コラム
» 2010年02月18日 08時00分 UPDATE

NokiaとIntelが「MeeGo」に込めたそれぞれの思惑

MaemoとMoblinをマージさせたLinuxベースのモバイル向けOS「MeeGo」。その登場の背景には、NokiaとIntelがそれぞれの立場から新たな市場を勝ち取ろうとする意図が見て取れる。MeeGoはAndroidやiPhoneに並ぶ存在になるのか、それとも別の道を行くのだろうか。

[西尾泰三,ITmedia]

 スペインのバルセロナで開催されている世界最大級の通信業界イベント「Mobile World Congress 2010」。Microsoftが発表した「Windows Phone 7 Series」、Adobeが発表したモバイル向け「AIR」およびLiMo Foundationへの参加、さらにモバイルアプリケーションの配信プラットフォームを統合しようとする「Wholesale Applications Community」(WAC)の発足など、今後のモバイル市場に大きな影響を与えるであろう発表が相次いでいる。

 そんな中、携帯電話端末で世界最大のシェアを誇るNokiaは、オープンソースプラットフォーム「Maemo」をIntelのオープンソースプラットフォーム「Moblin」とマージさせた「MeeGo」と呼ばれるLinuxベースのモバイル向けOSを発表した。

 NokiaとIntelは2009年6月、「多数の革新を長期にわたって生み出す」ことを目的に長期提携を発表している。その具体的な成果の1つが今回のMeeGoだが、ここに至るまでの道のりには、両社の苦悩が見て取れる。以下では、この取り組みがどのように推移するか占ってみよう。

ブレイクできなかったMoblin

 Atomプロセッサに最適化されたモバイルLinuxプロジェクトとしてIntelが主導する「Moblin」の開発が始まったのは2007年。Atomベースのネットブックやモバイル・インターネット・デバイス(MID)などへの搭載を目指して開発が進められてきた。あれから3年ほど、ときおりMoblinの搭載を表明したベンダーや、試作機などが話題になることはあったが、今日までMoblinを搭載したデバイスは少なくとも日本市場には登場していない。すでにMoblinのバージョンは2.1になったにもかかわらずだ。

 IntelはMoblinとAtomの組み合わせをネットブック/MID市場に適用しようと努めてきたが、この市場では、MicrosoftのWindows OSをはじめ、数多くの競合OSがしのぎを削っている。実機が市場に投入されていないMoblinは、控えめに見てもその争いに参加すらできていなかった。その結果、開発者からはさほど視線を向けられず、Intelが期待したほどの開発者はそこに集わなかった。

 一方で、商業ベースではAppleの「iPhone OS」や、Googleを中心としたOpen Handset Alliance (OHA)によって開発されている「Android」、NEC、パナソニック、NTTドコモといった日本のベンダーも参加するLiMo Foundationによって開発されている「LiMo」を搭載したスマートフォンなどが登場し、人気を博している。PC向けプロセッサ市場では盤石の地位を築いたIntelだが、スマートフォン市場では競合であるARMベースのプロセッサにかなりのリードを許していた。

 進化が著しいスマートフォンではAtomプロセッサの採用が進まず、ネットブック/MIDではMoblinの採用が進まないというジレンマがIntelにはあった。ネットブック市場でAtomは一定の制空権を得ていただけに、ここでMoblinをブレイクさせられなかったのはIntelのミスと言わざるを得ない。

 Intelもようやくこうしたミスに気がつき始めたようで、Moblin事業の売却を模索した末に、2009年4月以降はThe Linux Foundationにプロジェクトを移管した。ここでの狙いは、より多くのオープンソースソフトウェア開発者に興味を持ってもらうことである。しかし、上述したように、ブレイクしていないMoblinに付き合う人のよい開発者はそう多くない。このため、Moblinはこのまま表舞台から消え去っていくようにすら思われた。

MeeGoにおける両社の狙い

MeeGo MeeGoのサイトに並ぶアイコンからもスマートフォンに限らない用途が想定されていることが分かる

 一方、Maemoは比較的順調に進展してきた。スマートフォンには主にSymbian OSを採用してきたNokiaだが、2009年11月にMaemo 5を搭載した「N900」を発表。「携帯端末でPCのようなユーザー体験を実現」とうたい、ハイエンドモデルでMaemoを搭載していく姿勢を打ち出していた。しかし、Nokia以外からMaemo搭載端末が登場する気配はなく、その意味ではMaemoも一皮むける必要があったといえる。

