インタビュー
» 2009年02月05日 07時30分 UPDATE

Webアプリケーションの次へ――AdobeのRIA戦略に向けられる企業の視線

Adobeの勢いが止まらない。FlashやPDF、そしてそれらのメリットを生かしたアプリケーションを構築するための企業向けプラットフォーム「Adobe LiveCycle Enterprise Suite」はRIAの普及に伴って、その支持を確実に増している。Adobeのシニアテクニカルエバンジェリストに話を聞いた。

[西尾泰三,ITmedia]

 米Adobe Systemsの勢いが加速度を増しつつある。厳しい経済環境下で多くの企業が業績を下方修正する中、同社の第4四半期(9〜11月期)決算は前年同期比0.4%増の9億1530万ドル。目標(9億1200万〜9億1500万ドル)を上回る数値となった。

tnfig2.jpg LiveCycle ESの実力を短時間で把握できるデモアプリケーション「LiveCycle on AIR」

 今日では標準的な技術として広く普及したFlashやPDF、そしてそれらのメリットを生かしたアプリケーションを構築するための中核製品となっているのが、J2EEアプリケーションサーバ上にデプロイするSOAベースのプラットフォームである「Adobe LiveCycle Enterprise Suite(ES)」。企業向けのこの製品こそ、同社の屋台骨とみることもできる。Adobe FlexおよびAdobe AIRを使用したリッチインターネットアプリケーション(RIA)まで含めて考えれば、RIAとバックエンドとのデータ連携を効率化する「データサービス」機能と、ドキュメントプロセスを自動化する「ドキュメントサービス」が完全に網羅されている。

 LiveCycle ESが提供するRIAやPDFソリューションの主要な機能については、例えばデモアプリケーションとして用意されている「LiveCycle on AIR」などで確認できるのだが、これらのソリューション、もしくはRIAについてまだピンと来ていない企業も少なくないと思われる。そこで本稿では、米Adobeでシニアテクニカルエバンジェリストとして活躍するデュエイン・ニッカル氏に、LiveCycle ESなどの市場性を聞いた。

tnifig.jpg 「技術がわたしにとっての宗教のようなもの(笑)」と話すニッカル氏。プライベートではミュージシャンでもある彼は、音楽の世界でもRIAアプリケーションが増えてきたという

4つのコンポーネントにフォーカス

ITmedia エンタープライズ向けのソリューションとして、Adobeは今どういった部分にフォーカスしているのですか。

ニッカル 全体としてみれば、ここ5年間で起こってきたコンピュータ関連の変革というのは2つの側面があると考えています。サーバ側ではSOAを基盤とする変革が、クライアント側では、ユーザー側がコンテンツをコントリビュートするという変革が起こりました。Youtubeしかり、Flicrしかり、ユーザー自身が真にサービスの一部になっているわけです。

 従来クライアント/サーバモデルと呼ばれていたものは進化を遂げ、右図のように5つのレイヤーに分かれてきています。クライアント/サーバモデルは10〜15年前から企業に取り入れられてきましたが、そうした内部のプロセスと外の世界を接続していくことが今求められているのです。

 こうした状況の中、われわれとしては4つのコンポーネントにフォーカスしています。サービスレイヤー、クライアントレイヤーのほか、デザイナーや開発者のためのツール、そして、ガバナンスやワークプレースのツールです。

ITmedia Adobe FlexおよびAdobe AIRを使用したRIA開発、もしくはLiveCycle ESのようなJ2EE上のプラットホームは、一見リッチなインタフェースが提供されただけに受け取られることがあります。実際には内部で実にスムーズな連携が行われているからこそ実現できるということがまだ十分に伝わっていないのではないかと思います。

ニッカル LiveCycle ESは、ユーザーがRIAを使うことを考えた場合に最も優れたバックエンドであると考えています。LiveCycleの売り上げを見ると、2008年第4四半期は前年同期比で13%増となっており、名実ともに理解が進んだといえるのではないかと考えています。もちろん、すべきことはまだまだあると考えていますが(笑)。

クラウドへの進出も

tnfig3.jpg エンタープライズ市場に対するAdobeのフォーカスポイントを図示するとこのようになる

ITmedia 2週間ほど前には、LiveCycle ESの開発環境をAmazonのEC2上で提供する「LiveCycle ES Developer Express」も発表しましたね。クラウドに対するAdobeの姿勢が垣間見えるようで興味深いです。

ニッカル LiveCycle ES Developer Expressはまだβ版としての位置づけであり、現時点では、開発者向けサポートプログラム「Adobe Enterprise Developer Program」の契約者のみが利用できるものです。従来は、サポートプログラムの前提として、LiveCycle ES環境をユーザー自身が構築する必要がありました。評価版が用意されているとはいえ、技術検証のためにユーザーは環境の構築からはじめる必要がありました。複雑なインストレーションを伴うことなく、すぐに利用できるターンキーソリューションの1つとして、われわれが推奨する構成の1つであるJBoss Application ServerとMySQLの組み合わせた環境を提供するのがLiveCycle ES Developer Expressとなります。

