暮れゆく2009年。ITmedia エンタープライズのふぞろいの編集者たちにとって、どんな年だったのでしょう。編集後記という大義名分を借り、自由に書いてみました。
そんな編集後記の前編は、コラム「e-Day」を執筆する浅井英二、オープンソースの動向を追う西尾泰三、早起きが取りえの翻訳担当、佐藤由紀子、オルタナティブ・ブログを仕切るばんちょ〜こと鈴木麻紀の4人がばらばらにお届けします。なお、メールマガジンのユニークなコラムで定評のある石森将文は、連日の取材で風邪に倒れ、残念ながら欠場です。
(浅井英二)
少しばかり年齢を重ねてきたせいでしょうか、年々、時が過ぎるのが速くなってきました。駆け足でやってきた師走も、あとわずか、です。
今年は、あれもやり残した、これも……。きりはないのですが、1カ月ほど前に「e-Day」で、システム全体の仮想化と適切な管理ツールの必要性について書き、「デスクトップ環境の仮想化については、別の機会に」としていたので、この後記のために少し考えてみました。
デスクトップの仮想化は、多くのアナリストが2010年に急速に浸透が進むと予測している新しいソリューションです。しかしながら、日本の企業においては、この新技術に対する検討がそこまで進んでいないように思います。このままいくとすれば、少しオーバーかもしれませんが、日本の企業は「デスクトップ」という足カセに苦しみ、IT活用という点で、またしてもグローバル企業に後れを取るのではないかと危惧しています。
この分野のパイオニアは、Citrix Systemsです。OS/2やWindowsをUNIXのようなマルチユーザー型に改良し、複数のユーザーがWindowsアプリケーションをサーバで走らせ、ネット越しに利用する「Server Based Computing」が始まりです。1990年代は、LANを前提としたクライアント/サーバ型のアプリケーション全盛の時代であり、これをWANに展開する際、ネットワークの遅さが課題となりました。この解決に有効だったのが、CitrixのServer Based Computingでした。もちろん、データの漏えい防止やアプリケーションの標準化にも一役買いました。
こうしてCitrixが培った技術と、このところ急速に成熟してきたサーバ仮想化技術が融合したとき、クライアント側の仮想化も、「アプリケーションの仮想化」から「デスクトップ(環境)の仮想化」へと進化しました。これら2つは混同しがちですが、きちんと分けて考えるべきものです。
デスクトップの仮想化では、従来クライアントPCで稼働していたOSやアプリケーションをそのままデータセンターに移します。ただし、そのまま移してはサーバが何台あっても足りないので、VMwareやXenServerのようなハイパーバイザーを使い、たくさんの仮想マシンを詰め込めるようにします。利用する際に仮想マシンを割り当て、OSやアプリケーションを読み込むため、OSやアプリケーションのイメージはそれぞれ1つで済み、ストレージ容量が節約できるだけでなく、標準化に役立ちます。もちろん管理も劇的に簡素化できます。
2010年、多くの企業がWindows 7へのアップグレードに踏み切るとみられていますが、台数が1万台、2万台となると、数年がかりの大変な作業となります。デスクトップ環境が仮想化されていれば、物理的にPCの環境を1台1台アップグレードする必要はなく、OSだけに限って言えば、OSのイメージを1つ入れ替えるだけ済みます。
デスクトップの仮想化で期待される恩恵は、コスト削減やアジリティなど、サーバの仮想化の場合と似通っていますが、デスクトップ環境は台数がけた違いに多いため、その仮想化のインパクトは大きいでしょう。
(西尾泰三)
2009年もさまざまな出来事がありました。その中には、米国防総省が「サイバー軍」を創設したり、ロシアで新しい祝日として「プログラマーの日」が制定されたりと、その筋の人からすればニヤリとするものもあるのですが、後にIT業界を大きく変えた出来事といわれるものを挙げるとすれば、「クラウド」「iPhone/Android」辺りではないかと思います。
プレイヤーでいえばGoogleの話題で事欠かなかった1年ですが、長年オープンソース周りを取材してきた記者からすると、TOMOYO LinuxのコードがLinuxカーネルのメインラインにマージされたことがエポックメイキングな出来事でした。
TOMOYO Linuxのプロジェクトを進めてきたNTTデータの原田季栄氏は、@ITのインタビューで、「カーネルの拡張を行う場合、メインラインに入らないものはいつか自然に消滅する」と述べていますが、これはなかなか奥深い言葉です。
原田氏の言葉は、仮想化技術の分野にも当てはまります。仮想化技術の本命としてはVMware、Citrixのほか、KVMが挙げられます。3者の関係を抽象化すると、プロプライエタリなVMwareと、オープンなKVM、両者にはさまれたCitrixといった感じでしょうか。VMwareの話題はここでは触れませんが、Citrixの動向に注目したいところです。
なぜなら、LinuxカーネルにマージされたKVMは、Linuxカーネルで追加される新しい機能を享受できますが、マージされていないCitrixのXenは自前でそれらの機能をサポートしていく必要があります。言い換えればXenの将来は(もちろんコミュニティーの力もありますが)Citlixの双肩にかかっているということになります。
