ERPの境界線アナリストの視点(1/2 ページ)

ERPの活用について、大企業と中堅・中小企業は異なった傾向を示している。だが規模の違う企業の使い方からは学ぶことも多い。本稿では企業ユーザーへの調査結果を基に、ERPの導入・活用を再考する。

» 2009年08月25日 11時30分 公開
[岩上由高(ノークリサーチ),ITmedia]

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 ERPは大企業だけのものではない。中堅・中小企業でも導入が進み、特に年商100億円〜500億円の中堅企業の市場では、ERPパッケージ間の競争も激しくなっている。

 中堅・中小企業におけるERP導入/活用の実態を見ると、大企業とは違った傾向を示している。その境界線となるのが「年商500億円」というラインだ。中堅・中小企業で見られるERP活用の傾向は、大企業のユーザーにとって、自社の事業所や部門でのERP活用になぞらえて参考にできる。また中堅・中小企業がERP活用において大企業との違いを把握することは、身の丈に合ったERPを導入するための一助となる。

 本稿では、年商500億円未満の中堅・中小企業を対象にノークリサーチが実施したERP関連の調査結果から、大企業と中堅・中小企業におけるERP導入の傾向の違いを明らかにしていく。

相違点1:中堅・中小企業の案件成功率は意外と高い

 大企業でERPの導入案件が失敗する確率――予定していたシステムの納期や品質、コスト目標が達成できなくなる割合――は一般的に高い。システムの改変に加え、業務プロセスの見直しも多くなるため、難易度が必然的に高くなってしまうからだ。

 一方、中堅・中小企業におけるERPの導入案件の成功率は意外と高い(図1参照)。しかも、ERPを導入した場合と会計/販売/購買/生産などの基幹系システムを単体で導入した場合を比べても、成功率に大きな差はない。いずれも約6割の企業が「導入前に期待していたのとほぼ同じレベルの機能性や品質を実現できている」と回答している。

基幹系システムにおける導入前後の評価 図1

相違点2:まだ手作業に頼る場面が多い

 中堅・中小企業に品質面での課題を尋ねた結果が以下のグラフである。最も多く挙がった課題は「システム化が不完全であり、社員の手作業を必要とする箇所がある」だった(図2)。中堅・中小企業が直面している課題はシステム構築の「手作業が多い」という基本的な段階である。

 一方、大企業では「似たようなデータが各所に分散していて整合性が取れない」「業務プロセスの変化にシステムが追いつけない」などを課題に挙げている。そのため、大企業向けERPパッケージの多くは、MDM(マスターデータ管理)やSOA(サービス指向アーキテクチャ)に該当する何らかの機能を備えている。

基幹系システムにおける品質面での課題 図2

相違点3:コンプライアンスは強い訴求にならない

 大企業向けERP市場の活性化を導くものとして、過去には金融商品取引法(J-SOX)が脚光を浴びた。昨今では国際会計基準(IFRS)が同じ役割を担うものとして期待を集めている。

 だが、中堅・中小企業のERP市場においては、コンプライアンス(法令順守)によるERP活用の訴求はあまり効果が出ていない。実際J-SOXにおいて、中堅・中小企業のERPの導入や改変はそれほど進まなかった。

 この傾向は、中堅・中小企業に今後のシステム更新/刷新の事由を尋ねた以下のグラフからも読み取れる(図3)。システム刷新の理由は「業務効率の改善」および「コスト削減」が多く、J-SOXや国際会計基準、通貨換算、言語の切り替えといった国際化への対応、業界ごとの法規制(RoHS、REACHなど)の項目はいずれも1割未満だった。

 大企業と比べて上場企業の数が少なく、海外に拠点を持つ企業も少ない中堅・中小企業は、自社の業績を向上させるためのシステム刷新を最優先していることが分かる。

基幹系システムを変更する際の事由 図3
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