わが社のコスト削減

内部監査を現場に任せてコストを削減――J-SOX 2年目の知恵わが社のコスト削減

J-SOX対応に向けてコスト削減を図るために各社が取り組んできたこと、われわれコンサルタントが支援してきたことを3回にわたって紹介する。2回目は内部統制状況の「自己評価」について、事例を交えて紹介する。

» 2009年06月30日 08時35分 公開
[嶋田英樹(プロティビティジャパン),ITmedia]

 J-SOX対応に向けてコスト削減を図るために各社が取り組んできたこと、われわれコンサルタントが支援してきたことを3回にわたって紹介する。2回目は内部統制状況の「自己評価」について、事例を交えて紹介する。

第2回目 自己評価を上手に活用する

 今後のJ-SOX評価活動をスムーズに行うために各社が取り組みを検討していることで、最も多く出てくるキーワードは「CSA」である。CSA――Control Self Assessment、一般には「自己評価」と訳され、J-SOXに限らず現場の内部統制状況を現場自らが評価することを指す。内部監査に従事している担当者の中ではSOX以前からよく口にしていた言葉である。なぜ、J-SOX対象企業の多くがこのCSAの導入を検討しているのか。

 製造業D社は、SOX対応初年度を終了した段階である問題に直面した。

 「このまま、毎年膨大なSOX評価活動を内部監査室だけで実施していかなければならないのか」

 内部監査室の主な職務は言うまでもなく「内部監査」である。従って、法対応で目的を限定されたSOXの評価活動に限らず、さらに広範囲の業務について内部監査を実施しないと、経営者から期待されている役割を果たしたことにはならない。しかし、もともと極めて限られた人員しか配属されていない内部監査室にSOXの運用評価の作業が全部降りかかってきたのである。

 その作業規模を考えると、本番年度はいままでの内部監査業務をすべて止めて対処しなければならない状況になる。本番年度は何とか内部監査室と外部コンサルタントだけで運用評価をやり遂げたものの、この状況が続くと本業の内部監査はいつまでたっても再開できない。かといって、今後内部監査の人員を大幅に増員できるような会社の状況でもない。D社はSOX評価活動の負荷分散を図るべく、CSAの導入に着手した。

 内部統制の評価を、実際に内部統制を実践している現場に委ねる――言うのは簡単だが、検討を進めるうちにさまざまな課題が見えてきた。

 第一に、初年度はほとんどSOXに関与していなかった現場の担当者を巻き込むのであるから、内部統制をはじめから理解してもらわなくてはならない。SOXの法目的を理解してもらった上で、それに沿った形で評価活動を実施してもらう必要がある。導入に当たっての社内調整、説明会や研修を実施する際にかかる準備を含めた時間、導入後の質問対応など導入時にはやはり相当な工数と費用が見積もられた。

 そもそも効率性以前の問題として、「現場の業務内容を自分たちで評価する自己評価の結果に信頼性があるのか」すなわち、自己評価はSOXの経営者評価として有効なのかという意見がある。これをクリアするためには、内部監査室は自己評価作業についてやはり一定レベルのモニタリングを実施し、評価が妥当に行われているかについて検証する仕組みを組み込まなければならない。その工数はやはり上積みされる。

 このようにCSAの導入は、初期コストに加え、それを維持するためにやはり客観的な第三者(D社の場合内部監査室)のモニタリング業務が一定時間、毎期発生することになる。しかし、それでもD社は「今後ずっと対応していかなければならない作業なので、初期の段階で継続的に続けられる体制を構築しなければ、長期的には非効率が生じ、コストが掛かる。総合的にはCSAを導入する方が効率的である」と判断。導入を進めることにした。

 さらに、CSAにはコスト削減、効率化以外の効果もある。

 「現場の人に評価を自らやってもらうことで、自分のやっている作業の意味を改めて考えてもらったり、内部統制そのものへの理解が深まったりと、作業負荷分散以外の効果も大変大きい」とD社担当者は言う。

 E社では、CSAと同様の発想で評価活動の負荷分散を図ったが、内容はD社とは少し趣が違う。CSAが抱える「自己評価の信頼性の問題」を少しでも改善するために、ある現場部署の担当者がほかの現場の内部統制について評価を行うクロスファンクション評価体制を敷いたのである。この場合、内部監査部門の評価作業の負荷分散、一般的な内部統制に対する意識向上はCSA同様に期待ができる。逆に当初の導入負荷・コストもCSA同様にかなり高くなり、現場部署の評価品質についてはやはり内部監査部門のモニタリングが一定割合必要であるなど検討しなければならない課題の要素もCSAと同様であった。

 クロスファンクション評価では、業務を実施している現場とは違う部署が評価をすることにより客観性が上がり、評価としての信頼性は向上するが、CSAのもう1つの利点である「自分のやっている業務の目的を考えて、必要な内部統制を見直す」面では弱い。どちらが良いかは各社が内部統制に求めるものによるのである 。

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著者プロフィール:嶋田英樹(しまだ ひでき)

嶋田英樹

株式会社プロティビティジャパン マネージングディレクタ公認会計士・公認内部監査人。大阪大学経済学部卒。一般事業会社を経て、1991年アーサーアンダーセン大阪事務所(現・あずさ監査法人)に入所。2003年株式会社プロティビティジャパン創設時に参加。内部統制構築・評価支援及び内部統制評価ツール・内部監査ツール等の導入コンサルティングに従事。


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