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» 2010年05月14日 15時00分 UPDATE

Trend Insight:Red Hatの命運を握る「CLOUD ENGINE」とは?

クラウドのインフラ部分で静かに勢力を拡大するRed Hat。同社の成長戦略の鍵となるのは、クラウドサービスAPIを共通化し、どんなクラウドでも透過的に管理する「CLOUD ENGINE」だ。Red HatはうまくCLOUD ENGINEをリリースできるだろうか。

[西尾泰三,ITmedia]

 レッドハットは5月13日、都内で記者発表会を開催、米国本社から2名のエグゼクティブバイスプレジデントを招き、グローバルの動向を交えながらRed Hatの戦略と製品について説明した。

Linuxディストリビューターから脱皮するRed Hat

ピンチェフ氏 日本市場での高い成長率を喜ぶピンチェフ氏。なお、一部メディアで報じられていたFortisphere社の買収については否定した

 本社から来日したのは、グローバルセールス、サービス、フィールドマーケティングを統括するアレックス・ピンチェフ氏と、プロダクト・アンド・テクノロジーを統括するポール・コーミア氏。いわば、セールス部門と技術開発部門のトップである。

 ピンチェフ氏は、同社の売り上げにおいてアジア太平洋地域の成長が顕著であると説明。売り上げの半分は北米市場であり、欧州が28%、アジア太平洋地域が15%程度であるとしたが、直近の四半期で日本市場は58.5%の売り上げ成長率を達成したと話し、「日本市場は世界で第2位の市場」と日本市場への期待をあらわにした。

 Red Hatは2009年、自社の製品群を「Red Hat Enterprise Virtualization(RHEV)」というブランドで再構成した。RHEVは、「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」、管理ソフトウェア「Red Hat Enterprise Virtualization Manager for Servers」と「Red Hat Enterprise Virtualization Manager for Desktops」、スタンドアロンの軽量ハイパーバイザー「Red Hat Enterprise Virtualization Hypervisor」などで構成される。

 この動きは、RHELあるいはJBossのベンダーという殻を自ら破り、仮想化を核とするインフラソリューションを提供するベンダーに変化したことを示す重要な動きだ。おおざっぱに言えば、RHEVはKVMをベースとするクラウドインフラのサービスであり、それに加えて、JBossなどのミドルウェアを有していることで、プラットフォームサービスもカバーできる。クラウドコンピューティングで好んで使われる用語で言えば、IaaS(サービスとしてのインフラ)、PaaS(サービスとしてのプラットフォーム)を提供できるソリューションを有するのが同社である。同社によると、パブリッククラウドのRed Hat製品のシェアは現状で90%を超えているといい、Red Hatがクラウドの領域でのリーダー的な存在であることが強調された。

「クラウドインフラのプレイヤーはRed Hat、VMware、Microsoftの3社」

コーミア氏 CLOUD ENGINEについては向こう3カ月ほどすればもう少し語れることもあるだろうとコーミア氏

 一方、コーミア氏からは、Red Hatがどのようにクラウドに適合しているのか、また、これまでにどんな取り組みをしてきたのかなどが中心に語られた。

 同氏はクラウドについて、「既存のシステムに取って代わるわけではない。あくまでもハイブリッドなもの」とした上で、企業システムがクラウド化していくプロセスを大きく3つに分けて説明した。物理サーバの統合を仮想化技術を用いて行う「サーバの仮想化」、その結果生じる大量の仮想マシンを抽象化し、管理を自動化する「プライベートクラウドの構築」、そしてその先にあるのが、「パブリッククラウドの追加」によるシステムのユーティリティ化だと説明した。

 コーミア氏は、クラウドインフラのプレイヤーはRed Hat、VMware、Microsoftの3社に絞られると説明する。第1ステップである「サーバの仮想化」の段階からして、トータルでサービスを提供できているのがこの3社のみであるというのがその理由だ。XenServerなどを提供するCitrixの名前が挙がらなかったのは、Red HatがすでにXenを過去の仮想化技術と見なしているという意思の表れだろう。

