Googleブック検索の和解が与える影響ネットの逆流(13)(1/3 ページ)

米Googleの和解が、日本にも影響を与える? ――米国内に限られるが、日本の書籍が勝手にGoogleブック検索に載せられてしまう可能性があるという。著作権者にも利益配分をすると言うが……。

» 2009年03月08日 08時00分 公開
[森川拓男,ITmedia]

ネットの逆流過去記事はこちらです。


 Googleは2月24日、国内主要紙に告知広告を掲載した。これは、米国内の訴訟の影響が国際条約を通じて日本国内にも及ぶため、国内の著作権者に理解と対応を求めたものだ。いったいどういう事なのか、意味が分からなかった人も多いのではないだろうか。そもそもGoogleブック検索とは何かということから見ていくとしよう。

Googleブック検索とは?

 Googleブック検索とは、Googleが書籍の本文を電子化(デジタルスキャン)して、内容を検索可能にしたものだ。米国では2004年にスタートしたサービスで、2006年には日本語版のサービスを開始するべく窓口ページを公開したが、実際のスタートは2007年7月5日だった。現在、日本語版では700万冊以上の全文を検索することができるという。

 このデータは、パートナープログラムと図書館プロジェクトから提供されている。パートナープログラムとは、出版社および著作者が提供するもので、一番スマートな形だ。そして図書館プロジェクトでは、カリフォルニア大学、ハーバード大学などが協力して古典作品のPDF公開をしたほか、スペインのマドリード・コンプルテンセ大学米ウィスコンシン大学マディソン校などが協力、日本からも慶應義塾大学がアジアで初めて、福澤諭吉の著作など蔵書174冊を公開している

 一方でGoogleブック検索に関しては、米作家協会(Authors Guild)および米出版者協会(AAP)から訴訟を起こされていた。著作権を侵害している、というわけだ。しかし、その訴訟は2008年10月28日、和解されたことが米Googleから発表された。これはあくまでもアメリカでのこと。日本ではまた別の話かと思っていたら、この和解は日本にも影響を与えるかもしれないというのだ。

 キーワードは、「ベルヌ条約」である。

 すでに報じられているように、この和解で影響するのは、あくまでもアメリカで著作権を有する権利者だけだ。そして、スキャンされた書籍データは、アメリカのGoogleブック検索のみで、日本からの利用はできないという。しかし、著作権に関する国際条約である「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」(通称・ベルヌ条約)によって、日本で出版された書籍についてもアメリカで著作権が発生することになる。つまり、「米Google×米・著作権者」の訴訟ではあるが、和解内容自体は日本の著作権者も、決して無関係ではないということなのだ。

日本は蚊帳の外か?

 極論ではあるが、日本では流通している日本語の書籍であっても、アメリカでは市販されていない、つまり絶版状態にあると判断されてしまえば、米Googleが全文をスキャンして米Googleブック検索に載って、販売されるということはあり得るのだ。日本に在住するユーザーは利用できないが、アメリカからは自由に閲覧できてしまうわけだ。

 それでは、日本の権利者はどうしようもないのかといえば、きちんと方法が用意されている(外部リンク)。それが冒頭で触れた告知広告ともつながるわけだが、和解に参加する場合は何もする必要はない。アメリカでネット販売された場合、収益の63%を受け取れる可能性があるというわけだ。

 また、和解に参加した上で、自分が権利を持っている書籍をデータベースから削除するように申請もできる。この場合の申請は5月5日までに行う必要がある。また、無断スキャンに対する補償金は2010年1月5日までに請求する必要がある。

 和解に参加せず、拒否したい場合は、5月4日までに申請しなければならない。この場合、ネット販売からの収益を受け取ったりはできないが、Googleを個別に訴えることが可能だ。

 ただ、Googleが用意した「Google ブック検索に関する権利保持者への和解通知 - 書籍および挿入物のレジストリ」は非常に分かりづらく、詳細に関しては早めに問い合わせたほうがいいかもしれない。

 ただし、ここで一つ注意することがある。著作者は出版社と契約を結んでいて、二次使用なども含めて取り決めてあることもあるはず。つまり、Googleブック検索における全文検索に関係する事柄は、著作者ではなく出版社とGoogle側で取り決めるケースもあるということだ。そのあたりは確認して、どこが窓口となるのかをしっかりしておかなくてはならないだろう。

 弁護士の福井健策氏は「米国でこの仕組みがうまくいった場合、書籍の再流通モデルとして日本に入ってくる可能性がある」と指摘している。ただし、この記事の中において「印税率63%は、日本の書籍の一般的な印税率(10%前後)より圧倒的に高い」とあるが、若干の違和感がある。というのは、あくまでも収益の63%を分配であって、出版した際に著作者に支払われる印税とは算出法などが異なるからだ。単純にパーセンテージだけを比較することはできないだろう。

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