根幹を担う書籍である。

この書籍で述べられていることは、従来のIITL V2で述べられていることよりも幅広く、またより事業に近い。そのため具体性に欠け、とらえどころがない書籍であるようにも見える。しかしこの書籍を読み解くことによって、ITサービスにどのような能力をもたらせばよいかということが戦略的に明らかになる。

  • サービスデザイン

業務がITに期待するITサービスの設計/開発に関する手引きを提供する。従来のITIL V2におけるサービスレベル管理、キャパシティ管理、可用性管理、ITサービス継続性管理などはここに含まれる。

  • サービストランジション

新規および変更されたITサービスをいかに適切に運用に移行させるかに関する手引きを提供する。いわば本番環境への移行にともなう中断や移行を原因とした障害などをコントロールしつつ、ITサービスを実稼働に導くための手引きである。従来の変更管理、リリース管理、構成管理などはここに含まれる。

  • サービスオペレーション

ITサービスを日々運用管理するに当たっての手引きとなる。サービスストラテジが描いたITサービスの戦略を具現化し、ITサービスが業務に対して継続的に価値をもたらす手引きとなるものである。従来のインシデント管理や問題管理はここに含まれる。

  • 継続的サービス改善

ITサービスのより良い設計、導入、および運用によって顧客に価値を提供する上での有効な手引きを提供する。いわゆるPDCAプロセスをまわすことによって、改善の努力と成果をITサービスにもたらすための方法論が記述されている。


 2008年の春から、ITIL V3の日本語版書籍の刊行がようやく開始された。そしてITILコア書籍のうち、サービスストラテジの日本語版が2008年5月にOGCによって出版されたのを皮切りに、8月25日までにすべての書籍が日本語化された。

 本稿では引き続き、連載としてITIL V3の内容を解説していく。ITIL V3では、従来のITIL同様(いや、もしかしたらそれ以上に)考え方しか述べられていない。「じゃあ、具体的にどうすればいいのさ」ということはあまり触れられていないのだ。例によって、読者それぞれの翻訳・解釈が必要なのである。教科書的なことも述べていくが、それでは「うわべをなぞった」だけの記事になってしまう。従って筆者なりにITIL V3を翻訳・解釈して書いていくことにする。それが正しい読み方とは限らない。読者はぜひさまざまな書籍や記事を見比べながら、ITILの本質を学習して欲しい。

 方針として、今回以降この連載では「ITIL V2との違い」という点での解説を、あえて避ける。ITILという考え方を原点から学ぼう、という意図である。結果としてITIL V2は、主要な書籍の中の2冊(サービスデリバリ、サービスサポート)しか注目されなかった。この2冊がIITLであるという誤った(でも受け入れられやすい)理解を払しょくするためにも、ここではあえてITIL V2を振り返らないことにする。

 筆者のイメージとしては、ITIL V3はより洗練されている。だが分かりやすい、受け入れられやすいのはITIL V2かもしれない。すでに社内でITIL V2の学習や導入を進めている組織は、あえてITIL V3に移行する必要はないと考える。新しいものが常に良いとは限らないのだだか。そのことは、ITに携わる方々であれば身をもって感じていることだろう。

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