ふぞろいの編集者たち【後編】2010年編集後記

いよいよ年の瀬も押し迫る中、2010年のITmediaエンタープライズも最後(たぶん)の記事更新を迎えました。2010年を気ままに振り返る編集後記をお届けします。

» 2010年12月30日 08時00分 公開
[ITmedia]

ふぞろいの編集者たち【前編】に続き、後編を担当するのは新米パパの伏見学、ハレの新婚、石森将文、そして鬼編集長、谷古宇浩司の3人です。

有言実行の中国訪問

(伏見 学)

 昨年末の編集後記で「来年は中国で取材します」と宣言しました。公約通り、今年9月に上海万博を取材できたほか、プライベートではありますが、3月にも編集部の諸先輩方と上海を旅行しました。

 万博の様子は日本でもニュースなどで報じられていたように、会場入口からものすごい人だかりで、熱中症になる来場者が続出するのも無理ないなと感じました。場内には、涼をとるためにミストシャワーが定期的に噴出する仕掛けなどが用意されていましたが、これがちっとも涼しくなかった(笑)。果たして、どれだけの効果があったのでしょうか。

 上海万博でとても興味深かったのは、日本産業館の盛況ぶりと、韓国企業連合館の閑散ぶりです。万博会場は黄浦江を境に、大使館がパビリオンを出展する「国家館エリア」と企業が出展する「産業館エリア」に分かれていて、日本産業館と韓国企業連合館は、産業館エリアにおいて目と鼻の先に位置しています。私が訪れたとき、日本産業館は大行列ができていて、入館まで2時間半待ちでした。一方の韓国企業連合館は待ち時間なし。館内もがらんとしていて、取り立てて目を見張る展示はありませんでした。

 もしかしたら、偶然その日の来場者が少なかったのかもしれませんが(会期中の日本産業館の総入館者数は500万人以上、韓国企業連合館は470万人という結果が出ている)、中国市場において日本の製品ブランドがサムスンをはじめとする韓国メーカーに圧倒されている状況を鑑みると「まだまだ日本企業は中国で戦える」と強く確信できました。

 昨今、大手企業はもとより、売り上げ拡大を求めて中堅・中小企業のアジア進出も増えています。高い技術力、高品質など日本の強みを存分に発揮して、来年は中国を中心とするアジア市場でますますの飛躍を期待します。


 最後に、私事ですが先週12月24日に第一子を授かりました。予定日より3週間も早い出産となったわけですが、わたしたち夫婦ならびに家族にとって、最高のクリスマスプレゼントとなりました。

 このところ若者が海外に出ないことが問題視されていますが、娘にはどんどん海外に目を向けて、広いこの世界を十分に堪能できるよう積極的に支援していきたいです。いきなり親ばかですみません。来年も「ITmedia エンタープライズ」をどうぞよろしくお願いします。

2010年度のキーワード――「リーク」と「稼働率」

(石森 将文)

 わたしは2010年を、2つのキーワードから振り返りたいと思います。

 1つは「リーク」です。特に今年はソーシャルWebサービスを確信犯的に利用した暴露が世間を賑わせました。

 尖閣諸島近海で発生した中国漁船体当たり事件の一部始終をYouTubeに公開したsengoku38氏の件は、記憶に新しいところです。海外ではWikiLeaksが、大国の国防・外交に関する機密を含む情報を公開しています。また芸能ゴシップの分野では、大桃美代子さんが、元夫と麻木久仁子さんの不倫関係をTwitterでつぶやくというニュースもありました。

 もちろん数年前から、WinnyのようなP2Pソフトを通じた個人情報・業務情報の漏えい事件はありました。ですが今年の特徴は「意図的な漏えい」が多いことでしょう。Winnyなどを経由したプライバシーの漏えいは、本人は漏えいさせたくなかったはずであり、突き詰めれば使用者の不注意が原因です。ですが今年は、Webのバイラル性を確信犯的に利用したケースが頻出しました。それだけ社会にWebサービスが浸透したという評価も成り立ちますが、だからこそ、その利用に際してのモラルがいっそう問われるべきでしょう。

 今さらではありますが、インターネットはもはや、詳しい人や好き者だけが集う場所ではなくなりました。ITリテラシーという言葉がありますが、現代の社会生活を営むためには「Webリテラシー」の確立が必要になりそうです。


 もう1つのキーワードは、「稼働率」としたいと思います。とはいえクラウド化して企業IT基盤のリソース有効利用がうんぬん……という話題ではありません(大切なことですが)。数年前からその傾向が見られていましたが、2010年はいよいよ、「稼働率(実際の利用シーンや頻度)が高い製品・サービスがコンシューマー市場でも支持される」時代になったな、と感じるのです。