Xenを用いた最も有名かつ大規模なシステムは、Amazon Web Services(AWS)でしょう。しかし上述したように、仮想化技術はKVMが主流となっていくことが予想される中、Amazonはどこかのタイミングで、Xenではなく、CitrixのXenServerに切り替えていくと予想されます。無償で提供されているXenServerがAWSで採用されれば、企業が仮想化技術を採用する際のよき事例として機能するでしょう。厳しい経済状況の中、無償でかつ高機能というアピールは企業のシステム担当の心に響くからです。さらに、AWSを用いた仮想デスクトップインフラ(VDI)の提供も視野に入ってくることも注目されます。2010年はクラウドを利用したVDIがその姿を現すかもしれません。
Citrixにとって最良のシナリオがあるとすれば、パブリッククラウドはAmazon Web Services、プライベートクラウドはXenServerやAmazon EC2互換のクラウド基盤である「Eucalyptus」が採用されることでしょう。Xen Cloud Platform(XCP)の動きと併せて、2010年の動きが注目されます。
(佐藤由紀子)
海外記事の翻訳担当としてこの1年を振り返ると、とにかくほぼ毎日何かしらGoogle関連の記事を翻訳していたという印象があります。そんなわけで、編集後記に代えて2009年に掲載したGoogle関連記事から約100本をピックアップして年表を作ってみました。Googleのすべての発表を網羅しているわけではないし、ちょっとかたより(モバイルや広告関連がないなど)もありますが、ほんのりGoogleの行く先が見えるような気がしたりしなかったり。
業績 | 検索 | Android | 企業向け | Web高速化 | 対メディア | 企業買収 | その他 |
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1Q | Android Marketで有料アプリ販売開始 | 有料版「Google Apps」ユーザーが1000万人超 | 接続スピード判定プラットフォーム「M-Lab」 | 位置情報機能「Google Latitude」 | |||
「HTC Magic」発表 | 「Google App Engine」の有料オプション発表 | 正式版「Google App Engine」 | |||||
「Google Apps Status Dashboard」 | |||||||
2Q | 「似た画像検索」 | 「Android 1.5」(Cupcake) | 「Google Apps」と「Outlook」の同期ツール | サイト高速化支援技術「Page Speed」 | Googleブック検索和解に消費者団体が反対 | 「Google Health」に米大手薬局参加 | |
「Google Squared」 | 「HTC Hero」発表 | 「競争とオープン性の6原則」 | 「Google App Engine」がJavaをサポート | ||||
3D WebアプリAPI「O3D」 | |||||||
DIコンテナ「Guice 2.0」 | |||||||
Webブラウザ「Google Chrome 2.0」 | |||||||
リアルタイムコラボレーションツール「Google Wave」 | |||||||
3Q | 世界検索市場でシェアが約7割に | Android Marketのアプリが1万本超 | 「Google Apps」からβ表示を削除 | 「Google Reader」で「PubSubHubbub」採用 | 電子書籍サービスのプライバシーポリシー | ビデオ圧縮の「On2」 | JavaScript実装テストスイート「Sputnik」 |
検索トップページのデザイン特許を取得 | 「Android 1.6」(Donut) | 「Lotus Notes」から「Google Apps」への移行ツール | 高速記事リーダー「Fast Flip」 | OCR技術の「reCAPTCHA」 | リモートデスクトップサーバ「Neatx」 | ||
検索トップページのデザインを変更 | 「Motorola CLIQ」発表 | 移行キャンペーン「Going Google」スタート | 統計データ検索「Internet Stats」 | ||||
Google Docsの文書が検索可能に | 「Google Apps」に企業向け新機能 | JavaVM向けの新言語「Noop」 | |||||
「Google Apps」のドキュメント共有簡易化 | 「Data Liberation」 | ||||||
「Google Apps Script」 | 「DoubleClick Ad Exchange」 | ||||||
「Gmail」に他メールのデータインポート機能を追加 | |||||||
「Google Apps」にBlackBerry対応サービス | |||||||
コンテンツ移行ツール「Google Sites Data API」 | |||||||
