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» 2011年01月17日 08時50分 UPDATE

Weekly Memo:中堅・中小企業におけるクラウド活用の勘所

ノークリサーチが先週発表した「2011年 中堅・中小企業におけるIT関連市場の展望」を基に、とくに中堅・中小企業におけるクラウド活用の勘所について考えてみたい。

[松岡功,ITmedia]

期待と現実とのギャップに悩む中堅・中小企業

 ノークリサーチが1月11日、年頭コメントとして発表した「2011年 中堅・中小企業におけるIT関連市場の展望」では、次の6点が掲げられている。

(1)2011年は2010年比プラス0.9%の横ばいだが、2012年以降に向けた下地作りが重要。

(2)クラウドの訴求は「基本インフラ維持負担軽減」と「業種別業務改善」の2つが有効。

(3)スマートフォンやタブレット端末が中堅・中小企業で普及するまでには時間を要する。

(4)「オンデマンドなアドホック分析」と「現場レベルでの可視化」がビジネスインテリジェンス(BI)の潜在需要を喚起。

(5)クライアント環境の仮想化では業務アプリケーションも含めたサービス提供が必要。

(6)クラウドによる構造変化だけでなく、海外展開に伴う委託先の変更にも注意すべき。

 ちなみに(1)の「プラス0.9%」という数字は、年商5億円以上から500億円未満の中堅・中小企業のIT投資規模を算出した結果だ。同社では、2011年の中堅・中小企業のIT投資規模は4兆4425億円と前年からほぼ横ばい状態になると見ている。

 ただし、2012年以降はサービス形態でITを活用するためのソリューションが徐々に洗練され、ユーザー企業の認知や意識にも変化が表れてくるという。従ってベンダーにとっては、2011年は自社のソリューションを訴求できる企業セグメントを見つけ出し、初期導入事例を通じてノウハウを蓄積することによって、2012年以降の本格展開に備えることが極めて重要だとしている。

 (3)〜(6)についても非常に示唆に富んだ内容なので、ぜひノークリサーチのホームページから発表リリースをご覧いただきたい。ここでは、とくに中堅・中小企業におけるクラウド活用の勘所という視点で、(2)の内容に注目したい。

 まず同社では現状認識として、大企業だけでなく中堅・中小企業においてもサーバ仮想化への関心は高まっているものの、中堅・中小企業がサーバ仮想化に期待しているのは、ハードウェアとソフトウェアの分離によるシステム安定性強化やレガシー資産継承だとしている。

 また、クラウドに対しては、中堅・中小企業の多くが「既存の業務システムを外出しすることでコスト削減を実現する」ことを期待しているという。しかし、個別カスタマイズや他システム連携が施されたERPなどの基幹系業務システムをクラウドに移行するのは容易ではなく、逆にクラウド移行が容易なグループウェアなどの情報系業務システムでは、社外に出すことでのコスト削減効果が低い。こうした期待と現実とのギャップによって、中堅・中小企業はクラウド活用に慎重な姿勢を見せているとしている。

国内クラウド市場規模(年商別)の推移(ノークリサーチの調査より、単位:億円) 国内クラウド市場規模(年商別)の推移(ノークリサーチの調査より、単位:億円)

オープンな選択が可能な流通機能の整備も焦点に

 そうした膠着状態を打開するためには、クラウド訴求のアプローチを変える必要があると同社は提言している。その1つが「基本インフラ維持負担軽減」。つまり、IaaS視点でのクラウド移行である。これはSaaS視点でのクラウド移行に比べると、個別カスタマイズや他システム連携の課題を克服しやすいという。

 また、「ユーザー企業が手軽に管理・運用できる専用サーバルームをクラウド上に実現する」という観点のIaaS訴求は、中堅・中小企業が求める「既存の業務システムを外出しすることでコスト削減を実現する」というニーズに適したものだとしている。

 さらに、中堅・中小企業が抱えるシステムには「ユーザーの目に見えない」ものも存在するという。マルウェア対策、スパム対策、情報漏えい防止などといったセキュリティ関連やPCの運用管理・資産管理などである。こうした運用管理系のシステムは個別カスタマイズや他システム連携が少ないのでSaaSへの移行が比較的容易だが、ユーザー企業はSaaS形態の運用管理システムを十分に認知していないという。

 このように「手軽な専用サーバルームとしてのIaaSへの既存業務システム移行」や「ユーザーの目に見えないシステムのSaaSへの移行」によって、ハードウェア、ネットワーク、運用管理といったIT活用における基本インフラの維持負担を軽減し、ITを業務改善に生かすための原資を生み出すことが重要だとしている。

 そして、もう1つが「業種別業務改善」の訴求である。「ITリソースを必要な時に必要なだけ、従量課金で利用できる」といった技術的な観点を説明しても、中堅・中小企業は「自社の本業には役立たない」ととらえかねない。従って、クラウドが持つメリットを業種固有の事情を踏まえた表現に言い換えることが必要だとしている。

 このように「基本インフラ維持負担軽減」によって原資を捻出し、「業種別業務改善」によって業績改善に役立つソリューションとしての認知に努めるといったステップを踏むことが、中堅・中小企業におけるクラウド訴求においては有効だというのが、同社のメッセージだ。

 この(2)の内容は、中堅・中小企業におけるクラウド活用の勘所としても非常に示唆に富んだものだと感じたので、エッセンスを紹介させていただいた。

 最後に、私見として勘所と感じている点を1つ付け加えておきたい。それはクラウドビジネスとしての流通機構を整備することだ。中堅・中小企業からすると、どんなクラウドサービスを活用すれば自社に有効なのかということを、オープンな立場で相談できるベンダーが少ないのが現状だ。

 しかし、中堅・中小企業向けのビジネスを生業とするベンダーからすると、クラウドビジネスで果たして収益を確保していけるのかが見通せず、躊躇しているところが少なくないのが現状だ。これは取りも直さず、システムインテグレーターがクラウドビジネスにどう取り組むのかという問題と根は同じだ。

 クラウドビジネスにおける流通機構の収益構造については、今後も試行錯誤が続くだろうが、そこにユーザー企業にとってオープンな選択ができる環境がどれだけ育まれるか。この点も今後の動きに注目していきたい。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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