クラウド本執筆者たちが、クラウドブームの真実や可能性、今後などを語りあった。
2008年10月、NHKクローズアップ現代で取り上げられたことなどがきっかけとなり、「クラウドコンピューティング」が話題を集めている。相次いで「クラウド本」が出版されており、このうちの4人がITmediaエンタープライズと連動するビジネスブログ「オルタナティブ・ブログ」のブロガーである。そこで、クラウド本の執筆者にクラウドの実情や、可能性、将来の展望などを語ってもらった。
参加したのは、『「クラウド・ビジネス」入門』著者の林雅之さん、『クラウドコンピューティングの幻想』著者のエリック松永さん、そして『Amazon EC2/S3 クラウド入門』を所属する学びingのメンバーと共著した横田真俊さんの3人だ。
ITmedia 最初に、皆さんがクラウドについてどう考えていらっしゃるかを教えてください。
林 地方の中堅・中小企業の人にクラウドを理解して、利用してもらいたいです。ITを使った新しいビジネス展開など、創造的なIT経営ができるようになればいいと考えています。
執筆にあたり、情報システム担当者がいない中小企業の読者にも分かりやすいように事例を入れました。現実には大きなギャップがあります。日々の業務に追われる中小企業の多くは、ITを使いこなす十分な環境を持っていません。経営者層がITの役割を理解し、社員をリードていくためのきっかけを作れればいいです。
松永 わたしは、大企業はクラウドコンピューティングを語る前にもっと考えることがあると思っています。「あなたの会社の強みは何ですか」ってことです。クラウドにすれば安くなるとか、経営はそんな単純なものじゃないはずなんです。
横田 僕は自社でAmazonEC2を使っています。AmazonEC2がクラウドの代表的サービスということで、それに関する本を書いたのですが、正直、クラウドと言ってもよく分からないんです。AさんのクラウドとBさんのクラウドが違っていたり、データセンターでいうクラウドと僕らの考えるクラウドも違ったりしている。
結局クラウドに注目する理由は、便利なのか、安いのか、スケールアウトするかしないか、そういうことかなと。僕らの会社が使っている理由は「便利だから」なんですが。プラスアルファとしてSaaSなりで味付けしていく感じですね。
松永 わたしはクラウドという「バズワード」に懐疑的です。似たようなサービスについて呼び方を変えただけで「クラウド」と称するようなケースってありますよね。他のバズワードもそうですが、ITベンダーの言葉遊びは多いです。でも、クラウドコンピューティングのコンセプト自体は重要だと思っています。一過性のブームにしないで、きちんと議論したいです。
横田 おっしゃることは分かります。でも古いものは見向きもされないから、ペンキを塗り直す必要も出てきます。バズワードもなければ困ることもあって、ある意味「必要悪」じゃないかと。何も知られないよりはましだと思ってます。
林 ユーザーが関心を持ったことはIT業界にとっては収穫だと思うんですね。日本経済新聞などでも紹介されるようになり、一般の方が目を向けるようになった。これは大きいと思います。
ITmedia 記者として知りたいことは、クラウドが今後、10年で情報システムの在り方をどう変えるのかという点です。クラウドを裏付けるテクノロジーがどの程度まで見えているのかを知りたいです。
松永 日本の現状から考えると来年急に来るようなものではありませんが、5年10年といった長期のスパンで見ていけば、ITの世界は確実にクラウド化されていくでしょう。わたしは日本独自のクラウドコンピューティングの誕生を期待してるんですけどね。逆に言えば、日本独自のクラウドコンピューティングが出現しなければ、日本のIT産業は崩壊しているかもしれませんね。
林 日本型のクラウドにはわたしも同感です。規模の経済では太刀打ちできなくても、品質で差別化を図る。例えばNTTはキャリアグレード・クラウドコンピューティング、高品質な状態でクラウド環境を推進していくとしていますが、これも日本のユーザー視点に立ったクラウド環境だと思います。
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