 そして、第2ステップである「プライベートクラウドの構築」で、OSやミドルウェアを有するRed HatとMicrosoftが競争力を維持でき、VMwareはその輪から外れるとコーミア氏は主張する。SpringSourceのことが忘れ去られているようだが、VMwareがOSを持たないのは事実だ。

 さらに第3ステップである「パブリッククラウドの追加」では、自社の製品スタックで固めたいMicrosoftは、ベンダーロックインを嫌うユーザーとの摩擦が生じると説明、その結果、この市場を制することができるのはオープンな戦略を貫くRed Hatであると説明した。

同社の戦略の鍵となる「CLOUD ENGINE」は軌道に乗るか?

 戦略としては明快だが、問題は、このビジョンが形になるにはまだ時間を要するということだ。特に、第3ステップでパブリッククラウドを自由に追加して利用するという流れを作るには、クラウド間でサービスAPIが共通化されていることが前提となる。

 Red Hatは「CLOUD ENGINE」と呼ぶレイヤでそれを吸収したい考えだ。このCLOUD ENGINEについて多くは語られなかったが、それを推察するためのキーワードとして、「Deltacloud」「RightScale」などがコーミア氏の口から語られた。

tnfigrh3.jpg パブリック/プライベートを問わず透過的に管理するためにRed Hatが考えているのが「CLOUD ENGINE」。青色部分はまだ提供されていないことを示す。リリーススケジュールが立っていないのが気がかりだ

 Deltacloudは、Red Hatが2009年9月に開催した「Red Hat Summit 2009」で発表した2つのプロジェクトの1つ。もう1つのプロジェクトは「Hail」という名称だ。

 Hailは、GoogleのChubbyに似た分散ロック管理サービス「CLD」、Amazpn S3に似たデータストレージサービス「tabled」、Google File System(GFS)に似た「chunkd」などの技術でクラウドの技術基盤を実装しようとするプロジェクト。一方のDeltacloudは、共通のクラウドサービスAPIと管理インタフェースを整備しようとするプロジェクトである。Hailが仮想化統合管理システムで、そのフロントエンドがDeltacloudと考えればよい。Deltacloudは、例えばRightScaleが提供しているようなものとなる。

 まとめると、Red HatがいうCLOUD ENGINEとは、クラウドサービスAPIを共通/抽象化することで、クラウド間の差異を吸収し、どんなクラウドプラットフォームのパブリックあるいはプライベートクラウドであっても、Deltacloudから透過的に管理できるようにすることを狙ったものだ。

 しかし、クラウド間のサービスAPIを整備しようという動きは、Red Hatだけでなくほかのベンダーもそれぞれの思惑を持って進めている。例えば、Xen.orgが推進している「Xen Cloud Platform(XCP)」も同様の考えに基づいている。クラウド間のサービスAPIを共通化しようとする試みは野心的だが、裏を返せば非常に手間の掛かる作業だ。Deltacloudが主流になるかどうかはまだ分からない。

 ただ、外堀を確実に埋めているのは確かだ。Red Hatは2009年6月に、クラウドの認定資格とパートナープログラム「Premier Cloud Provider Certification and Partner Program」を発表、Amazon EC2を有するパブリッククラウドの大物であるAmazonと最初のパートナー契約を結んでいるが、2010年に入ってIBMやNTTコミュニケーションズがその輪に加わっている。こうしたベンダーがDeltacloudを支援すれば、力強い動きになるかもしれない。

 HailとDeltacloudの両プロジェクトで誕生するであろう成果物を、CLOUD ENGINEとして取り込むことがRed Hatのクラウド戦略の当面の戦術だが、そのリリーススケジュールについては明言を避けた。現在、Deltacloudのバージョンは0.0.1。実質的にはまだほとんど開発が進んでいないことを考慮すると、すぐに動きがあるとは考えにくい。コーミア氏は、「向こう3カ月ほどでもう少し仕様が固まってくるだろう」と述べるにとどめた。

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