駅は“マザーステーション”に生まれ変われるかSFC ORF 2010 Report(1/2 ページ)

ラッシュの人混みや薄暗い構内――鉄道の駅にはネガティブな印象が付きまとう。慶應義塾大学SFC研究所の年次イベント「ORF 2010」のセッションでは、女性の視点から未来の駅がどうあるべきかについて、活発な意見交換が行われた。

» 2010年11月23日 08時10分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 慶應義塾大学SFC研究所が研究成果を紹介する年次イベント「慶應義塾大学SFC Open Research Forum 2010(ORF2010)」が11月22〜23日、都内で開催された。総合政策学部准教授の古谷知之氏がモデレーターを務めた交通運輸情報プロジェクトのセッションでは、女性の社会進出やワークライフバランスが叫ばれる中で未来の鉄道駅がどうあるべきかについて、意見交換が行われた。

 参加したパネリストは、東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)の四ッ谷駅駅長の白山弘子氏、JR東日本研究開発センターフロンティアサービス研究所副課長の伊藤晶子氏、神戸女子大学家政学部助手の西本由紀子氏、「女の欲望ラボ」代表の山本貴代氏である。

セッションに参加した古谷氏、白山氏、西本氏、伊藤氏、山本氏(左から)

 セッションの冒頭で古谷氏は、「これまでの駅には通勤・通学客を対象にしたサービスが求められてきたが、社会環境の変化から多様なニーズが生まれ、それにどう応えるかが課題になっている」と提起した。鉄道駅には街作りの観点からも中心的な役割が期待されているという。利用者の意識や現場での取り組みについて、パネリストの各氏が意見を述べた。

朝の声掛けから始める

 駅の現場業務にはホームの安全確認や改札、窓口での対応などさまざまなものがあるが、駅長の業務について白山氏は、「安全と安心を実現していくために、日々の利用者ニーズにどのように対応していくかを考えること」と話す。四ッ谷駅には商業施設や東京メトロの駅もあり、白山氏は周辺施設の関係者とも協力して、駅に対する利用者の満足度を高めることが駅長の使命であると紹介した。

 白山氏が抱える業務も多岐にわたるが、特に心掛けているのが利用客への挨拶であるという。鉄道業界ではITを活用したサービスが広がりで乗客の利便性が向上したものの、乗客と職員が接する機会が以前よりも少なくなったためだ。

 「高齢の男性客は気軽に挨拶を返してくれますが、若い人はうつむいたまま去ってしまう人も少なくない。しかし、メールで応援を寄せてくれる人は若い人が多く、駅に寄せられるニーズは世代によってさまざまな形があります」(白山氏)

 西本氏は、妊娠中や育児中の女性から見た駅利用の現状について調査結果を紹介した。特に育児をしている女性に対しては、同性からの批判的な意見が目につくという。

 育児で大活躍するベビーカーは、最近では機能性やデザイン性に富み、たくさんの荷物が積めるものもある。最近では駅のバリアフリー化によって段差の解消やエレベーターの設置が進み、ベビーカーを利用しやくなった。育児中の女性が積極的に外出できる道具として不可欠な存在になっている。

 だが、ベビーカーは駅構内や列車内に狭いスペースでは場所を占有してしまう。周囲に対して気を使う人が多いものの、一部には気を使わない人もいる。西本氏の調査では、このような人に対して若い世代の女性が不満を感じている割合が高いことが分かった。

 駅の利便性が高まるにつれて、多くの利用客が気分を害することがないように、利用客それぞれの心遣いと積極的なコミュニケーションが不可欠だとしている。

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