遅い、不安定、運用管理が大変、最適化のチューニングが面倒――。VDI(仮想デスクトップ)の導入には、こうした“不平不満”が絶えないイメージがつきまとう。実際のところ、導入したにもかかわらず使わなくなってしまったという話を聞くことも少なくない。
そんな、“死に所が多い”VDIの大規模導入に踏み切ったのが、リクルートグループだ。
主にライフイベントとライフスタイルという2つの領域で事業を展開する同グループでは、社員が業務に利用するPCを2018年3月からVDI化。全国約700拠点、4万5000台規模の導入を実現した。
VDIを不満なく使ってもらうために、リクルートテクノロジーズはどのようにプロジェクトを進めたのか。同社ITソリューション本部のインフラソリューション部でグループマネジャーを務める石光直樹氏が、セミナーの講演で振り返った。
世の中では今、「働き方改革」が話題となっており、リクルートグループも例外ではない。ツールを活用し、さまざまな働き方を望む従業員が柔軟かつ効率的に働ける環境を整える取り組みを数年前から進めてきた。効率よく働けるようになれば、より自由な時間が生まれる。その中からこれまでにない新しいアイデアが生まれ、ひいてはそれがイノベーションにつながる――と考えてのことだ。
こうした取り組みに伴い、ITシステムの変革も求められるようになってきた。働きやすくするための要件として上がってきたのは、出先でも自宅でもどこにいても社内と同じ環境を使えるようにすることと、それに伴うセキュリティの向上。そしてPCの運用コストの問題だ。「当時は全国の700拠点で3万台のPCが稼働しており、さらに年間3000〜5000台のペースで増加していた。故障対応や新規PCの納品といった物理的な管理に課題を抱えていた」と石光氏はいう。
こうした要件を満たす環境を検討した結果、行き着いたのがVDIの導入だった。「ネットワークからVDIにつなげば、どこからでも社内と同じ環境を提供でき、データが端末に残らないので安全性も確保できる。さらに端末の中身が仮想化され、データセンターに集約されてVDIサーバ側で集中管理できるようになるため、運用コストの削減も見込める。この3つのメリットを考えてVDIにしようと決断した」(石光氏)
導入に当たっては、全社員に同一のVDIを提供するのではなく、用途に応じて「標準VDI」と「セキュアVDI」という2つのVDI環境を用意した。標準VDIは文字通り標準的な環境で、これまで利用していたPCと同等のセキュリティ実装とし、約3万台を用意した。もう1つのセキュアVDIも、これまた文字通りセキュリティを重視したVDIだ。顧客情報のように決して外部に出してはならない情報を扱うためのもので、アクセス先を限定し、かつ独自の強固なセキュリティ実装を施している。標準VDIとセキュアVDIとの間でデータをやりとりする場合は、上長の承認を経て、セキュアゲートウェイを介してやりとりする仕組みだ。
「全員に標準VDIを提供し、セキュリティレベルを高める方法もあったが、さまざまなサービスを素早く市場に出していくためには端末の自由度が必要になる。そこで標準VDIをセキュリティでがんじがらめにするのではなく、環境を分けることにした」(石光氏)
また、VDIには「サーバ共有」を始めとするさまざまな方式があるが、リクルートグループでは、一人一人に専用のVDI環境を提供する「フルクローン」方式を採用した。これも、利用者になるべく自由な環境を提供するための選択だ。
「フルクローンは1人に1つVDI環境を用意するのでコストがかさむ。特にストレージ基盤にお金がかかると思っていたが、最近は重複排除技術のようにストレージを効率的に利用できる技術があるため、これを活用すればコスト面でも問題ないだろうと考えた」(石光氏)
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