日立のクラウド戦略――コストより信頼性を重視栗原潔のクラウドレポート

アナリストの栗原潔氏が国内主要ベンダーのクラウド戦略について取材する。今回は日立製作所クラウド事業推進センタ担当部長、小川秀樹氏に聞いた。

» 2009年12月10日 08時30分 公開
[栗原潔,ITmedia]

 クラウドコンピューティングの世界における話題はGoogle、Amazon、Microsoftなど欧米系ベンダーが中心になっているようだ。そんな中、アナリストの栗原潔氏が国内主要ベンダーのクラウド戦略について取材する。今回は、日立製作所クラウド事業推進センタ担当部長、小川秀樹氏のお話を紹介したい。(関連記事

日立製作所クラウド事業推進センタ担当部長、小川秀樹氏

ITmedia 日立のクラウド戦略はどのような点を中心にしているのでしょうか?

小川 日立のクラウドソリューション「Harmonious Cloud」は、ビジネスPaaS(サービスとしてのプラットフォーム)ソリューション、ビジネスSaaS(サービスとしてのソフトウェア)ソリューション、プライベートクラウドソリューションを3本柱にして、信頼性とセキュリティに優れ、環境に配慮したクラウド基盤を提供することを戦略の中心にしています。

 ここでいうビジネスPaaSソリューションは、高信頼なコンピューティングリソースをプール化して提供するもので、一般的にいうIaaS(サービスとしてのインフラストラクチャー)とPaaSの両方に相当すると考えてください。

ITmedia 競合他社との差別化要素はどこにあるのでしょうか。

小川 大企業のコア業務の要請にも応えられる高い信頼性がポイントです。その意味では、AmazonやGoogleなどのクラウドは直接の競合とは考えていません。例えば、日立の実績ある仮想化技術であるVirtage(バタージュ)を活用して、ユーザーごとのリソース割り当てを保証することでサービスレベルを維持したり、ネットワークやストレージもユーザーごとに完全に隔離したりすることで高レベルのセキュリティを実現している点などが特徴です。

ITmedia クラウドの世界では、安価なサーバを大量に使って信頼性を向上する「規模の経済」による低コストを提供するという考え方が一般的だと思いますがいかがでしょうか。

小川 繰り返しになりますが、AmazonやGoogleなどとは別の市場、つまり、コストよりも高信頼性を重視する企業ユーザーの市場を対象にしています。コストという点では、当然自社製品で基盤を構築していますので最新技術が安価に利用できる点で有利です。ショーケースということで、クラウドの世界で実証できた技術をほかのオンプレミスの開発案件に活用する効果も期待しています。

ITmedia クラウドのサービス内容はどのようになっていますか。

小川 現在はWindowsとLinuxを中心にしており、水平スケーリングで大量のサーバをプールしてプロビジョニングするというよりは、仮想化技術で個別のサーバのリソースを分割して提供する形式になっています。SaaSの分野では、例えば特許情報提供サービスのShareresearch(シェアリサーチ)などいろいろな業種・業態向けアプリケーションも提供しています。

ITmedia 従来型のホスティングとあまり変わらないのではないですか。

小川 そういう批判はあるかもしれませんが、顧客の声を聞くと、柔軟な容量拡張という利点よりは、まず比較的安価で高信頼性の基盤を求める意見が圧倒的に多かったのです。そのため、最初はそうした形態から始めることにしました。将来的にはオンデマンドなITリソースの提供という方向に進みます。

ITmedia クラウドサービス提供のためのデータセンターはどのようになっているのでしょうか。

小川 日本国内の大都市近郊部のデータセンターで提供しています。信頼性については、米国の金融機関などで使用されることの多い「The Uptime Institute」の基準の最高レベルに相当する設備を採用しています。発電所の近辺なので電力供給の安定性の点でも有利です。顧客の要望があれば見学も受け付けます。安心して利用するためにデータセンターを見ておきたいという要望は多いようです。

ITmedia 現在のユーザーの需要はどうでしょうか?

小川 まだ具体的な数値を申し上げられる段階ではないのですが、確かな需要を感じています。例えば、自社データセンターを所有しているのに、当社のクラウド・プラットフォームの利用を検討されている顧客もいらっしゃいます。所有から利用へシフトすることで資産を圧縮するという動きが進んでいると感じます。

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