顧客要望へ応える姿勢――「やります」と「やってみます」の違いを知る差のつくITIL V3理解(1/2 ページ)

連載も少しずつ、具体的な方法論へ入っていく。今回は「戦略」を扱う。体系に従い戦略を立案することで、顧客に対しとるべき行動が見えてくる。

» 2008年12月17日 08時00分 公開
[谷誠之,ITmedia]

 今回は「戦略とは何ぞや?」という部分にフォーカスを当てる。筆者の手元にある大辞林によると、戦略とは「長期的・全体的展望に立った闘争の準備・計画・運用の方法」となっている。つまり、“おおざっぱに進む方向や方針を決めたもの”である。自分たちの進むべき道、進む方向、方法、目的などを明らかにし、組織全体が理解して1つの方向に進むための目安にするものだ。

 そこに具体的なものはなくてもよい。具体的な方策は、戦略ではなく“戦術”だ。戦術は競合他社、社会性、経済、市場の成熟度などの影響を受けてその都度変わっていくが、戦略はそう簡単に変わるものではない。戦略は分かりやすいほどよい。そして、戦略を一言で表したものを、スローガンと呼ぶ。

 この「戦略」を、前回の記事で挙げた「4つのP」に当てはめて考えてみよう。

「観点(Perspective)」としての戦略

 以前も挙げたが、「No.1のサービス・プロバイダになる」とか「オンリーワンのサービス・プロバイダになる」といったようなものがこれに当たる。事業に対する哲学のようなものである。それは大抵、顧客に向いている。顧客に対してどのような立場でありたいか、という思いがその中に込められている。

 観点ベースの戦略は、抽象的である。某牛丼チェーン店のスローガンである「うまい、早い、安い」というのもこれにあたるだろう。サービス・プロバイダとて例外ではない。簡潔で明快な観点は、そのサービス・プロバイダが提供する価値の種類と内容を明確に表現する。そしてサービス・プロバイダを構成するスタッフの行動規範にも大きく影響を与える。

 観点ベースでの戦略を確立したら、次のテストを行うとよい。

  1. その戦略は短期的(3年以内)な戦略か? 中期的(3〜5年)な戦略か? 長期的、あるいは普遍的な戦略か?
  2. その戦略は明確で覚えやすいか?
  3. その戦略には、自らの行動を促進し手引きする力があるか?
  4. 戦略の範囲内で自由に試行できるか?(懐の深い戦略か?)

「ポジション(Position)」としての戦略

 観点ベースでの戦略が決まったら、それを今度は市場での競争原理に焦点を当てて考える。自分たちがいる市場はどこなのか、その市場の中のどういった位置付け(立場)でありたいか、ということである。例えば「No.1のサービス・プロバイダになる」という観点ベースの戦略を立てたら、それをどういったポジションで実現するか、ということを考えるのである。

 ポジションの一般的な種類には、3つある。

  • 種類ベース

顧客の特定ニーズに焦点を当て、そのニーズに特化して深い満足を提供する考え方。ある特定の分野の、高度で専門的な要求を満たすのが目的。例えば給与計算に特化したサービス・プロバイダとか、WAN接続に特化したサービス・プロバイダといった位置付けである。ある特定の専門的なニーズに対して深い満足を与えると成功とみなされる。

  • ニーズベース

顧客が抱えているニーズの大半、またはすべてに対応することが狙い。ニーズ主導であり、個々の機能に専門的に言及はしない。また顧客セグメントを絞り、そのセグメントに位置する顧客に幅広いサービスを提供できれば成功とみなされる。例えば、運送業に特化したサービス・プロバイダ、というものが考えられる。運送業に特化したインフラストラクチャやアプリケーション、サービス、文書などを持ってサービスを提供する。ただし、運送業以外のセグメントにはサービスを提供しない、というスタイルである。

  • アクセスベース

顧客の規模や場所を狙うパターン。ある特定の地域をターゲットにする場合もあるし、ある特定の顧客構造(例えば「小売店」とか「倉庫」とか)にフォーカスする場合もある。


 いずれのタイプでも、対象となるセグメントの顧客をよく理解し、自分たちがどのような価値をもたらすことができるのかをはっきりさせる必要がある。その上で、戦略やスローガンをより現実的なものにしていくのである。

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