リクルートは大規模VDI導入の“死に所”をどう解決したのか “意外な盲点”との戦い(2/3 ページ)

» 2018年06月28日 07時00分 公開
[高橋睦美ITmedia]

妥協せずに徹底的に行った基盤検証と選定

 導入に当たって同社では、「基盤検証をとことんやる」「製品選定に妥協しない」「ネットワーク改善」の3点にこだわってプロジェクトを進めたという。

 基盤検証には特に力を入れた。会議室をつぶして検証環境を用意しただけでなく、必要とあれば米国に飛び、直接ベンダーに出向いて検証も行ったという。「プロジェクトの初期段階から検証チームを作り、特にボトルネックになると予測したストレージを中心に検証した。VDIは基盤が重要なので、その選定は時間をかけて行うべき」(石光氏)

 ソリューションには、以前からVMware vSphereを利用しており、親和性が高かったことから、「VMware Horizon」を採用。大規模環境での実績があり、ユーザーの声を聞き入れてくれる体制があることや、サポートが充実していることがポイントだったという。必要な要素をあらかじめ統合したコンバージドインフラという選択肢もあったが、「われわれの環境は規模が大きかったことに加え、1つ1つ自分たちで検証しながらシステムを作りたかった」(同氏)ことから、自力で組み合わせる形にした。

 こうして、約2年半をかけてVDI導入を完了し、運用フェーズに移行。今は社員の増加に伴う基盤の増強とWindows 10の検証などを進めているという。

「あれ、このままじゃ使えない」、見落としていたのは……

 さまざまな仮説を立て、起こり得る問題を想定しながら進めてきたリクルートグループのVDI導入プロジェクトは、想定通りうまくいった部分と、予想もしなかった部分の両方があった。

 石光氏が「ユーザー目線は持っていたつもり」という通り、ネットワークの切断やパフォーマンス低下といった問題が生じてユーザーが迷惑を被らないよう、製品やインフラについては妥協せずに構築した。しかし、ITシステム自体はきっちり作り込んでいたものの、問題はそれ以外のところにあったことがレビューで明らかになった。

 「このままいけば、ITとしてのVDIシステムはできるが、ユーザーはVDIを利用できないのではないかという話になった」(石光氏)

 例えば、既に社員に割り振られているIDとVDIをどのようにひも付けるのか。そもそもVDI利用申請の仕組みはあるのか。セキュアVDIを利用するなら、データ転送時に承認をもらう「上長」をどう設定するのか。組織変更があったらどうするのか――。こんな具合に、実運用に必要なさまざまな手続きを支援するサービスがないことが分かったのだ。

 「安定したパフォーマンスのいいシステムを作るところばかりに気をとられ、サービス面に考えが及んでいなかった」(石光氏)

 同時に、「そもそもVDIとは何か」「セキュアVDIと標準VDIはどう違い、どの業務をどちらですべきなのか」といった事柄をユーザーに説明し、サポートする体制が不十分なことも分かってきた。

Photo 利用のライフサイクルに合わせた仕組み作りとサポート体制が不十分なことが分かった

 そこでまず、「VDIをサービスとして提供しなければいけない」という基本に立ち返り、プロジェクト内に横断タスクフォースを作って必要な仕組みを洗い出し、実装していった。

 「ユーザー対応が足りない部分については、各社でVDIの導入を担当する総務部門などを支援する『各社推進ユニット』と、その先にいる一般ユーザーからの問い合わせに対応する『広報ユニット』という2つのユニットを新設した」(石光氏)

 VDIの申請から払い出し、IDシステムとの連携、課金請求や異動・退職対応といった一連のシステムを洗い出して構築するのは非常に大変だったと石光氏は振り返る。カットオーバーには何とか間に合ったものの品質を犠牲にした部分もあったといい、「われわれのように途中で気付いてやり直すのではなく、プロジェクトの初期段階から検討するのがいいと思う」と述べた。

Photo サポート面では導入担当とユーザー向けの支援体制を構築
Photo 利用申請からサービスの払い出し、請求までを自動化するシステムも構築した

 ユーザー対応も、専用Webページを用意して情報を提供する形で進めていった。だが、実際にVDIへの移行が進み、さまざまなアプリケーションを使い始めるといろいろと問題が発生し、ユーザーからは「あれを何とかしてほしい」「こうしてほしい」と声が挙がる。限られたリソースでそれらの声を整理し、対応するため、プロジェクトではエスカレーションフローを定めるとともに、新たに「ステアリングコミッティ」という組織を作り、どの追加要望に応えるか、応えないかを判断することにした。

 「ただでさえ移行自体で大変なときに、現場がそれらを考えていると負荷がかかり、追い込まれてきてプロジェクトもうまく回らなくなる。そこで、要望事項は全てステアリングコミッティに上げて、そこでやると決めたものだけに対応することにした」(石光氏)

 併せて、各ユニットや上層部も含めてパフォーマンスに関する問題を集中的に扱う「さくさく定例」という場を設け、性能関連の問題を検討しては対策を立て、実行していった。

 実際に、移行中にユーザーから寄せられた問い合わせ内容を分類してみると、障害に関する問い合わせはそれほど多くなかった一方で、サービスの仕様や申請・運用フロー、セキュアVDIと標準VDIの使い分けに関する問い合わせが多かったそうだ。「こういうところをきちんとユーザーに情報提供する仕組みや仕掛け、体制が重要だ」(石光氏)

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