ソーシャル革命の旗手ベニオフ氏 ニール・ヤング、原口議員、豊田社長らと語らう

米Salesforce.comのマーク・ベニオフCEOが来日。ソーシャル、モバイル、クラウドが日本の活性化のカギになると話す。

» 2011年12月15日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

 セールスフォース・ドットコムは12月14日、「東京データセンター」の稼働開始を発表した。センター自体はNTTコミュニケーションズが保有するもの。日本およびアジア太平洋地域にサービスを提供する拠点となる。同社の宇陀栄次代表取締役社長は「アジアを含む日・米・欧の三極体制において日本にデータセンターが設置され、今後伸びるであろうアジア市場の中心になるのは意義のあること」と話す。

 また同日に開催されたセールスフォース・ドットコムのカンファレンス「Cloudforce」では、米Salesforce.comのマーク・ベニオフCEOが基調講演に登壇。「二酸化炭素の排出効率でこのデータセンターより優れているところはない。NTTコミュニケーションズとのパートナーシップにより、最も品質が高いデータセンターを設けられた」と自信を見せた。

来日したマーク・ベニオフCEO

 今さら言うまでもなくベニオフ氏は、新しいITモデルの担い手でもある。9月に米国サンフランシスコで開催されたDreamforce 2011の講演内容と同様に、クラウドやソーシャル、モバイルといったパラダイムがもたらす社会と企業の変化について熱く述べたが、今回は日本の政財界からも多くの賛同者が登場した。

 早い段階からのユーザーとして知られる日本郵政の坂篤郎 取締役兼代表執行役副社長は「我々は2万4000にのぼる郵便局というフィジカルなネットワークを有している。クラウドはこれらを効率的に結び付けられ、顧客により良いサービスを提供する基盤になる」と話す。

 また黒岩祐治 神奈川県知事は「東京データセンターは実は神奈川に存在する。本当は“神奈川データセンター”と言ってほしいが、東京ディズニーランドという例もあるから、まあいいだろう(笑)。自分が知事に就任してからおよそ7カ月。その間、東日本大震災とそれに起因する福島第1原発事故があった。新しいエネルギーの枠組みが必要であり、今後はクラウドによる効率的なエネルギーの利用システムが求められるだろう」とクラウドへの期待を述べる。

 「神奈川県は、新しい医療のグランドデザインを作る。現在、診療情報はデータ化されておらず紙のカルテとして保存されており、ただ眠っている状態だ。これをいつ、どこでも利活用できる“マイカルテ”としてデータ化をしていく」(黒岩知事)

 トヨタ自動車代表取締役社長の豊田章男氏はビデオメッセージを寄せた。「ここ数年の間、大規模なリコール問題や災害などがあった。顔は笑っていても厳しい状況が続いた」

 「そんな折、訪れたベニオフの自宅で、ソーシャルネットワークの説明を受けた。Chatterでだれがどんな話をしているのかが分かる。そして人と人がコミュニケーションすることは想像の範囲内だが、人と車がコミュニケーションし、車に人格ならぬ“車格”を与えられることを知った。本当にうれしいことだ」

 これはトヨタフレンドとして2011年5月に具体化した。「無限に広がる可能性を感じる。わたしの人生が変わりつつある」(豊田氏)

スペシャルゲストのニール・ヤング

 スペシャルゲストとして来日した歌手のニール・ヤングは「マークは9月のDreamforceで“ソーシャルが革命を起こす”と話した。その後、実際にオキュパイ ウォールストリートが発生した時、これはすごいことだと思った」と振り返る。

 「70年代、ソーシャルメディアはなかった。人々はラジオとミュージックを聞いていた。当時のラジオは社会的なメッセージ性が強い内容だったが、現在のラジオは管理されており、もはや魅力はない」

 「だが今、(ソーシャルという)新しいテクノロジーを学ぶことで、大きく前進できると知った。リーダーは不要で、人と人とが直接語らい、共感し、人生やカルチャーがつながっていくのだから」

 日本と日本人に対してもエールを送る。「日本人であること自体が素晴らしいことだ。優しく、親切で、和を重んじる。東日本大震災という地獄に見舞われても、大声で不満を言うことなく、対処している。他の国ではすぐにクラクションを鳴らす(不平不満を言う)だろう。日本文化が持つ価値を教えてくれたことに感謝したい」

 報道陣向けのQ&Aセッションには民主党の原口一博衆議院議員も参加。「3月11日の震災発生直後、オバマ大統領と会食の予定があったベニオフ氏が、福島第一原発の危機を直接伝えてくれた。またトモダチ作戦のきっかけをもたらしたのもベニオフ氏だ」と謝辞を述べた。

 「世界の歴史上、エネルギーを独占するものが権力を握ってきた。これをクラウドにより新しいエネルギー供給モデルで変える。エネルギーを独占し、集中するのではなく、分散させられるのがクラウドだ。クラウドは人間そのものを改革できる基盤でもある」

 「加えてベニオフ氏は、震災後の困難を抱えた東京に、あえてデータセンターを設けてくれた。この上ない喜びだ」

 ベニオフ氏は日本に投資する意義について次のように話す。「米Microsoftのスティーブ・バルマーはこう言った。“これまで何十億ドルも中国に投資してきたが、いまだに収益はオランダの規模すら超えていない”――ソフトウェア市場という点では、日本は大きい。悲劇的な震災を乗り越え、世界第2位の地位をこれからも維持できるだろう。国外に投資しようとする日本企業もあるようだが、それは間違いだ。日本の将来は日本にこそある」

 宇陀氏も「これまでのITは義務的なものだった。構築する側も苦労をしていた。だが我々のソリューションは、面白そう、楽しそうというきっかけで導入され、しかも企業の中で有効性を発揮している」と指摘する。

 「従来のITは、大企業向けのものが優れていてコンシューマ向けのものはオモチャに過ぎないという考え方だったが、今や逆転している。(ソーシャルやモバイルといった)市場は立ち上がったばかりであり、多くのチャンスがある」

東京データセンターの稼働開始を祝って行われた鏡抜きの様子。向かって左がベニオフ氏、中央に原口議員、右が宇陀社長

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