顧客は決して間違わない。自社のバリュープロポジションが顧客になかなか伝わらない場合は、そのバリュープロポジションが間違っている。
本当の顧客中心主義満足とは何か?――。連載「バリュープロポジション戦略 50の作法」は、欧米発のバリュープロポジションというフレームワークをベースに、日本が昔から持っていた顧客本位の考え方を見直し、マーケティング戦略を構築・推進するための50の作法をまとめた書籍『バリュープロポジション戦略 50の作法』の一部を加筆・修正し、許可を得て掲載しています。
バリュープロポジションは、思い込みで決め付けずに顧客に対して正しく伝わるかしっかりと検証し、さらに、現時点で有効か常に検証することが大切です。検証されずに思い込みで定義されたバリュープロポジションは、現実の顧客のニーズからかけ離れてしまい、多くの人たちの努力が徒労に終わってしまいます。
ある樹脂メーカーは、塗料メーカー向けに新しい化学樹脂を開発することになりました。この樹脂メーカーは、市場が環境に優しい塗料を必要としていると考え、環境性能に優れた新しい樹脂を開発しました。
しかし塗料メーカーの顧客である塗装業者の反応は冷ややかで、塗料は売れませんでした。そこで樹脂メーカーが調査をしたところ、塗装業者のコストのほとんどが人件費で、塗料のコストは全体のわずか15%であることが分かりました。
そこで樹脂メーカーがバリュープロポジションの見直しを行い、塗料に用いると乾燥時間が短くなる化学樹脂を発売したところ、その化学樹脂は標準の1.4倍の価格であるにも関わらず塗料メーカーに飛ぶように売れました。なぜなら、乾燥時間の短縮によって塗装業者の生産性が向上し、人件費の削減につながったからです。
この例で樹脂メーカーが塗料メーカーの顧客である塗装業者の調査をしたように、顧客の顧客について考えることが必要です。企業の行動を決定する要因の一つは、顧客の要望だからです。
バリュープロポジションは、企業が多大な投資をして世の中に出した商品やサービスの成功を握るカギです。それを検証する費用は、商品開発やプロモーションにかける膨大な費用に比べれば決して大きなものではありません。
バリュープロポジションが伝わらないときは、顧客が間違っているのではなく、私たちが定義したバリュープロポジションが間違っているのです。
著:永井孝尚
オルタナティブ出版
2011年3月30日
1260円(税込み)
マーケティング戦略を構築・推進するための50の作法を、バリュープロポジションという切り口で、さまざまなマーケティング理論を網羅しつつ、日本の事例を中心にまとめた、マーケティング担当者必読の書。
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