本実験では無線LAN以外の電波発生源として電子レンジとBluetoothを用意したが、残念ながらこれらはAzimuthへは組み込めない。そこで、東陽テクニカのセミナールームに図4のような実験環境を用意し、実験を行った。
ここまでの実験ではAzimuthを使用して無線LANカードが受信した単位時間当たりのフレーム数を測定してきたが、無線LANクライアントとして普通のPCを使用する場合、単位時間当たりに受信したフレームを測定することは難しく、また無線LAN上での測定は正確でない可能性がある。そこで、図4に示すように受信したフレームをイーサネット上にルーティングするように工夫して、イーサネット上で測定を行った。なお、事前に無線LANクライアントが十分余裕を持ってルーティングできることは確認済みである。
実験の概要はリスト2のとおりである。1/6/11chに対してそれぞれ実験を行い、チャンネルの違いによる影響の差も調査した。測定は1回の試行を300秒間とし、その間に測定されたフレームをカウントして単位時間当たりのフレーム数を算出した。また、Bluetooth通信は2台のPCにBluetooth USBアダプタを装着し、ファイル転送を行うことで電波を発生させた。
電子レンジ:スイッチON
Bluetooth:ファイル転送による通信
3回の試行による平均値をグラフにしたものが図5である。また、それぞれの測定値を表にしたものが表1だ。11chでBluetooth使用時の平均通信速度が干渉電波なしの場合よりも速くなっているが、これは干渉電波なしの試行で極端に通信速度が遅いものがあったためであり、実際にはそれほど大きい差は見られなかった。また、電子レンジの場合には試行ごとにばらつきが大きく、2割から4割程度、受信できたフレームが減少した。チャンネルごとで比較すると、特に11chが大きな影響を受けていることが分かる。
チャンネル | 試行 | 干渉電波なし | 電子レンジ | Bluetooth |
---|---|---|---|---|
1ch | 1回目 | 2387 | 1882 | 2337 |
2回目 | 2397 | 2121 | 2321 | |
3回目 | 2400 | 2069 | 2320 | |
平均 | 2395 | 2024 | 2326 | |
6ch | 1回目 | 2259 | 2047 | 2185 |
2回目 | 2263 | 1802 | 2088 | |
3回目 | 2287 | 1584 | 2147 | |
平均 | 2270 | 1811 | 2140 | |
11ch | 1回目 | 2162 | 1298 | 2167 |
2回目 | 1969 | 1571 | 2261 | |
3回目 | 2141 | 1166 | 2136 | |
平均 | 2091 | 1345 | 2188 | |
次に、電子レンジのスペクトラム(図6)を見てみよう。電子レンジのスペクトラムでは11chに相当する周波数帯にパワーのピークがあることが確認できるが、これが結果に関係していると考えられる。また、測定時の最大値(上のライン)と平均(下のライン)が示されているが、この間に開きがあることも分かる。これは、電子レンジが常に電波を出すのではなく、電波のON/OFFを繰り返していることを反映していると思われる。ただし、出力や電波の漏れ具合、発するスペクトラムが同じというわけにはいかないので、一概にすべての電子レンジで同様の結果となるとは限らない。
また、Bluetoothでは周波数ホッピング(一定の周期で搬送波の周波数を切り替えて通信を行う技術)を用いているため、スペクトルは図7のようにくしの歯のようになる。こちらは無線LANで使用する周波数帯のほぼ全体にピークがかかっているものの、測定結果からはBluetoothによる干渉の影響はほとんど認められなかった。
今回は無線LANの干渉についてさまざまな実験を行った。無線LAN同士の干渉では、条件によってはほとんどフレームの送信ができないケースも出てきたので、少々驚かれたかもしれない。
無線LAN同士の干渉について今回行った実験では、実験結果の考察を容易にするために試験対象を単純化している。無線LANシステムは2セットだけ用意し、生成されるフレームはアクセスポイントから無線LANクライアントに送信されるものだけである。しかし、現実の世界では多くの無線LANシステムが存在し、アクセスポイントに何台もクライアントが接続しているので非常に複雑だ。
さらに、例えばファイルサーバから無線LANクライアントがファイルをダウンロードするなど、実際の通信ではクライアントからTCPのACK*が返るため、アクセスポイントから無線LANクライアントへ完全な一方通行、という通信はほとんどない。また、TCPなどの上位層のプロトコルがパフォーマンスに与える影響も考慮しなければならないので、事態はより複雑になる。
ほかにも、実験ではアクセスポイントから無線LANカードに対して可能な限り大量にフレームを送信するようにセットアップしているが、現実にはこのような状態は常に起こっているわけではない。
このように、実験結果は特殊な環境でテストしたものなので、必ずしも現実世界で得られるパフォーマンスを予言するものとはいえない。しかし、実験結果が無線LANの持つある特性を表しているのもまた事実である。実験からは無線LAN間の距離やチャンネルのずれ方が少し変わるだけで、パフォーマンスが大きく変わることが分かった。よって、実環境でもこまめなチューニングによってパフォーマンスを大幅に改善できる可能性がある。「無線LANのパフォーマンスが悪い」という状況になっても、「電波は目に見えないから」とあきらめず、さまざまな試行錯誤やツールを使った測定などによってパフォーマンス改善にトライしてはいかがだろうか。
さて、前回、今回と無線LANについて理論的内容に基づく実験を行ってきたが、次回は実環境における無線LANを測ってみよう。無線LANの電波は実際にはどのように伝搬しているのか、また障害物によってどのように影響を受けるのだろうか。実際に測定する。
TCPの通信を確立するために、通信を行うクライアントとサーバ間でやり取りされる
パケットの1つ。
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