 こうした状況の中で統合が発表されたMeeGoは、端的に言えば、MaemoとMoblinを融合し、1つのOSとするものである。今後、MeeGoがどのような形でMoblinとMaemoを融合するかは未知数だが、LinuxベースのOS上でQtベースのアプリケーションが動作するというイメージからさほど遠くないだろう。

 ここで、MeeGoがサポートするプロセッサアーキテクチャにARMの名が挙がっていることに注目したい。MaemoのプラットフォームがARMだったことを考えれば驚くに値しないのだが、IntelとARMを両方サポートしていることには大きな意義がある。

 Nokiaの立場になって考えれば、MeeGoのサポートアーキテクチャがMaemoと変わらずARMだけであれば、この取り組みのメリットが薄い。しかし、Intelとの関係を重視しすぎてIntelアーキテクチャだけをサポートしたのでは、MeeGoはMoblinと同様の運命をたどる可能性が高く、Nokiaのビジネスを拡大させるカードとしては少し弱い。なぜなら、現時点でNokiaの携帯端末にAtomを採用したものは登場していないからだ。MeeGoが両方のアーキテクチャをサポートしていることで、現時点でのビジネスと矛盾することなくIntelとの良好な関係を続けられるわけだ。

 MeeGoにおけるNokiaの狙いは言うまでもなく、モバイルアプリケーションの活性化にある。そこで活躍するのが、同社が2008年に買収したTrolltechの「Qt」。UIフレームワークであるQtは、クロスプラットフォームで動作するアプリケーションの開発が可能で、NokiaはQtによってSymbianとMaemoの両方で動作するモバイルアプリケーションのポータビリティが担保されるのだと繰り返し訴えてきた。

 いまだ根強い影響力を有するSymbianはオープンソース化され、今回MaemoもMoblinと融合させたことで、2つのオープンなプラットフォームで影響力を有することになったNokiaだが、アプリケーションにポータビリティがあるというのは、同社の戦略上強力な切り札となる。広義のモバイルデバイスにアプリケーションレイヤから影響力を行使できるのと同義だからだ。もちろん、その前提として、2つのプラットフォームの適用領域を見誤らない、ということが挙げられる。

 すでにAppleのApp Store、GoogleのAndroid Marketのように、Qtベースのアプリケーションを集めたマーケティングチャネル「Ovi Store」も用意しているNokiaは、さまざまなデバイスのハードウェア的な特性を2つのプラットフォームを使い分けることで対応し、スマートフォンだけにとどまらないデバイスの展開を図りたい考えだ。

 一方、Intelの立場になって考えるとどうだろうか。上述したように、成長著しいスマートフォン市場では競合であるARMベースのプロセッサにかなりのリードを許しているIntel。Atomプロセッサはネットブック市場でこそ健闘しているが、現時点ではスマートフォンにAtomが搭載される可能性は低いとみてよい。

 Intelは、MeeGoでAtomとARMの両方をサポートすることで、開発者のエコシステムを形成し、まずはARMと肩を並べることを考えている。そして、いつの日か新型Atom、あるいはまったく別のIntelアーキテクチャのプロセッサを投入したときに、一気に抜き去ることを考えている節がある。一見ARM陣営に塩を贈っているようにも見えるMeeGoだが、Intelとしては名を捨て実を取るといったところだろう。

MeeGoで抑えておくべきポイント

 とすれば、両社の提携は、一足飛びにスマートフォン市場に食い込もうとするのではなく、マルチデバイス、あるいはIntelのいうMIDのような領域でMeeGoの存在感を示すことが優先事項となるだろう。例えばそれはタブレットPCなどが挙げられるだろう。

 両社によれば、MeeGoは2010年第2四半期にリリースされる予定で、製品は2010年後半に登場する見通しだという。NokiaはMeeGoのマージ前、2010年に「Maemo」を搭載した携帯電話は1機種投入にとどめる計画であるとアナウンスしている(関連記事参照)。MeeGoになって多少の変化はあるかもしれないが、「携帯電話」というカテゴリーにおいてはだいたいこの通りになるだろう。

 よって注目すべきは、NokiaがMeeGoを搭載したスマートフォン以外のデバイスを2010年中にリリースできるかどうかだ。スマートフォン以外のデバイスは携帯電話というカテゴリーに入らないから、上述した計画とは矛盾しない。あるいは別のベンダーからMeeGoを搭載した製品が登場するかもしれない。この場合は、製品のプロセッサがIntelアーキテクチャかどうかが注目される。市場のパワーバランスを変化させるポテンシャルを備えたMeeGo端末の早期登場に期待したい。



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