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» 2009年06月11日 08時00分 UPDATE

原子力というインフラを支える:「現場の改善と同時にシステムを育てる」――FileMakerを選んだ日本原燃 (1/2)

FileMakerは使いやすいデータベースとして、個人から中小規模企業まで広く使われてきたが、近年では基幹系での利用も増えている。今回は、その使いやすさを生かし、基幹系データベースに連携するフロントエンドとして利用された、日本原燃での事例を紹介する。

[岡田靖,ITmedia]

 日本原燃(以下、原燃)はその名の通り、原子燃料(以下、一般的な「核燃料」とする)を供給すべく設立され、1992年よりウラン濃縮工場の稼働を開始している。エネルギー資源に乏しく、総発電量の約3分の1を原子力発電に頼る日本にとって重要な役割を担う企業だ。使用済み燃料をリサイクルすることで効率的にエネルギーをまかなう核燃料サイクルの推進に合わせ、同社では使用済み核燃料の再処理事業にも着手しており、その社会的な重要性はさらに増している。

核燃料サイクルと原燃

 温室効果ガスを排出しないエネルギー源の中で、最も大きな実績がある原子力発電。天然ウランに0.7%ほど含まれるウラン235の核分裂エネルギーを利用するものだが、発電用にはウラン235の濃度を3〜5%に高めた低濃縮ウランが一般的に用いられている。また、原子炉で使用済みとなった燃料にもウラン235が1%ほど残存しており、これも回収して同様に濃縮することで、再びウラン燃料を作ることができる。天然ウランや回収ウランは、転換→ウラン濃縮→再転換→成形加工の一連の工程を経て原子炉用の燃料となる。

 一方、天然ウランや低濃縮ウランの大半は“燃えない”(核分裂しない)ウラン238で占められているが、原子炉内で中性子を吸収することでウラン238の一部は核分裂を起こすプルトニウム239へと変化する。プルトニウム239は使用済み燃料中に1%ほど存在しており、これを抽出した上で二酸化ウランと二酸化プルトニウムの混合物であるMOX(Mixed Oxide:混合酸化物)燃料へと加工することで、低濃縮ウラン燃料と同様に原子炉で利用できるようになる。なお、低濃縮ウラン燃料を使う通常の原子炉でMOX燃料を利用することを日本では「プルサーマル」とも称するが、この言葉はプルトニウムをサーマルリアクター(この場合は一般的な原子炉を指す)の燃料に用いるという意味の和製英語。

 ウラン235の回収・再利用とプルトニウム239の抽出による核燃料サイクルは、貴重な資源である核燃料を有効活用するのに役立つことから、フランスやイギリスなどで以前から取り組まれている。日本においては原燃が、この核燃料サイクルに必要となる工場や放射性廃棄物処分施設などの整備を進めており、再処理工場は試験運転中(2009年8月竣工予定)、MOX燃料工場も2015年竣工を目指している。これらの施設は青森県六ヶ所村にある同社の敷地に集約され、厳重に管理されている。


高度な安全・品質管理が必要な業務で採用

原燃 再処理事業部 再処理工場 運転部 脱硝課の三浦進 副長 原燃 再処理事業部 再処理工場 運転部 脱硝課の三浦進 副長

 原燃の再処理工場での工程は原燃サイトにもある通り、国内各地の原子力発電所から受け入れた使用済み核燃料を細かく切断して硝酸で溶解、化学的にウランやプルトニウムのみを分離した後に硝酸を除去(脱硝)し、粉末にするといった流れになっており、この一連の処理の前後では一時貯蔵も行われる。各工程では、当然ながら非常に高度な安全対策が求められるうえ、製品の品質が核燃料のユーザーである原子力発電所の運用に大きく影響することから、工場内の緻密な管理が欠かせない。もちろん、そのためのシステムが必要となる。

 原燃では脱硝工程の運転管理に、FileMakerを利用しているという。原燃 再処理事業部 再処理工場 運転部 脱硝課の三浦進 副長は、「データをきちんと残しておきたいと考え、試験運転の段階から使おうと考えました」と話す。

 試験運転では、まず普通の水を使って試験を行う。次いで薬品を投入して試験を行い、その上でウランを含んだ薬品を使うといった具合で、段階を踏んで設備の動作を確認しながら本番環境へ近付けてゆく。

 「この試験運転で得られる初期データは、工場の稼働開始後も“未来永劫”使うものなので、きちんと残していきたいと考え、我々自身で作れるデータベースとしてFileMakerで作っていったのです」(三浦氏)

 三浦氏がFileMakerを知ったのは、再処理工場建設に先立つ実験段階のことだったという。

 「1995年頃に、FileMakerの存在を知って利用し始めたのが最初です。メンバーは原子力や化学などの専門家ばかりで、私を含めてデータベースなどを使いこなせる人間はほとんどおらず、データの管理に困っていたところでした。そんな中で、FileMakerはすぐに使え、スクリプトを日本語で書け、手直しも楽で、例えばレイアウトをちょっと修正するなども自分たちの手で簡単にできます。後になって他のソフトもいくつか試してみたものの、使いにくいと感じて、結局はFileMakerに戻ってきました」(三浦氏)

 このとき実感した使い勝手の良さが、脱硝工程での運転管理に採用されるきっかけになった。試験運転の際には、結果を受けて管理対象データの追加、業務フローの変更が必要になることも考えられる。きちんとした運転管理システムを作っていたとしても、これらの変更に柔軟に対応できなければシステムが陳腐化する可能性が高くなる。だが、現場のスタッフが自らの手でデータベースを作り、手を加えつつ運用するなら、工程の改善を進めながら同時にデータを残していける。FileMakerの使い勝手は、その使い方に合致したといえるだろう。

 「ひとつの例を挙げると、脱硝工程の手順書はFileMaker上に作った入力シートです。当初は紙の手順書を使い、システムとの連携がとれていなかったのですが、、画面に操作員が生データを入力すれば、有用に加工されたデータも同一画面で表示されるように、システムに合わせた手順書様式に変更することにしたのです。運用を改善しつつ、画面も改善していくという形で、システムを育ててきました」(三浦氏)

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