「クロスメディア」が加速する新聞・テレビのサバイバル競争Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2008年12月29日 09時45分 公開
[松岡功ITmedia]
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クロスメディアは新たな“メディアの興亡”

 それにしても、なぜ今、クロスメディアをめぐる動きが活発になってきたのか。その理由は大きく2つある。1つは、以前から指摘されているネットメディアの台頭だ。

 新聞を読まない理由のトップは「ネットとテレビでニュースを得ているから」。メディア調査を行っているインターワイヤードが12月3日に発表した新聞の購読に関するアンケート調査によると、新聞を読まない人の72.0%がこう答えたという。調査は1万人余りを対象に、9月17日から10月2日にかけてネット上で行われたものだ。

 同調査によると、普段ニュースを得る媒体は「テレビ」(88.8%)、「PCのネット」(82.7%)、「新聞」(69.5%)、「携帯電話のネット」(22.5%)、「ラジオ」(19.5%)の順。テレビと新聞は年代が上がるにつれて増え、ネット(PC、携帯電話とも)は年代が下がるほど増えたとしている。ちょうど直近にネットの台頭を示した象徴的な調査データがあったので紹介したが、この趨勢はもはや予想されていたものだ。さらにいえば、今後はテレビもネットテレビの台頭で足元が脅かされていくだろう。

 そうしたメディア業界の“地殻変動”が起こりつつある中で、クロスメディアを加速させているもう1つの理由が、ここ数カ月の急速な経済環境の悪化である。これによって広告収入が大幅にダウンしており、新聞社もテレビ局も赤字決算を余儀なくされる状況に追い込まれている。つまり、クロスメディア化を急いで新たな収益基盤を早急に構築しないと、死活問題になるのが現実味を帯びてきたのである。

 ちょうど10年前、『メディアの興亡』(杉山隆男 著、文藝春秋)というタイトルの本がベストセラーになった。「新聞社から活字が消える!?」をテーマに、コンピュータを導入した新聞製作の技術革新をめぐって大新聞社同士が繰り広げた“もう1つの紙面戦争”を描いた作品だが、今回のクロスメディアをめぐる戦いは、それをはるかに上回るスケールの新たな“メディアの興亡”といえよう。

 さらに今回、明らかに異なるのは、大新聞社同士だけの戦いではないことだ。それはテレビ局も同じだが、今回はネット側にも多くの有力なプレーヤーがいる。とはいえ、大新聞社やテレビ局は今のところ、その圧倒的なブランド力でクロスメディア戦略に基づく事業モデルの転換を押し進めているようにみえる。しかし、はたして本当に転換できるか。

 大手新聞社でかつて敏腕記者として活躍し、今は同社の事業構造改革の牽引役を担っている知人がこんな話をしてくれた。

 「相当厳しい環境にあることは、ここにきて社員も認識してきた。しかし、成功体験から脱却できない幹部層は、頭では分かっていても、相変わらずブランドの上にあぐらをかいている。こんな状況では、事業モデルだけを変えても機能しない。人材と組織のあり方を根本的に見直さないと、新聞社のクロスメディア戦略はうまく行かない」

 そうした問題を抱えながら、新聞やテレビは退路のないサバイバル競争に突入したといえそうだ。

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プロフィール

まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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