CRMの新潮流

値引き販売という麻薬戦略プロフェッショナルの心得(4)(1/3 ページ)

価格が一貫していない店で客は「いつ購入すればいいか分からない」と戸惑う。時々大幅な値引きをする店では「セールのときだけ買う」と考える。値引きという麻薬について考える。

» 2008年09月25日 15時30分 公開
[永井孝尚,ITmedia]

 戦略の策定と実践は成功するCRMの原点です。本連載では、ビジネスの現場で戦略を策定し、実施する場合に必要な考え方をご紹介しています。(本連載は「戦略プロフェッショナルの心得――ビジネスの現場で、理論だけの戦略が実行できない理由」からの抜粋です)

 第1回のバリュープロポジション第2回のキャズム第3回の模倣戦略から脱却に続き、第4回目は、価格戦略を考える際の落とし穴をご紹介します。

 「価格競争が激しい。低コスト構造に変えて競争に打ち勝たなければならない」という議論をよく見かけます。これは正しいでしょうか。

 価格とコストに対する考え方の違いについて、ソフトバンクモバイルの松本副社長が2006年10月6日のアイティメディアBusinessMedia誠の記事「携帯電話ビジネスのプロは、なぜソフトバンクに移ったのか──ソフトバンクモバイル松本氏に聞く(前編)」 で語っているのでご紹介します。

 「他社やユーザーはいま、ソフトバンクモバイルが価格競争を仕掛けるんじゃないかと固唾を飲んで見ていると思いますが、価格とコストは違いますね。価格は政策であり、コストは事実です。前者は取るべき戦略によってはコストを下回ることもあるし、利益を取ることもある。これは経営であり、マーケティングです。ここに私は関与しません。コストを下げるための努力をしっかりとしていれば、経営戦略の幅が持てます。ですからわたしは、ソフトバンクモバイル全体に高品質なものをローコストで実現する環境を作っていきます」(松本氏)

 松本氏も語るように、本来価格とコストは別々に考えるべきものです。価格競争激化への対応方法は、単純に値下げだけではありません。付加価値を上げる方法、別セグメントにフォーカスする方法、市場から撤退する方法など、ほかにも選択肢はあります。

 このような価格競争への対応策とは関係なく、低コスト化は企業努力として常に継続して行っていく必要があります。わたしたちは価格とコストの両者を関連付け、場合によっては一緒にして考えがちですが、松本副社長は、両者を分けて考えていく重要性を指摘しています。

 価格は戦略によって決まるもの、コスト構造は事業の土台を支えるものと考えるべきでしょう。この価格戦略、一貫性が大切です。個人的な経験ですが、このことを痛感した経験をしました。わたしの妻が、ある衣料ブランドをとても気に入っていました。品質もデザインも良いモノでした。このブランドはデパートなどの直営店で売っていましたが、1点だけとても気になることがありました。

 価格が一貫していないということです。

 例えば、ある店で正価を払って購入した同じ日に、別の店で全く同じ商品が7割引で売られていたことがありました。この商品はアウトレットものではなくシーズンもので、かつ両方とも正規店でした。こうしたことが何回か続きました。

 自分でこのような経験をするとよくわかりますが、どんなに気に入った良い商品でも、このように価格が一貫していないことが続くと「買って良かった」とは思えなくなります。「実はほかの店でもっと安く売っているのではないか」と考えてしまい、正価で商品を買う気持ちが起こらなくなるのです。

 まもなく、このブランドは日本から撤退しました。魅力的な他ブランドが上陸して競争が激化したなどいろいろと事情があるとは思います。ほかにもわたしたちが知り得ない会社内部の問題もあったのでしょう。しかし顧客の立場で考えると、ブランドの価格戦略が一貫しておらず、顧客が正価で買わなくなってしまった、ということが、客離れをおこして撤退に追い込まれた大きな要因の1つだったのではないかと思います。

 考えられる状況として、各店舗では仕入れ値と売れ行きを考慮して、その店の個別判断で商品の値下げを行っていたのではないでしょうか。つまり「局所最適」です。しかしブランドマネジメントの観点では、全店舗で統一した価格戦略を持ち、同一商品はあるタイミングでは同一価格とする、つまりブランド全体で「全体最適」を徹底するべきだったのではないかと思います。

 代理店経由での販売もありますので、チャネル戦略との整合性も考慮する必要があります。一貫した価格戦略はまさに企業の生命線です。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