 顧客と話をしていると、まだクラウドコンピューティングに対しては消極的であるように感じています。なぜかと言えば、重要なデータがどこに置かれているのかを気に掛けているからです。しかし、ここで強調しておきたいのは、グリッドやクラウドといった新たな技術に対して積極的な姿勢を示し、かつ製品としてリリースしているベンダーはまだ少数でしょう。われわればそうした先進的な取り組みが顧客の抱える問題を解決するものであると確信しています。

ITmedia つい先日、リアル・タイム・メッセージング・プロトコル(RTMP)の仕様を公開する計画を発表しましたね。こうした動きの背景にはどういった考えがあるのですか。

ニッカル これはIT全般にいえると思いますが、ベンダー特有の技術、言い換えればプロプライエタリな技術でシステムを構築するのを顧客は嫌がるものです。商用製品を使わないように実装することに腐心するユーザーの気持ちもよく理解できます。だからこそ、LiveCycle ESを構成しているコンポーネント、プロトコル、データフォーマットはオープンな技術であることが望ましいのです。RTMPのコードを公開するのもその一環で、そのほかの部分についても例えばクライアント/サーバ間でのバイナリデータ通信を行うAMF(Action Message Format)や、LiveCycle DS(LiveCycle ESのデータサービス部分を担うコンポーネント)で提供されている機能の一部を含むBlaze DSをオープンソースとして公開しているのはこのためです。普及するからこそ、安心して使ってもらえるのですから。

ITmedia J2EEの実行基盤としては、Apache Tomcat、IBM Websphere、日本ならWebOTXやCosminexus、Interstageなどが選択肢として考えられますが、顧客が選択するJ2EEアプリケーションサーバの傾向はどうでしょう。

ニッカル 本番環境という意味では、やはりWebsphereやWebLogicをコアのJ2EEアプリケーションサーバとして選択される顧客が多いですね。

RIAは企業にどう映っているのか

ITmedia 失礼ながら、例えばAdobe AIRをフロントエンドに持ってきたエンタープライズシステムで、「これぞ」というものにわたしはまだ出会っていないと感じています。エンタープライズ領域におけるRIAまだ過渡期にあるのでしょうか。

ニッカル 1年ほど前、シャープがSAPのバックエンドシステムからの情報を同社の65インチ液晶ディスプレイで表示させるシステム「エグゼクティブ・コックピット」を構築しました。経営ダッシュボード、または経営コックピットと呼ばれるソリューションに属するものですが、あの発表以降、“シャープのあれがほしい”という感じでお客様からよくお問い合わせが来ています。

 結局のところ、業種が違えど、企業というのはどこも似たような問題を抱えているものです。企業経営には情報が不可欠です。しかし、その情報が自分たちにとって意味がある形で示されなければそれは不十分です。バックエンドシステムから得られるキーメトリクス(主要な評価基準)をビジュアル化するニーズは、非常に強いものがあります。SAPが70億ドル近い額でBusiness Objectsを買収したのも、Xcelsiusという経営ダッシュボード製品が自分たちにとってキラーアプリケーションたり得ると認識していたことを示すものだといえるのではないでしょうか。いずれにせよ、この分野は現在相当熱い状態といえます。

ITmedia ここで少し基本的な質問に立ち戻りたいと思います。LiveCycle ES、Adobe Flex、Adobe AIRといったAdobeの製品群は何かの目的を達成するための手段であって、ユーザー企業はその導入自体を目的としているわけではありません。この場合、ほかの技術のどれでもない、つまりそれはRIAの可能性を示すことだと思いますが、ユーザーが是が非でも使いたいRIAというものは本当に存在しているのでしょうか。

ニッカル RIAの意義がどこにあるかという質問ですね。その回答としては「選択肢があること」にほかなりません。数字で見たければ数字で、グラフで見たければグラフで、選択肢が与えられることが重要なのです。情報をどう見たいか、というのは人それぞれであり、顧客が必要とするものすべてを満たした形で提供できる柔軟性を持っておくことがわたしたちにとって重要であると考えます。

ITmedia ユーザー企業などが開発したAIRアプリケーションの中で、興味深いと感じているものはありますか。

ニッカル 面白い使い方で、かつ、それらが驚くような結果を出しているというケースが幾つか出てきていますね。例えば、オートバイ好きなら誰でも知っているHARLEY-DAVIDSONです。彼らはバイクのカスタマイズをRIA上で可能にしたのですが、結果として、ユーザーがどういったカスタムを好むかといったパターンが明らかになってくるのです。無償で市場調査を兼ねているわけです。RIAの活用で予期していなかった好ましい副産物を得ています。MixMatchMusicなどもRIAをうまく使っていると思います。

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