 具体的には、例えば「ゲーム」。トレンドが据え置き機からNintendo DSやPSPといった携帯ゲーム機に遷移したのが2009年までの流れであったとしたら、2010年度はいよいよ、ケータイ電話でのゲームがブレイクした年だったと言えるでしょう。ユーザーが問うているのは、ゲームのボリュームやグラフィックの質ではありません。「いつでもプレイできるか? 他ユーザーと交流できるか?」という要素なのです(今も昔も、若い世代はコミュニケーションツールが大好きです)。

 他にも、大型のデジタル一眼レフではなく小さなミラーレスカメラが支持を得たり(わたしも買いました)、排気量の大きい車よりもハイブリッドカーが格好いいとされたり(わたしは移動に自転車を使うことが多くなりました)、またお店の作りや店員の対応を問うよりも「270円均一!」というような価格設定の居酒屋が支持されるようになりました(給料日前は特にお世話になっています)。

 つまり2010年は、所有の喜びよりも「普段使いできる=稼働率(実際の利用頻度)高めのサービス」をユーザーが求める年だったと感じます。この傾向はしばらく続くのではないでしょうか。

 それを踏まえて2011年にブレイクする製品・サービスに必要な要素を考えてみます。それは重厚長大ではなく、「軽薄短小・安近短」。基本料金が無料で、付加サービスは従量課金で提供されるビジネスモデルだとベターです。加えて課金分にはクーポンやポイントバックなどで「実質○△円引き!」というアピールをできれば言うことない……かもしれません。

未来は、必ずしも過去より素晴らしいわけではない

(谷古宇 浩司)

 金融危機の影響は2010年も尾を引きました。財政危機に陥ったギリシャが欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)に融資を要請したのは4月のこと。IMFの支援額は前代未聞の450億ユーロ(5兆6000億円)でした。PIIGS諸国の財政状況もいまだ改善の見込みは立っていません。

 一方、中国は世界経済における存在感をますます強めました。11月に閉幕した上海万博の入場者総数は7300万人以上だそうです。経済的な立場の堅固さは、政治的主張の大胆さに結びつきます。劉暁波氏のノーベル平和賞授与において、同国はノルウェー政府を始め、授賞式参加予定各国に政治的・経済的な圧力をかけました。

 中国の後ろ盾で世襲による権力委譲を行いつつある北朝鮮が黄海・境界付近の島に砲撃を行ったのも11月のことでした。韓国軍兵士が2人死亡し、非戦闘員である住民にも被害が及びました。にわかに緊張感を帯びた朝鮮半島は、6カ国協議を含む世界外交の最前線に再び踊り出ました。外交の失敗は流血を意味します。半島の剣呑な事態はわたしたちにとって、対岸の火事ではありません。

 11月はさらに、WikiLeaksが米公電25万通を暴露した月でもあります。情報技術の進化の勢いは緩まることがなく、旧時代に定められた法規制やわたしたちの慣習を置き去りにして、その形態をドラスティックに変貌させ続けています。

 翻って、日本の話。9月に日銀は、円高阻止で6年半ぶりの為替介入を行いました。10月にはゼロ金利が復活。デフレ不況のトンネルは、わたしたちの予想を超えて、はるかに長く掘られているようです。10月時点での日本の大学生の就職内定率は57.6%で過去最低です。

 日本の新聞は2010年を通じて明るい経済ニュースをほとんど報じませんでした。普天間飛行場の辺野古移設閣議決定、中国漁船と海保巡視船の接触事件、メドベージェフ露大統領の北方領土・国後島訪問など、政治面でも日本を取り巻く状況は大変厳しいものでした。年金・社会保障制度改革、税制改革、2011年度の予算編成、政府・与党のお家事情……数え上げればキリがありませんね。

 とはいえ、わたしたちは歩み続けなければいけません。技術の進歩は確かにわたしたちの生活を改善してくれますが、わたしたちが日々の生活で実感する幸福感の増大に貢献するには、力が足りないようです。わたしたちは、薄々感づいています。いや、知っているけれど、目をつぶっているだけなのかもしれない。つまり、こういうことです。「未来は、必ずしも過去より素晴らしいわけではない」。

 技術革新の成果を盲信せず、冷静な判断で取捨選択を行っていきたい。2011年が人類にとってよい年であることを祈りつつ、少なくともわたしは、わたしにできることからコツコツやっていきたいと思います。

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