ITを道具ではなく、レストランのような「サービス」として考えてみた差のつくITIL V3理解(3/3 ページ)

» 2008年12月05日 08時00分 公開
[谷誠之,ITmedia]
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サービス戦略の定義と構成要素

 さて、ビジネスがその目的を果たして利益を得るには、適切なビジネスサービスが提供され続けなければならない。そのためには、どんなビジネスサービスをだれに対してどのように提供するか、という戦略が欠かせない。

 同様に、適切なビジネスサービスが提供され続けるためには、適切なITサービスが提供され続けなければならない。そのためには、どんなITサービスを、だれに対してどのように提供するか、という戦略が欠かせない。その戦略に基づいて、どのようなサービス資源が必要なのか、ということを設計するのである。

 どのような戦略にも何がしかの方法論がある。ITにおけるサービス戦略もまた然りである。サービス・プロバイダは、様々な制約を受けつつ、その制約の中で与えられた達成目標を実現しなければならないというジレンマを抱える。そのジレンマの中で場当たり的に顧客の要望に応えていては、短期的にはうまくいっているように見えても、長期的にはきっと失敗するだろう。戦略を考える際には、次のように相反する事柄をバランスよく考え、行動する必要がある。

  1. どんな自由があり、どんな制約があるか
  2. どんな優位性があり、どんな欠点があるか
  3. 過去にどのように対応し、将来をどのように予測するか
  4. 変化にどのように適用し、将来の変更をどのように計画するか

 ITIL V3において、サービス戦略の基本的な3要素は、以下のとおりである(図3)。

サービス戦略の3つの要素 図3:サービス戦略の3つの要素
  • 市場での焦点とポジション

自組織が、どのような市場を狙っているかということと、その市場において自組織のポジションはどこであるか、ということを考える。大きな市場なのか、それとも誕生したばかりの市場なのか。その市場において自組織はそれなりの地位を確立しているのか、それともこれから参入していくのか。ITサービス・プロバイダに当てはめると、例えば社内で利用する顧客管理データベースをどのように設計・導入・運用するのか、ということを考える際に役立つ。自組織にノウハウがあるかどうか、ノウハウがなくても始める(新規参入)のか、それとも外部のサプライヤに任せるのか、ということを決める試金石となる。

  • 独自能力

サービスの提供には、サービス資産(リソースや能力)からサービスという価値を創出する部分と、その創出した価値を適切に提供し続けるという部分に関して高い能力が必要になる。これらの能力をどの程度持ち合わせているか、足りない部分は何か、勝っている部分は何か、ということを明確にする。言い換えれば、外向けには他者(他社のサービス・プロバイダや外部サプライヤ)とどのような差別化ができているかということと、内向けにはどの程度サービスの提供能力(組織やプロセスなど)が単純化されているか、ということである。

  • パフォーマンス構造

顧客に最終的に提供するものは、価値のあるパフォーマンスである。サービスを提供することでできないことができるようになったとか、まる1日を要していたことが30分でできるようになったとか、コストが20%削減できた、といったビジネス上の価値を提供することが、最終目標である。サービス資産から創出したITサービスが正しくパフォーマンスを上げているか、サービス・プロバイダ側の自己満足に終わっていないか、パフォーマンスのさらなる向上と改善のためにどのような工夫をしているか、といったことが、顧客に対してよりよい価値を提供し続けることへの基本となる。


 また、戦略には4つのPが必要だ、という考え方もある(図4)。

サービス戦略の4つのP 図4:サービス戦略の4つのP
  • 観点(Perspective)

ビジョンとか、方向性である。例えば「No.1のサービス・プロバイダになる」とか「オンリー・ワンのサービス・プロバイダになる」といったようなものである。そして、それを顧客に示すことも重要である。社内の情報サービス部門だからといって、競争のない世界にいると思ってはいけない。社外によりパフォーマンスの高いサービスがあれば、企業は「コスト削減」という名分でリストラしかねない。

  • ポジション(Position)

組織の明確な立場を示す。例えば「高価格・高品質」なのか「リーズナブルだけど品質そこそこ」なのか。「特定の分野におけるスペシャリスト」なのか「広く浅くなんでも扱うゼネラリスト」なのか。提供する価値は、有用性と保証のどちらにより重きをおいているか。もちろん、顧客のニーズを無視してはいけない。

  • 計画(Plan)

「現状」から「あるべき姿」に移行する手段を表す。高品質なものを(または低コストのものを)どのようにして提供するか、という部分を明確にすることでもある。

  • パターン(Pattern)

長期にわたる一貫した意思決定と行動を表す。自組織が決めたポジションを長きに渡って貫きとおす、言い換えれば高品質なもの(または低コストなもの)をいかにして継続的に提供し続けるかといった枠組みを提供する部分である。


 このような書き方をすると、「まるで企業が顧客に対して掲げるビジネス戦略ではないか」と思われるかもしれない。実は、まったくそのとおりなのだ。サービス戦略はビジネス戦略にほかならない。ビジネス戦略は、その企業がお客様(事業顧客)に対してベストパートナーであり続けるための方針であり、旗印である。サービス戦略は、サービス・プロバイダが社内外のIT顧客に対してベストパートナーであり続けるための方針であり、旗印である。この2つに大きな違いはない。なぜなら、サービス・プロバイダが提供しているのは道具ではなく、サービスなのだから。

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※本連載の用字用語については、ITILにおいて一般的な表記を採用しています。

谷 誠之(たに ともゆき)

IT技術教育、対人能力育成教育のスペシャリストとして約20年に渡り活動中。テクニカルエンジニア(システム管理)、MCSE、ITIL Manager、COBIT Foundation、話しことば協会認定講師、交流分析士1級などの資格や認定を持つ。なおITIL Manager有資格者は国内に約200名のみ。「ITと人材はビジネスの両輪である」が持論。ブログ→谷誠之の「カラスは白いかもしれない」


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