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日本の書籍全文が米国Googleブック検索に? 朝刊に載った「広告」の意味

» 2009年02月25日 18時05分 公開
[ITmedia]
画像 Googleによる解説サイト「Googleブック検索和解」。プルダウンメニューから、英語、日本語、フランス語、イタリア語、中国語など30カ国語以上を選べる

 過去に出版された日本の書籍が、米国の「Googleブック検索」に載り、全文を読めるようになる可能性がある――米Googleが世界各国で公表した告知が波紋を呼んでいる。米国内の訴訟の影響が国際条約を通じて日本国内にも及ぶためで、Googleは2月24日、国内主要紙に告知広告を掲載し、国内の著作権者に理解と対応を求めた。

 日本の作家や出版社などにとっては、書籍が勝手にGoogleブック検索に載り、広告を付けられたり販売されてしまう可能性がある一方、Googleは作家に有利な割合での利益配分を約束しており、収入が得られるメリットもある。賛同できなければ自分の書籍を対象から除外するよう申し出ることも可能だ。

 「法定通知」として新聞に掲載された告知広告や、専用サイトの日本語解説文は、期限を区切って著作者に対応を求めるものだが、日本語文は難解で、事情を知らなければ何を言っているのか分からないと思われる。告知が言わんとする内容と、識者が「巧妙」と指摘するその背景とは──

世界の「絶版」書籍をデータベース化・米国で販売 日本語書籍も対象

 Googleブック検索(Google Book Search)は、Googleが書籍本文をデジタル化(スキャン)し、内容を検索できるようにしたサービス。日本語版の説明によると、現在700万冊以上の書籍の全文を検索できるという。

 同サービスが著作権侵害に当たるとして、米国の著作者団体・米出版者協会(AAP)などは2005年にGoogleを提訴。Googleは著作権侵害を否定して争ったが、訴訟は昨年10月に和解に至った。米国裁判所は和解に関する公聴会を今年6月11日に開く予定で、7月以降、正式承認する見通しだ。

 和解によってGoogleは、今年1月5日以前に出版された書籍のうち、米国で市販されていない絶版書籍について、商用利用が可能になる。具体的には(1)書籍をスキャンしてデータベース化する、(2)書籍データやアクセス権を販売する、(3)各ページに広告を表示する――といったことが可能だ。

 Googleは、これで得た収益の63%を著作者に支払う。権利者への収益分配は、新たに設立する非営利団体「版権レジストリ」を通じて行う。Googleは版権レジストリの設立・運営費用として3450万ドル(約34億円)を負担する。

 また、今年5月5日以前にGoogleが無断スキャンした全書籍の著作権者に、補償金として総額4500万ドル(約44億円)以上をGoogleが支払う。書籍本文(Googleは「主要作品」と呼んでいる)について、最低60ドルを権利者に支払うとしている。

 Googleはこの和解により、「米国のユーザーが、何百万という絶版書籍を検索、閲覧、購入できるようになり、権利者も収入を得られる」とメリットを強調する。

日本の書籍も「ベルヌ条約」で効力が及ぶ

 和解は米国で著作権を有する権利者が対象で、スキャンした書籍データが載るのも米国のGoogleブック検索のみ。日本からはサービスを利用できない。

 だが、著作権に関する国際条約「ベルヌ条約」の規定により、日本で出版された書籍についても米国内で著作権が発生する。このため、米Googleと米国の著作権者との訴訟であっても、和解内容は日本の著作権者にとっても有効になる。

 つまり、日本で出版された日本語の書籍でも、「米国内で市販されていない絶版状態」と判断されれば、米Googleが全文をスキャンし、米国のGoogleブック検索に載り、広告が付いたり、データが販売される可能性がある――というわけだ。

 ただし日本からはサービスを利用できないため、読むことができるのはあくまで米国内の読者ということになる。

権利者はどうすれば?

 日本の権利者ができることは、(1)和解に参加する、(2)和解に異議を申し立てる(和解への参加が条件)、(3)和解を拒否して参加しない(Googleは「除外(オプトアウト)」と呼んでいる)し、Googleを訴える権利を保持する――だ。また権利がある場合、無断スキャンに対する補償金支払いを申し立てることもできる。

 和解に参加すると、書籍のデータをGoogleが米国でネット販売し、収益の63%を受け取れる可能性がある。自分が権利を持つ書籍をデータベースから削除するよう申請することも可能だ。和解を拒否すれば、これらは行えない代わりに、Googleを個別に訴える権利を保持できる。

 和解に参加する場合は、何もする必要がない。和解を拒否したい場合は、新聞広告によると、今年5月5日までにGoogleに告知する必要がある。方法はWebサイトでダウンロードできる書類や入力フォームだ。

 無断スキャンに対する補償金を受け取りたい場合は、10年1月5日までに請求する必要がある。

 ただし公式Webサイトでは和解の拒否は「5月4日まで」としており、新聞広告と異なる。実務的な詳細はGoogleへの問い合わせが必要になりそうだ。

「巧妙な和解戦略」と福井弁護士

 Googleのやり方が気に入らないので、和解を拒否した上で、自分の書籍をデータベースから削除してほしい――著作者がそう考えたとしても、行使できる手段は少ない。

 弁護士の福井健策さんは「Googleの和解戦略は巧妙」と指摘する。和解集団からの脱退を選べば、削除を申し立てる権利や、和解条件に異議を申し立てる権利を失うためだ。「削除を求めたい権利者ほど、むしろ和解に乗る方が良いという逆説も成立しそう」(福井さん)

 また、「脱退した場合、Googleがフェアユースと解釈している、書籍のスキャンやスニペット表示(抜粋部分の表示)をやめる保証はない」とも指摘。スキャンやスニペットも止めさせるには法的手段に訴えるしかなさそうだが、「かなり巨大な訴訟が必要になる」(福井さん)

 日本のGoogleブック検索で同様の事態が起きる可能性は「低い」という。日本には、著作権法上のフェアユース規定や、米国の集団訴訟に当たる訴訟の仕組みがないためだ。

 ただ「米国でこの仕組みがうまくいった場合、書籍の再流通モデルとして日本に入ってくる可能性がある」と福井さんは指摘する。印税率63%は、日本の書籍の一般的な印税率(10%前後)より圧倒的に高いこともあり、日本に進出してくればiTunesのような“黒船”となる可能性もある。「その場合、日本の出版社はどう対応し、どう迎え撃つべきか、今後のビジネスモデルを含めて戦略的に考えるといいのでは」

分かりづらい広告

画像 読売新聞に掲載された広告。書かれているフリーダイヤルに電話しても、似たような内容を自動応答で読み上げたり、WebサイトのURLを案内するだけで、問い合わせや相談などはできない

 この件に関してGoogleは、日本の一部の新聞や雑誌に広告を掲載して告知した。読売新聞には朝刊13面に4段広告が掲載されたが、その内容は、一読では理解できない難解な表現だ。

 まずタイトルから「書籍の著者、出版者、または書籍や執筆物の著作権を有しているその他の人物である場合には、貴殿の権利に、グーグルの書籍および執筆物のスキャンおよびその使用に関する集団訴訟の和解案が影響することがあります」という複雑さ。福井さんも「もっと分かりやすく書くべきだろう」と指摘している。

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