松茸、WX、VJE――懐かしのFEPを思い出す今日から使えるITトリビア

Vistaを使い始めて何に困ったか? それは、日本語入力システムがあまりにもおバカなこと。「直前の誤変換データの送信」を何度クリックしたことか……。乗り換えようとほかの日本語入力システムを調べたら、ほとんどの製品が駆逐され、お寒い状況になっていた。

» 2008年09月20日 08時00分 公開
[吉森ゆき,ITmedia]

VistaのIMEは超プア?

 「アップグレードの必要性がない!」と多くの企業に切って捨てられてしまった悲劇のクライアントOS――Windows Vista。Windows XP の販売終了を受けて、新規PCから「消極的導入」が少しずつ始まり、多くのユーザーがVistaを使うようにはなった。いざ使ってみると、パフォーマンスは申し分ないし(PCが新しいからだ、という話もある)、使い勝手にも違和感はない。世間で言われるほど悪いOSではないと、わたしは思う。

 だが日本語入力システム「Microsoft IME」のおバカ加減は何とかして欲しい。「おバカブーム」といわれているが、生産性をいちじるしく低下させる誤変換の多さには、ヘキエキする。誤変換データを受信しているだけじゃなく、早くアップデートで対応して欲しいものだ。

 ある意味IMEは、OSのオマケ品とも考えられる。オマケに文句を言っても始まらないと、Vistaの日本語入力システムを入れ替えるべく調べてみた。すると、“京学の事実”(変換ママ。本当は「驚愕の事実」。もちろん「直前の誤変換データの送信」で送信済み)が判明した。最盛期には10数製品もあった日本語入力システムが、ことごとく開発終了になっていたのだ……。

懐かしの松茸、WX、VJE

Microsoft IME Microsoft IMEの変換効率改善は急務のはずだが……

 今から20年前。16ビットOSのDOSが最盛期だったころ、日本語入力システムは「FEP」(Front End Processor=フェップ)と呼ばれていた。これは、多くの日本語入力システムがOSの「ドライバ」として組み込まれ、キーボードで入力した文字を変換してからOSに引き渡すという前置処理の機構を採用していたためである。しかも、日本語ワープロソフトに含まれる主要機能として考えられており、ワープロメーカーは変換効率に優れたFEPの開発にしのぎを削っていた。

 例えば当時、国内無敵のシェアを誇っていたジャストシステムの日本語ワープロ「一太郎」には日本語入力システム「ATOK」が同梱されていた。それに続くシェアを持っていた管理工学研究所の「松」には「松茸」、富士通の「OASYS」には「OAK」といったように、DOSの時代は日本語ワープロとセットというのが当たり前だった。日本語ワープロ以外のアプリケーションにも対応するため、FEPを単体で開発するソフトウェアベンダーも現れ、エー・アイ・ソフトの「WX」、バックスの「VJE」などもよく使われた。

 しかし、Windowsの時代になると、日本語入力システムはFEPという扱いから、アプリケーションの一種になった。さらに、マイクロソフトがDOS/VとWindowsに日本語入力システム「Microsoft IME」(当初は「MS-IME」と呼ばれた)を標準搭載。日本語入力システムを別途購入しなくても、日本語が入力できるようになった。

 そうなると、「OSの標準をそのまま使えばいいや」ということになる。ATOK、松茸、OAK、WX、VJEなどはそれぞれWindows対応で臨んだが、徐々にMicrosoft IMEにシェアを奪われた。1990年代前半、PCユーザーの半分以上が使っていたATOKでさえ、Windowsがバージョンアップを重ねるたびに、その影は薄くなった。

日本語入力システム市場は風前の灯

 その結果、松茸は1999年、WXは2000年、VJEは2005年に開発を終了。このほかにも多くの日本語入力システムが姿を消していった。NECの「かんな」、オムロンの「Wnn」(「うんぬ」と読む)のように情報家電や携帯電話の組み込み用途に活路を見出しているものもある。今でも健在であり、毎年のように新バージョンを発売しているのは、ATOKくらいか。OAKが名前を変えた富士通の「Japanist」もあるが、5年前に発売されたJapanist 2003がいまだに現行バージョンであり、積極的な開発は行われていない(ただし、Windows Vistaには対応している)。

 一方で、オープンソースの日本語入力システムも登場しているが、いずれも存在感を示すところには至っていない。現在でも積極的に開発が進められているのは、「SKKIME」ぐらいか。

 つまるところ、日本語入力システムというソフトウェア市場はすでに風前の灯。マイクロソフトが市場を独占してしまったという点では、Webブラウザ市場と似た状況だ。だからこそマイクロソフトには、決して手を抜くことなく日本語入力システムを開発しなければならないという社会的責任を痛感して欲しいものだ。


(09/20 19:40追記) 記事公開当初、「Wnn(「うんぬ」と読む)のようにオープンソース化されたものもあった。」と記述していましたが、Wnnは商用を継続しています(FOSSとして配布されているのはFreeWnn)。お詫びして訂正いたします。

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