日本一清潔な女子トイレがニッチなビジネスチャンスを生み出した――羽田空港デジタルサイネージ最前線(1/2 ページ)

羽田空港は355ブースの女子トイレにデジタルサイネージを導入し、広告やインフォメーションの配信を始めた。清潔で落ち着ける空間を広告配信の格好の場所と見立て、ターゲットを女性に絞った広告を配信できる。女性向けの製品を扱う企業の注目も集めそうだ。

» 2008年12月15日 08時30分 公開
[藤村能光,ITmedia]

 羽田空港の第1/第2ターミナルにある女子トイレに、広告やインフォメーションを配信するデジタルサイネージ(電子看板)が設置された。65カ所、合計355のブースに7インチの液晶ディスプレイを設置し、2分間の映像コンテンツが流れている。

 リラックスして自分だけの時間を過ごせる空間で、利用者の目線をディスプレイに集めることができる。トイレというニッチな空間の特性を生かした広告配信に利用者からの評判は上々。日本中から訪れる女性の乗客に的を絞った製品を訴求できるとして、広告を出稿する企業も増えてきそうだ。

女子トイレのデジタルサイネージ1女子トイレのデジタルサイネージ2女子トイレのデジタルサイネージ3 羽田空港の女子トイレに設置されたデジタルサイネージ。床下95センチに7インチのディスプレイを設置し、便座に座ったときにちょうど視界に入るようにしている

「トイレに入ると何か読みたくなる」が着眼点

 「トイレに入ると、普段は読まないような雑誌でもつい手にとってしまう」。このビジネスモデルは、デジタルサイネージの制作を手掛けたモシカの福井喜朗専務取締役のふとした思いつきが始まりだった。

 アイデアを思いついた2003年ごろ。それを基に紙のポスターをトイレに張るというビジネスモデルを作り、外食店やホテル、コーヒーショップに売り込んだ。だが「トイレに広告を掲載することにネガティブなイメージを持っていた企業が多く、食いつきは悪かった」(福井氏)。

 2007年に入り、専用の端末から映像や広告をリアルタイムに配信するデジタルサイネージを販売促進に使う企業が出てきた。「今なら広告媒体の設置場所として、トイレの価値を理解してもらえる」。福井氏の頭にはまだ誰も開拓していないビジネスモデルが芽生えつつあった。

日本一きれいな女子トイレがビジネスに結びついた

image 世界各国の名だたる空港の中で2位の評価を受けた羽田空港のトイレ

 トイレを広告配信の場所にするためには、清潔であること、利用者が多いことが必須となる。福井氏が提案先として絞り込んだのは羽田空港。365日定時運行を行い、年間6600万人が利用する。英国の調査会社が実施した各国空港のトイレの潔癖性において、羽田空港は世界2位の評価を受けている。日本の空港ではトップだ。

 羽田空港では今年に入り、事務員用を含むすべてのトイレを温水洗浄や乾燥機能が付いたシャワー式トイレに変えている。「顧客満足に力を入れているこのトイレ空間なら、デジタルサイネージの広告を価値として利用者に伝えられる」(福井氏)と踏んだ。

 稼働前に試験期間を設けた。トイレで映像が流れることを利用者が受け入れてくれるか心配だったからだ。職員100人に実際に使ってもらったところ、「満足度は98%」(福井氏)と予想以上の評価を集めた。「思わず見入ってしまう」「空港のおみやげをアピールできる」などの肯定的な意見が出てきた。

 羽田空港は1日8回以上トイレを清掃する。常に清潔に保たれた空間は、トイレを使う人にやすらぎを与える。「トイレという空間にそぐわないと考えていた食品の映像も好評だった」(日本空港ビルデングリテール事業本部の片桐康幸課長代理)裏には、顧客満足を追求した徹底的な空間作りの仕組みが隠れている。

 試験期間を経て、12月1日から355のブースで映像を流している。12月31日まではシステムなどの見直しを図り、1月から本稼働を開始する予定だ。コンテンツは「韓国の観光局のPR」「警視庁の振り込め詐欺防止」「JALのコマーシャル(12月4週目以降に公開予定)」と「忘れ物に注意してください」という羽田空港側のインフォメーション。各コンテンツ30秒で構成した2分を1枠として、繰り返し配信している。

羽田空港からのインフォメーション振り込め詐欺防止の呼び掛け 羽田空港からのインフォメーション(左)と、振り込め詐欺防止を呼び掛けるコンテンツ(右)

 コマーシャルの配信は1枠当たり月額450万円。今後は消費財や日用品、化粧品、カードなど、女性をターゲットにした製品の広告を獲得する考えだ。空港側からの情報提供として、「地震や交通トラブルなどの緊急情報や、聴覚に障害を持つ人向けのコンテンツなどを拡充する考えもある」(片桐氏)という。

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