4Q | 検索ツールに新機能追加 | Acer、Android搭載Netbookを発表 | 有料追加ストレージの価格を引き下げ | 高速化プロトコル「SPDY」 | 電子化した絶版書籍を他社も販売可能に | モバイル広告の「AdMob」 | 「Google Chrome 4.0 β」 |
PDFが検索結果で表示可能に | 「Android 2.0」(Eclair) | 「Google Sites」にテンプレート追加 | サイトの速度測定「Site Performance」 | ブック検索の和解案修正 | Skypeキラーの「Gizmo5」 | アカウント情報表示の「Google Dashboard」 | |
Twitterと提携 | GPSナビ「Google Maps Navigation」 | 「Google Apps」に「Google Groups」を追加 | 無料DNSサービス「Google Public DNS」 | 有料ニュースの無料閲覧回数を制限 | ディスプレイ広告の「Teracent」 | Webアプリ作成ツール「Closure」 | |
「Google Social Search」 | 「Motorola DROID」発売 | 「Google Search Appliance」でTwitter表示が可能に | YouTube高速版「Feather」β | Google Newsの"検索ブロック"を簡易化 | コラボレーションツールの「AppJet」 | 「Google Friend Connect」に新機能 | |
Wikipediaのカスタム検索スキン | Dell、「Mini 3」発表 | ロサンゼルス市が「Google Apps」採用 | 「Google Finance」でリアルタイムニュースを表示 | ニュースサービス「Living Stories」 | プログラミング言語「Go」 | ||
「似た画像検索」 | Google Phone「Nexus One」を確認 | 検索結果のリアルタイム表示機能 | 画像検索の結果をホイール状に表示する「Image Swirl」 | ||||
音楽検索機能 | Android Marketのアプリが2万本超 | Webアプリの性能分析ツール「Speed Tracer」 | 「Chrome OS」 | ||||
「Google Commerce Search」 | 「Google Suggest」に検索結果を直接表示する機能 | 写真で検索できる「Google Goggles」 | |||||
「Caffeine」 | URL短縮サービス「Google URL Shortener」 | 「Favorite Places on Google」でQRコードステッカー配布 | |||||
セーフサーチ機能を強化 | 「Google Chrome」がMac、Linuxに対応(β版) | ||||||
検索トップページをシンプルに変更 | |||||||
「パーソナライズ検索」をログインなしで利用可能に | |||||||
(鈴木麻紀)
オルタナティブ・ブログ&エンタープライズっぽくない記事担当の鈴木麻紀(通称:ばんちょ〜)です。2009年も浮かれて過ごしました。そんな浮かればんちょ〜が選ぶ2009年オルタナティブ・ブログ界隈の3大ニュースを、浮き浮きウカウカ発表します。
順位 | 2009年 オルタナティブ・ブログ3大ニュース |
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1 | オルタナティブ・ブログ 2年ぶりの全面リニューアル |
2 | ブロガー執筆書籍、怒涛の刊行ラッシュ |
3 | ブロガー執筆記事、エンタープライズサイトで幅を利かせる |
1位は、オルタナティブ・ブログのリニューアルです。ブロガーの皆さんとみんなで考えた新デザイン、すっきりシャッキリ見やすくなったでしょう? ばんちょ〜思わずうっとりニッコリしちゃいます。こき使われた弊社デザイン部メンバーが、めっきりゲッソリやつれたことは、公然の秘密です。
2位は、ブロガー執筆書籍、怒涛の刊行ラッシュ。クラウド、Twitterなど話題のテーマはもちろんのこと、ネットいじめとの戦い方、親子就活などの子育て関連、マーケティングなど、個々のブロガーがこだわって追いかけているテーマで、名著が続々生まれました。書籍の概要は、事務局だより(別名:ばんちょ〜ブログ)の「ブロガー執筆書籍」カテゴリーでご覧いただけます。あ、最近更新が滞ってますね。てへっ、ごめーん。
3位は、ブロガー執筆記事エンタープライズサイトで幅を利かせる、です。前野さん執筆のキラーウェブを創る、竹内さん執筆のビジネスマンの不死身力、小俣さん執筆のドジっ娘リーダー奮闘記など、この1年で多くの新連載が生まれました。そういえば、オルタナブロガーインタビューシリーズ、オルタナティブな生き方も2009年に始まりました。
ブロガーの執筆記事がエンタープライズサイトで幅を利かせているということは、ばんちょ〜がエンタープライズ編集部で幅を利かせている、ということでもあります。やりたいことをやってたら、楽しい日々になっちゃった、そんな感じで生きてます。2010年は、より一層やりたいことをやってみます。ため息つきつつ、見守ってくださいね。
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