進化するディザスタリカバリWeekly Memo

大震災以降、災害対策ソリューションとして「ディザスタリカバリ」への注目度が高まっている。その最新動向を、有力ベンダーが先週開いた会見内容をもとに探ってみる。

» 2011年08月29日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

オラクルが提案するこれからのディザスタリカバリ

 日本オラクルとネットワンシステムズが先週、相次いでそれぞれのディザスタリカバリ・ソリューションの最新動向について記者説明会を開いた。ソリューションを構成する具体的なツールの内容については、関連記事等を参照いただくとして、これからのディザスタリカバリのあり方について両社から興味深い話を聞くことができたので紹介したい。

 日本オラクルが8月23日に開いた金融機関における事業継続計画(BCP)対策に関する記者説明会では、同社の製品事業統括テクノロジー製品事業統括本部シニアマネジャーの谷川信朗氏がこう語った。

 「ディザスタリカバリというと、かつてはストレージの二重化が主流だったが、今ではシステム全体を二重化する新しい技術が次々と登場してきている。その意味では高度なディザスタリカバリの仕組みを実現できるようになってきたが、一方で顧客側からみると、悩ましいのは相応のコスト負担がかかること。災害対策だけに大きな投資を行うのは難しい、との声は少なくない。そこで当社では今、視点を少し変えてください、と顧客にお話ししている」

 では、どう視点を変えるのか。

 「これまでのディザスタリカバリでは、スタンバイサイトのシステムはデータバックアップを除いて災害など何か起きたときにのみ切り替えて動かす仕組みが中心だった。それだけに、普段使わないシステムに対して、プライマリサイトと同等の投資を行うことに躊躇する顧客が少なくなかった。しかし、当社では今、普段の運用時からプライマリサイトだけでなくスタンバイサイトのシステムも並行して活用することで、投資効果を上げていく運用をお勧めしている。投資効果もさることながら、スタンバイサイトを常時、使用状態にしておくことで、有事の際の業務継続をスムーズに図れるようになる」

 谷川氏によると、米Oracleが10年ほど前にこうした取り組みを実践し、その後、実際にトラブルが起きた際に迅速な復旧を果たすことができたという。もっとも、Oracleは当時、ディザスタリカバリの仕組みを導入するに当たって、それまで各国に複数ある拠点で使用していたさまざまなシステムを一本化し、グローバルシングルインスタンスの仕組みを構築したうえで、ディザスタリカバリの仕組みもシンプルな構成で実現した。

 つまり、ディザスタリカバリへの取り組みを契機に、グローバルなITシステム全体を一新するというダイナミックな改革をやってのけた格好だ。その結果、10億ドルを超えるコスト削減に成功したという。

 Oracleの事例はその改革ぶりのほうに目が行ってしまうが、谷川氏が語ったスタンバイサイトの活用法は参考にできそうだ。

ネットワンが提案するこれからのディザスタリカバリ

 一方、ネットワンシステムズが8月24日に開いた災害対策ソリューションの取り組みに関する記者説明会では、同社ビジネス推進グループ マーケティング本部ソリューション・マーケティング部の渋谷隆一氏がこう語った。

記者説明会に臨むネットワンシステムズのビジネス推進グループ マーケティング本部ソリューション・マーケティング部の渋谷隆一氏(左)とサービス事業グループ プロフェッショナルサービス本部ビジネスコンサルティング部の櫻井伸仁氏 記者説明会に臨むネットワンシステムズのビジネス推進グループ マーケティング本部ソリューション・マーケティング部の渋谷隆一氏(左)とサービス事業グループ プロフェッショナルサービス本部ビジネスコンサルティング部の櫻井伸仁氏

 「当社では今、仮想化データセンターを活用したディザスタリカバリ・ソリューションの提案に力を入れている。仮想化データセンターを活用すれば、本番サイトと同一のスタンバイサーバは不要で、異なるハードウェア上に複数のシステムを統合したり、古くなったサーバをバックアップサイトで再利用するのも可能なことから、コスト負担を相当程度抑えられるようになる」

 さらに渋谷氏はコストダウンのほかに、ハードウェア構成がカプセル化されてさまざまなハードウェアに復旧可能なことや、システム領域を最新の状態に保つことが可能なので、メンテナンスの運用負荷も軽減できるなど、仮想化データセンターのメリットを挙げた。

 ちなみに、日本オラクルが言う「スタンバイサイト」と、ネットワンシステムズが言う「バックアップサイト」は同じ意味だが、それぞれの説明を尊重して、そのままの言葉遣いとさせてもらった。

 仮想化データセンターにバックアップサイトを設けるというのは、今もっとも注目されているディザスタリカバリの手法だ。プライマリサイトも仮想化データセンターを利用すれば、まさしくクラウド上でのディザスタリカバリの仕組みとなる。同社ではこれをさらに進化させた形で、近い将来には、バックアップサイトもプライマリサイトとして普段から活用し、仮想化された複数のデータセンター間を仮想化サーバが自由に行き来するような新しいICT環境を実現するという。

 渋谷氏によると、「その際に最大のキーポイントになってくるのがネットワークの能力。仮想化サーバが行き来するだけに、とくに回線のキャパシティやクオリティに対する要求は、今後ますます高まっていくだろう」とみており、それをにらんで「ネットワークに強みを持つ当社としては、大きなビジネスチャンスだと考えている」と手ぐすねを引いている。

 ディザスタリカバリの仕組みづくりに、クラウドが非常に有効なツールとなることは、かねてから言われているが、仮想化データセンターが定着するようになれば、ディザスタリカバリの概念も大きく変わっていきそうだ。本文のタイトルでは、あえて「進化するディザスタリカバリ」と表現したが、進化の先はこの言葉自体が使われなくなっているかもしれない。

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