富士通とOracle 協業深化の行方Weekly Memo

富士通とOracleが先週、基幹システム向けUNIXサーバの新たな共同開発製品を発表した。これを弾みに、両社の協業関係は今後さらに深化していくのか。

» 2010年12月06日 08時10分 公開
[松岡功,ITmedia]

デザイン・ロゴ共通の共同開発製品を発表

 富士通と米Oracleが12月2日、新プロセッサ「SPARC64 VII+」を搭載したUNIXサーバ「SPARC Enterprise Mシリーズ」を発表した。同サーバは、Oracleが今年1月に買収した米Sun Microsystemsと、富士通が2004年から共同開発してきたSPARC Enterpriseシリーズの最新製品で、OracleがSunを買収して以降、初の大規模な製品発表となる。

 新プロセッサは富士通が独自に開発したもので、既存のサーバが搭載する「SPARC64 VII」に比べて、動作周波数を2.8GHzから3.0GHzに高め、2次キャッシュ容量を6メガバイトから12メガバイトに拡大したことなどにより、20%の性能向上を実現したという。

 こうした性能強化もさることながら、今回の新製品発表における最大の目玉は、製品デザインと製品ロゴを共通化したことだ。従来のSPARC Enterpriseは、富士通およびSunのそれぞれのブランドで独自の筐体を採用していたが、今回の新製品では新たに富士通とOracle、さらにSunのロゴを配した共通デザインの筐体をグローバルで統一して提供していくという。これによって、両社の協業関係が今後も継続されることを目に見える形で打ち出した格好だ。

 発表会見ではさらにSPARC Enterpriseシリーズのロードマップにも触れ、今後も富士通とOrcaleが共同で製品強化を続けていく意向を強調したうえで、Mシリーズについては3年後に性能を15倍に高めるとした。SPARC Enterpriseシリーズのロードマップについては、すでにOracleが9月中旬に米国で開いたプライベートイベント「Oracle OpenWorld 2010」で概要を示していたが、富士通がこれにあらためて共同歩調をとる姿勢を明らかにした形だ。

 富士通の佐相秀幸副社長は会見で、クラウドコンピューティング時代に向けた同社のプロダクト戦略について「サーバを中核にフルスタックで製品を提供していく」としたうえで、「フルスタックの中でも必ずしも得意でない分野や、パートナーとの連携によって顧客に最善のソリューションを提供できるならば、それらはグローバルプレーヤーとのアライアンスによって対応していこうというのが基本的な考え方だ」と説明。Oracleとの協業がその象徴であることを示した。

 一方、Oracleを代表して会見に臨んだ日本オラクルの遠藤隆雄社長は今回の新製品について、「富士通とは20年以上にわたる良好なパートナーシップを維持している。SPARC Enterpriseはそうした両社の関係を象徴しており、日米双方の技術を組み合わせた世界を席巻するにふさわしい製品だ」と強調。さらに、「SPARC EnterpriseのプラットフォームであるSPARCやSolaris OSにかかる開発投資を両社が分け合って進化させていく連携が、とても大事だと考えている」と、両社による共同開発の意義を説明した。

新製品の前で握手する富士通の佐相秀幸副社長(左)と日本オラクルの遠藤隆雄社長 新製品の前で握手する富士通の佐相秀幸副社長(左)と日本オラクルの遠藤隆雄社長

共通の大きな競合相手に対抗するベストパートナー

 では今回の新製品発表を弾みに、両社の協業は今後さらに深化していくのか。富士通の佐相副社長はこの点について、こう発言した。

 「IT市場がグローバルな大競争時代に入った中で、Oracleと富士通には共通の大きな競合相手が存在している。その競合相手に対抗していくためにも、お互いが強みとする技術を持ち寄って協業を進めていくのが、両社でこれからやるべきことだと考えている。ただ、今後のパートナーシップの詳細については、きちんとお話しできるようなレベルになるまでコメントを差し控えたい」

 最後はただコメントを避けたのか、それとも次のステップが具体化しているのか、何とも思わせぶりな発言に聞こえた。

 一方、日本オラクルの遠藤社長も佐相副社長の発言を受けて、「富士通とOracleは共通の大きな競合相手に対抗するベストパートナーだと確信している」と語り、Oracleのラリー・エリソンCEOも常々そう話していると強調した。

 両氏とも「大きな競合相手」の具体的な名は挙げなかったが、米IBMであることは歴然だ。複数ならば、米Hewlett-Packard(HP)も視野に入っているかもしれない。いずれにしても、今後の協業深化に最も重要な進むべきベクトルは両社ともに一致している。

 佐相副社長の言うグローバルな大競争時代に入ったIT市場では今、ダイナミックな合従連衡が繰り広げられている。背景には、クラウド時代に向けて大手IT企業が垂直統合ビジネスモデルを構築しようという動きがあるが、これはまさしくグローバルでのボリュームビジネスを追求したパワーゲームだ。

 10月12日掲載の本連載コラム「国産ITメーカー“御三家”は世界で存在感を示せるか」で、そうしたパワーゲームの中で今後“御三家”(富士通、NEC、日立製作所)に期待したい私見を述べたが、ここであらためて説いておきたい。

 企業向けクラウドサービスとしてインフラからアプリケーションまで展開し、オンプレミス(自社運用)向けにもハード、ソフト、サービスを総合的に提供できるグローバルなメジャープレーヤーといえば、IBM、HP、そしてSunを買収したOracleなどに絞られる。富士通、NEC、日立製作所もこの一角に名を連ねたいところだ。

 そこで期待したいのは、富士通とOracle、NECとHP、日立製作所とIBMが、それぞれさらにパートナーシップを深めることだ。この3つの組み合わせに共通しているのは、ミッションクリティカルなサーバ分野で長年の戦略的協業関係を築いてきたことだ。それぞれにそうそうたる顧客企業が名を連ねていることが、パートナーシップの礎となっている。

 それぞれのメリットは何か。Oracleにとって富士通のSIを含めたITサービス力は大きな魅力のはずだ。HPにとってのNECも同様だろう。IBMにとっての日立製作所は、ITサービス力に加えて社会インフラ整備の分野でも強力なパートナーになるはずだ。一方、富士通、NEC、日立製作所にとっては、パートナーのグローバルブランドを生かしたボリュームビジネスを展開できることに大きなメリットがある。

 Oracle&FUJITSU、HP&NEC、IBM&HITACHIといったダブルブランドが、世界のIT市場をリードする時代が来ないものか。中でも今回、サーバの共同開発製品を発表して協業を深化させた富士通とOracleには、その先鞭をつけてもらいたいものだ。

 Oracleのラリー・エリソンCEOと富士通の山本正已社長の両トップが、ガッチリと手を握り合うような協業の深化に期待したい。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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