現場で効くデータ活用と業務カイゼン

患者のための“手作りデータベース”――札幌市 もなみクリニック使いこなしに応えるFileMaker(1/2 ページ)

医療関連のシステムといえば、電子カルテやオーダリングシステムなどが一般的だが、多額の投資を必要とするものだ。しかし札幌市の「もなみクリニック」では、院長自らがFileMakerを使って独自のDBを構築・運用しているという。

» 2009年07月31日 08時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]

 今後、一層の高齢化が進む日本社会。2002年10月、札幌市郊外に設立された「もなみクリニック」は、そうした時代を見据えて、高齢者に多い泌尿器系疾患や腎疾患に対応する泌尿器科を中心に循環器科や性病科を備え、ホームドクターとして地域の人々に役立つ医療サービスを提供している。また、移動が困難な患者のための訪問診療や、外来人工透析患者向けの送迎サービスなども行っている。

電子カルテは導入せず、安価なFileMakerで業務効率化

もなみクリニック 犬養倫明 院長 もなみクリニック 犬養倫明 院長

 もなみクリニックでは、開設当初からFileMakerを用いた業務支援システムを用いている。院長自らが中心となって、自力で構築したものだ。院長の犬養倫明氏は、もなみクリニック設立前の勤務医時代から、FileMakerを活用してきたという。

 「わたしが最初に使ったFileMakerのバージョンは“4”です。医師たちの間で手術記録などを残すためにPCを使う例が出始めていた頃でした。使い込むようになったのは、定型書類の管理のため、ほかの医師がFileMaker上で作成したテンプレートを入手してからのことです。例えば診療情報、ほかの科とやり取りする手紙、入院時の診療計画書、連携パスなど、医師の仕事には“お役所的”な定型書類が増えていく一方なので、効率的な管理は欠かせません。テンプレートに自分で手を加えたり、データベースを追加したりして、FileMakerに詳しくなっていきました」

 その後、もなみクリニックを設立するに当たって、犬養氏は電子カルテシステムとFileMakerによる業務支援システムの2本立てを検討した。紙の書類を可能な限り減らそうという考えからだ。しかし、電子カルテシステムの採用は見送られた。

 「当時、開発を委託したベンダーによる見積りは高額だった上に、クリニック開設直前になって開発遅延が明らかになりました。これでは使えないと判断し、キャンセルしました。診療報酬を算出するレセコン(レセプトコンピュータ)だけ導入しています」と、山本敦史 事務長は振り返る。

 結果、もなみクリニックでは現在まで紙のカルテを使っているというが、独自にFileMakerで構築した業務支援システムは、さまざまな機能拡張を続けつつ、業務に役立ってきた。

 「今ではカルテ以外、クリニックで使うほとんどの書類を電子化しています。診察などの際にも、紙のカルテにも記入はしますが、データベース上の患者の情報を主に使っています。検索も容易ですから、患者さんを待たせることもありません。おかげで、われわれが電子カルテを使っていると思い込んでいる患者さんもいるようです」(犬養氏)

DBは意識の高いスタッフが「使いながら作り込む」

もなみクリニック 山本敦史 事務長 もなみクリニック 山本敦史 事務長

 もなみクリニックの院内ネットワークも、犬養氏自身が構築したという。重要な医療情報を扱うため、セキュリティに配慮して、院内の業務用ネットワークとインターネットに接続するネットワークを完全に分離している。端末としては主にiMacを用い、20台弱を各部署に配置した。ほかにFileMaker用のサーバや、医療画像関連のサーバなども用意されている。

 「Macは、わたしのような素人でも手軽にネットワークを組めるのが利点です。ただ導入当時には一般的だった規格に合わせて10Base-Tを採用したものの、その後のデータ量増加などによってボトルネックとなっており、帯域向上が今後の課題です」(犬養氏)

 犬養氏は、開設後にもシステムを使いながら手を加えている。ユーザー自らが改良を加えることで、画面そのものの使い勝手を向上するだけでなく、医療機関に付きものである基準の改訂や新たな項目の導入なども、ベンダーに依頼するまでもなく、コストを掛けず迅速に対応できるというわけだ。


もなみクリニック 臨床検査技師 白井基輝氏 もなみクリニック 臨床検査技師 白井基輝氏

 「将来を見越して、データを活用しやすい形で蓄えておけば、後からいろいろと手を加えて使いやすくしていけるのが、FileMakerの最大の良さです」と犬養氏はFileMakerを評価する。「例えば先日、訪問患者それぞれについて毎年の訪問期間を提出するよう、厚生労働省からの通達がありました。われわれは、既に訪問患者のデータを蓄積していたので、いくつかのフィールドを追加するだけで、クリック1つでレポートできました」(犬養氏)

 山本氏をはじめとするスタッフの一部も、システムの改良や新たなデータベースの構築などに携わっている。例えば山本氏は、開設後3カ月ほど後に、給与のシステム化を検討した際、院長からFileMakerの活用を勧められ、給与DBを作り上げた。また、業務日誌システムや会議の管理システムなども、開設後に作られたものだという。

 もなみクリニック開設の翌年から勤務している臨床検査技師の白井基輝氏は、FileMakerを使いこなしているスタッフの1人。最初は使うだけだったが、1年ほど使った後にシステム改良も手掛けるようになったという。

 「診療関連のシステムと検査関連のシステムを連携させるなどしました。さらに、それぞれ勤務時間が異なるスタッフが情報を共有できるよう、『連絡一覧DB』を作りました。各部署が画面上で確認してチェックを入れ、すべての部署の確認が済むと連絡完了となるようにしたものです。わたし自身は、当クリニックに入るまでFileMakerを使ったことはありませんでしたが、“とっつきやすい”し、知れば知るほど、使い込む余地のあるツールだと思います」(白井氏)

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