サービスマネジメントの新しい「鼓動」

「実行されない戦略は妄想である」――サービスマネジメントが“Execution”を問うIBM Pulse 2011 Report(1/2 ページ)

サービスマネジメントを主題にしたIBMの年次カンファレンス「Pulse」も4回目を数え、ゼネラルセッションのテーマはコンセプトから「実行力」へと移りつつある。無定見なオープン化を「愚かなこと」とし、ワークロードの統合を訴えるIBMの真意はどこに?

» 2011年03月02日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

 米IBMの設立は1911年。つまり2011年となる本年は、同社にとって設立100周年となるメモリアルイヤーである。今年で4回目を数えるサービスマネジメントの年次カンファレンス「Pulse」も順調に参加者を増やし、3月1日(現地時間)のゼネラルセッションでは、昨年に引き続き米国ラスベガスで開催されたPulse 2011への登録者数が7000人に達した旨が報告された。

 従来、Pulseのゼネラルセッションにおいては「サービスマネジメントとは何か? どのような考え方か? なぜ必要なのか?」といった抽象論が語られることが多かった。その中で定義されてきたのが、ダイナミックインフラストラクチャであり、可視化/自動化/管理で構成されるインテグレイテッドサービスマネジメント(ISM)であったわけだ。

 初回以来、Pulseへの参加を続けている記者は、「今回も、なにかしらの新しいコンセプトがお披露目されるのだろう」と漠然と予測していた。今年は、これまでゼネラルマネジャーを務めていたアル・ゾラ氏が退任し(米国の名門大学のフェローとして、第二の人生を歩み始めたという)、WebSphereなどを担当する要職を歴任してきたダニー・サバー氏が新ゼネラルマネジャーとして登壇することも、その予測の根拠となっていた。

 だが実際のところサバー氏、そしてIBMのサービスマネジメントは、ISMのフレームワークを踏襲しつつ、Execution――ここでは「実行力」とでも言おうか――を重視し、その方策をユーザーに提示する戦略を採るようだ。

会場はMGM Grand Hotelのアリーナ。有名アーティストによるコンサートや数々のボクシングの名勝負が行われた場所だ

 このことは、ゼネラルセッションの構成にも見て取れる。冒頭、立て続けに登壇したのはIBMのメンバーではなく、Maximoユーザーである全米鉄道旅客公社(Amtrak)のビル・ブロウトン氏と、Pulse2010にも登壇した米国大手金融機関ステートストリートのマジ・メイヤー氏であった。

 巨体を鷹揚(おうよう)に揺すりながら「自分のことはビッグ・ビルと呼んでくれ。でもビッグ・ブルー(注:IBMの通称)ではないよ」と自己紹介するブロウトン氏は、米国全土をネットワークする同社の鉄道網がMaximoにより管理され、既にIBMのソリューションが輸送業務の基幹システムとなっていることを紹介する。

 またメイヤー氏は「ここ数年、IT部門は各種のプレッシャーを受けている」と明かす。予算を削減する流れの中でも、経営に寄与するリーダーシップを求められ、同時にグローバル化(グローバルソーシング)も進めなければならない。そのためにメイヤー氏は「金融情報を経営知に変え得る、アナリティクスシステムが必要」と考えたという。

 とはいえグローバルな金融機関は、日々膨大なデータを生み出す。これらを迅速に経営知化するため、ステートストリートでは従来IAサーバで構成していた分析系システムをIBM zEnterpriseに統合したという。少ないワークロードや少ないプロセッサは、必然的にソフトウェアのライセンスコスト削減をもたらす(多くのデータベースはコアライセンス、プロセッサライセンスを採用するため)。実際、70%のコスト削減を成し遂げたメイヤー氏は「多くのコスト削減ができるのはソフトウェア分野だ」と振り返る。

 「技術的な成功を成し遂げたとしても、それがビジネス上の成功に至るとは限らない。技術的な成功のうち40%が、経営要件を満たしていないというレポートもある。実行の前には戦略が必要で、そのためにはアナリティクスによる経営知が求められる」(メイヤー氏)

可視化されない結果、ビジネスに影響のない分野に投資していないか?

Tivoliブランドのゼネラルマネジャー、“Dr.”ダニー・サバー氏

 こういった顧客のサクセスストーリーを受ける形で、新ゼネラルマネジャーのダニー・サバー氏が登壇。「4分の3以上のCEOが、ビジネス環境に対し大きな波乱が起こると予測している。グローバル化が進み、マーケットが変化し、法規制も変わる。つまり複雑性が増すということだ」と企業を取り巻く現状を分析する。

 これらはIBMによる最新の調査「CEO Study 2010」によって得られた知見だと思われるが、同時にサバー氏は「変化を予測しているCEOと、その変化に対応する能力があるとするCEOのギャップが、およそ3倍もある(つまり変化に対応できない、とするCEOが多い)」と話す。

 なぜか? サバー氏は「重要な経営リソースである人・モノ・金を、ほとんどビジネスにインパクトのない分野に割いている企業が多いのではないか」と指摘する。その結果として「Execution(実行力)が欠けてしまう」(サバー氏)

 解決するにはまず、自社のビジネスを可視化し、適切なメトリック(何を達成しようとしているのか?)を確立することが必要だという。「リアルタイムに数値が見えなければ、経営判断もできない。そしてすべてのメトリックは平等ではない。優先順位を付けることが重要だ」(サバー氏)

 ここで同氏は、オランダ・アムステルダムのSchiphol International Airportでの事例を紹介する。同空港では、従来は完全に「ブラックボックス(ITからは見えない)」であったバゲッジ管理のメカシステムに対し、Maximoで管理する形で集中投資を行った。その結果、ただのメカシステムがITに対しても可視化され、管理可能な「スマートシステム」として生まれ変わり、輸送のキャパシティが40%向上したという。「サイロ型に平均化した投資は無意味。ビジネスを確信できる分野に集中投資すべき」(サバー氏)

 「あなたの会社のITオペレーションマネジャーは、あるシステムを止めた際のビジネスへの影響範囲を正しく把握できるだろうか? もしそうでないならば、すぐにでもサービスマネジメントの終わりない旅へと出発しよう!」(サバー氏)

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