さよならフロッピー――記録メディアの移り変わり今日から使えるITトリビア

データを入れて持ち運ぶ。そんな役目を担うリムーバブルメディアの中でも、常にPCの進化とともにあったフロッピーディスク(昔は“ディスケット”とも呼んでいた)が、静かにその役目を終えようとしている。

» 2008年10月11日 11時38分 公開
[吉森ゆき,ITmedia]

一世を風靡した記録メディア

 あなたがはじめてコンピュータに触れたとき、どんな記録メディアを使っていただろうか。年齢がバレてしまうが、筆者がはじめて触れたコンピュータのメディアは、カセットテープだった。データは「音」として録音されており、テープレコーダーを使って読み書き(録音)していた。ラジオを通じてゲームのプログラムが放送される、といった時代だった。わたしが通っていた大学の近くには「貸しソフト屋」があり、ソフトが入ったカセットテープをレンタルしていた。そしてこの貸しソフト屋こそ、創業して間もないソフマップだった。

テープ 製品の性格は大きく異なるが、企業システムの世界ではバックアップ用途などにテープは現役だ(IBMサイトより)

 当時はまだ、8ビットの時代。パーソナルコンピュータ(PC)という言葉でコンピュータを呼ぶようになったのは、ちょうどこのころのこと。「マイコン」と呼ぶ人も多かった。これらの8ビットマシンはビジネスに使われることはなく、完全にホビーユースだった。企業システムで使われているコンピュータでは、穿孔テープやパンチカードがまだ存在していた、そんな時代だった。

 8ビット全盛時代後期の1980年代前半には、最新のリムーバブルメディアとしてフロッピーディスクが使われ始める。フロッピーディスクは、1970年ごろにIBMによって開発されたものであり、最初の容量はわずか128KB、大きさは8インチもあった。さすがにこのサイズのものはPCで使われることがなかったが、1970年代後半に生まれた5.25インチのフロッピーディスクによって、以後約20年にわたるフロッピー時代が幕開けることになる。

時代は5.25インチから3.5インチへ

 フロッピーディスクがメディアにおけるスタンダードの地位を確固たるものにした要因は、16ビットPCに採用されたことだった。当初の16ビットPCは、5.25インチのフロッピーディスクドライブを標準で備え、そこにOSの入ったフロッピーディスクを差し込んでブートさせていたのだ。ハードディスクはまだ生まれたばかり。あまりにも高価であり、PCに使えるようなものではなかったので、当時のPCにとってフロッピーディスクは唯一の外部記憶装置だった。

 ビジネスの現場にPCが普及し始めるのも、このころ。日本では、NEC PC-98シリーズがデファクトスタンダードへの道をひた走っていた。はじめての32ビットPCが登場するころには、5.25インチのフロッピーディスクを標準で2台搭載するものが主流になり、一方にOSとアプリケーションが入ったディスクを、もう一方にデータが入ったディスクを入れて使うことが一般的だった。このころの5.25インチフロッピーディスクは、容量が1.2Mバイトの2HD(両面高密度)と呼ばれる規格のディスクが主流だった。

 なお、この当時、フロッピーディスクには幾つもの呼び名があった。大学でIBM 5550を使っていたわたしが最初に教わったのは「ディスケット」という呼び名だった。これは、IBMを中心に米国でよく使われていた単語だ。日本では、JIS規格などに「フレキシブルディスク」という呼び名も使われていた。

 5.25インチが誕生してからほどなくして、3.5インチのフロッピーディスクも誕生した。8インチや5.25インチのフロッピーディスクとは違い、3.5インチのフロッピーディスクはハードカバーのジャケットを身にまとい、磁気記録面を保護するシャッターがあった。この3.5インチフロッピーディスクは、ソニーが中心となって開発したもの。当初は、8ビットPCの最終形態であるMSX、GUIを備えた新しいコンピュータとして注目されたアップルのMacintoshなどに採用されたが、次第に16ビットPCや32ビットPCでも主流になっていく。

容量の限界と光メディアへのシフト

 IBMとマイクロソフトからDOS/Vが発表され、Windows 3.1から始まる本格的なPC/AT互換機時代になると、3.5インチのフロッピーディスクが完全に主流となる。ただし、3.5インチのフロッピーディスクは、PC/AT互換機では1.44Mバイト、PC-98シリーズでは1.2Mバイトと相互に互換性がなかった。そこで、共通に読み込み可能な720KBの2DDフロッピーディスクがデータの受け渡し用途に使われることも多かった。また、ファイルシステムが異なるMacintoshとPCの間でデータをやり取りするために、DOS上でMacフォーマットのフロッピーディスクを読み書きできるアプリケーションなども誕生し、ネットワークが十分に普及する前のオフィスでは大活躍だった。

 ところが、ハードディスクの本格的な普及と、データの大容量化が進むにつれ、フロッピーディスクは容量の面で不利になっていく。1990年代の後半になると、フロッピーディスクの置き換えを狙ったスーパーディスク(LS-120)など、3.5インチのフロッピーディスクとほとんど同じ外形の大容量フロッピーディスクが登場する。また、フロッピーディスクと同じく、磁気媒体をジャケットでまとったアイオメガのベルヌーイディスク、その発展系のZipが登場する。

Zip製品サイト Zipは現在でも生産、販売されている。しかし現在、「じっぷ」といえば多くの人は、圧縮ファイルを思い浮かべるだろう……

 容量100MバイトのZipだけはそこそこ普及した(90年代後半、Power Macintoshにも標準搭載されていた)が、大容量フロッピーディスクが市場に広く受け入れられることはなかった。こうしたフロッピーディスクに代わってリムーバブルメディアの主流になったのが、CD-R/RWやDVD±R/RWなどの光ディスクだった。さらに最近は、USBメモリがリムーバブルメディアのスタンダードになってきた。一部のソフトウェアパッケージでは、CD-ROMやDVD-ROMではなく、USBメモリがメディアとして採用されるまでになっている。

 急速に衰退したフロッピーディスクは、今ではほとんど使われることがなくなった。1998年に当時世界的にもトップクラスのシェアを持っていた花王がフロッピー事業の撤退を発表してからディスク生産メーカーは減り続け、2008年には三菱化学メディアも生産を終了すると発表した。ソニーや日立マクセルはまだ細々と続けているが、市場で果たすフロッピーディスクドライブの主な役割がOEM版(DSP版)Windowsを買うための抱き合わせ商品になってしまった今、フロッピーディスクが消えるのは時間の問題かもしれない……。


お詫びと訂正:当初「ソニーの2DDフロッピーディスク」として誤った写真が掲載されていました。お詫びの上削除いたします。

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