2011年のエンタープライズIT市場はどうなるかWeekly Memo

IDC Japanがこのほど発表した2011年の国内IT市場における10項目の予測を基に、エンタープライズIT市場の今後の行方を探ってみたい。

» 2010年12月20日 08時03分 公開
[松岡功,ITmedia]

IDCが挙げた10項目の国内IT市場予測

 2010年も残すところ10日余り。さて2011年のIT市場はどうなるのか。IDC Japanがこのほど発表した2011年の国内IT市場予測では、次の10項目が挙げられている。

(1)国内IT市場は2010年以降、緩やかな拡大基調にあるが、2011年は一時的に減速する。

(2)インテリジェントシティの具体化に向けたプロジェクトが始まり、業種を超えた国際標準化を目指し主導権争いが激化する。

(3)スマートフォン、クライアント仮想化の普及が、PCを含むクライアント環境に地殻変動を与える。

(4)端末が牽引するモバイルソリューション市場で、固定系のソリューション提供力を持つ事業者が市場機会を得る。

(5)ビジネス変化への対応スピードによってユーザー企業が二極化し、ハードウェアベンダーはビジネス戦略の再構築を迫られる。

(6)スマートディシジョンに向けた次世代ビジネスアナリティクス(BA)環境と企業のIT基盤の融合に向けた基幹システムの刷新が加速する。

(7)オフショアを超えた「グローバルなサービス提供体制」と、多拠点からのサービスを連携/統合する「スマートサービスインテグレーション」が進む。

(8)クラウドの発展がICTベンダーにさらなる試練を与える。

(9)ITサービスの複合化/多様化、および国内市場の競合激化に対応するため、技術や規模の確保を狙ってM&Aが加速する。

(10)HCP(Hardcopy Peripheral)ベンダーからソリューションベンダーへの転換が本格化する。

 ここではエンタープライズIT市場を対象に、この中から(1)(5)(8)の項目に注目して、IDCによる解説を紹介しておこう。

 まず(1)については、国内IT市場は今後緩やかな拡大基調になる見通しだが、2011年は一時的に減速し、前年からほぼ横ばいになるとしている。その背景として、人口減少や政府の財政難で内需拡大が期待できないことから、多くの企業が急成長する新興国市場など海外への展開を目指しており、その事業活動が国内と海外を一体運営する方向へ急速に変化していることを指摘。企業のIT投資も海外向けに軸足を移し、国内向けは抑制傾向になると予測している。

BPOの発展系「BPaaS」に注目

 (5)については、国内でIT投資を検討する基準がコスト削減一辺倒だった時代は終わり、ビジネス変化にいかに素早く対応するかを重視するユーザー企業が徐々に増えていると分析。この変化に伴い、IT部門にとっての主要テーマは、コスト削減から「Dynamic IT」の実現へとシフトしつつあると指摘。具体的には、特定のサーバー/ストレージ製品の機能やパフォーマンスに依存してシステムが実現されることではなく、変化に対してより柔軟に、迅速に、コスト負担を低く対応していくことだとしている。

 このようなトランスフォーメーションに直面しているユーザーにとっては、SaaSとしてのパブリッククラウドサービスへの移行はもちろん、IaaSとしてのクラウドサービスも「ハードウェア」の選択肢の1つになるという。

 また、ソリューションを提供するベンダー側から見ると、2011年はコスト低減要求が非常に厳しく、社内に高度な技術力を持ち、コモディティ化されたハードウェアを積極的に活用しようとするサービスプロバイダーのような先進ユーザーとのビジネスは、収益率は高くないが新しいテクノロジーの普及のためには必要だという。

 一方、先進ユーザーに比べて変化の遅い一般ユーザー企業に従来型のシステムを提供することは、短期的な収益では有利だが市場の成長性では厳しいと指摘。こうしたことから、ベンダーは変化への対応スピードの違いで市場が二極化するというトランスフォーメーションに直面し、両局面の間で難しい舵取りを要求されることになるとしている。

 (8)については、現在のクラウド市場は一部を除いて既存IT市場からのリプレースだと指摘。クラウドはパブリック、プライベートにかかわりなくITの効率化を進め、ユーザーのIT支出を削減することから、クラウドの発展が既存ICT市場の縮小を引き起こしているという。

 とはいえ、国内クラウド市場において前年比成長率が最も高くなるのが2011年だと予測。新興市場ともいえるクラウドにおいて、ベンダーは先行者利益を獲得するためにも市場をけん引する立場になることが重要だという。ICTベンダーにとって、クラウド事業で確かな競争力を持つことは喫緊の課題だとし、また、遅くとも2012年にはベンダーの市場競争力にクラウドが重要な役割を果たすようになるとしている。

 最後に、市場予測として私見を1つ。IDCがまとめた10項目のように表現すれば、「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)とクラウドによるパッケージサービスのビジネスが活発化する」ことを挙げておきたい。端的に言えば、「BPaaS」(ビジネス・プロセス・アズ・ア・サービス)である。

 これまでもBPOを実践するためにはICTが欠かせない存在となってきたが、BPaaSを展開するとなると、これまで以上に業務プロセスの一部を外部に委託してもセキュリティに影響が出ないようにワークフロー管理システムを強化したり、社外からアクセスできるネットワーク環境を整えたりする必要がある。

 しかし、ICTベンダーにとってそこはお家芸。そうしたインフラ環境を整えたうえで、かねて展開してきた業種・業務別ソリューションを生かせる可能性があることから、有力ベンダーはこぞって仕掛けづくりを急いでいる。

 ただ、BPaaSもBPOと同様に、業務の標準化や雇用への影響といった課題がある。メリットとデメリットを見極めたうえでの経営判断が必要となるが、2011年はそんなBPaaSの適用事例が続々と出てくると予測する。

 あらためて、IDCの解説に「国内クラウド市場において前年比成長率が最も高くなるのが2011年」という一文があったが、その勢いが混沌とする国内景気を押し上げる起爆剤になることを期待したい。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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