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企業をソーシャル化する3つのステップをベニオフ氏が披露Dreamforce 2011 Report

» 2011年09月01日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]
salesforce.comのマーク・ベニオフCEO。昨年に比べると競合批判のコメントはやや少なめ

 前回から1年を経ずしての開催となったsalesforce.comの年次カンファレンス「Dreamforce 2011」は、米国の祝日となるレイバーデイ(9月の第1月曜日)直前という悪条件にもかかわらず、約4万5000人の事前登録があったという。開催初日の基調講演は、約1万5000人の聴衆がサンフランシスコ・モスコーニセンターの会場に集い、3万5000人がオンラインで視聴するという規模で行われた。スピーカーを務めるのはもちろんマーク・ベニオフCEOだ。

 「自分は仕事が好きだ」とベニオフ氏。その理由は、市場が常に変化していてしかも自分たちにはそれに対応する能力があるから、だという。確かにIT業界は、過去に幾度かのパラダイムシフトを経験してきた。

 1960年代にメインフレームから始まった企業システムは、その後ミニコンの普及やクライアント/サーバシステムの浸透といった形で発展を続けてきた。「その後ビル・ゲイツが素晴らしい仕事をして、我々を支配しようとしたが、失敗した。これには本当に安心した(笑)。そして2000年代に入り、スティーブ・ジョブズがモバイルコンピューティングを実現してくれた」とベニオフ氏は話す。「そして2010年代は、ソーシャルレボリューション(革命)の時代だ」。

ベニオフ氏の言うIT業界のパラダイム。2010年代はソーシャルの時代

 ソーシャル革命は、従来のITパラダイムとは決定的に違うのだという。そこでは人々が主役で、実際にエジプトやリビアで起こったように、ITの力で政権を覆す力をも持つ。だが人々は“マイクロソフトありがとう、IBMありがとう”と従来のITベンダーに感謝をささげることはない。そこで持ち上げられるのは、FacebookやTwitterのようなソーシャルサービスである。

ソーシャルサービスに感謝を寄せるアラブの人々

 「“アラブの春”は画期的なことだ。顧客や社員、そして国民の声に耳を傾けない独裁的な企業やその経営者、そして国家は消え去るということが分かったのだから。このソーシャル革命の原則は、組織の規模に依存しない。つまり民主主義的だ」(ベニオフ氏)

 だがソーシャル革命のパラダイムは、新たな問題ももたらした。ベニオフ氏はそれを「ソーシャルデバイド」と表現する。

 これまでもコンピューティングの世界には、デジタルデバイドという問題があった。それは企業や団体、そして商流がIT化していくのに、それらを使いこなす教育を受けられなかったり、国や地域そのものが貧しくコンピュータを購入できなかったりする人がいるという問題であった。

 だがそれとソーシャルデバイドは様相が異なる。人々がソーシャル化していくのに、企業や国家がそれに追随できないという問題だからだ。ここでデバイドされてしまっているのは、これまでITで強者の立場にあった側である。

 とはいえ企業も、ソーシャル革命の必要性に気付き始めたようだ。モルガン・スタンレーの調査によると、従業員のためにタブレットデバイスを導入したCIOが、2010年調査の21%に対し2011年調査では51%と、ほぼ2.5倍となっている。

タブレットデバイスを支給するCIOが増加したとする、モルガン・スタンレーの調査

 では、人々と企業の間に厳然と存在するソーシャルデバイドを埋めるためには、企業はどうすべきなのだろうか? その秘訣をベニオフ氏は「3つのステップで考えてみた」と話す。

 まずはFacebookやTwitter、LinkedInなどソーシャルサービスをデータベース化する。その中のコンテンツをビズネスに活用する試みである。次に、従業員のコラボレーションをソーシャルネットワークで行うようにする。そして最後に、ソーシャルネットワークに対して顧客と自社の製品(サービス)を統合する。これがベニオフ氏の言う「ソーシャル革命のためのスリーステップ」となる。

 ここでベニオフ氏は、Chatterの新機能(2012年冬までに実装予定)を紹介する。プレゼンス機能を備えただけでなく、SharePointやLotus Notesといった他社システムと連携するためのAPIを公開し、「社員がいつ、どのシステムにアクセスし何をしたのか」などが分かるようになるという。これが実現すればChatterは、単なるチャットやファイル共有ツールではなく、コラボレイティブなワークフロー環境となり、企業のビジネスプロセスに統合できるようになるだろう。

Chatterをビジネスプロセスに組み込むための新機能が提供される

 ベニオフ氏は、ソーシャルサービスをビジネスに組み込んだ成功例としてBank of Americaを挙げる。同社では、顧客からの問い合わせ(近くにあるATMはどこ? というものや、自分に合った貯蓄プランを知りたい、など)をツイートで受け付け、ツイートで回答しているという。しかもこれは、ツイート対応専門部署が一元的に実施しているのではなく、アカウント(営業)担当が携帯電話やタブレットデバイスで直接回答するとのこと。日本で発表のあったトヨタフレンドも、これに似た思想のサービスだと言える。

 「ソーシャルストリームにBank of Americaの支店ができたということ。これがソーシャルエンタープライズの実例だ」とベニオフ氏。「自分の企業を変えてほしい。ソーシャルが“アラブの春”をもたらしたように、ソーシャルエンタープライズが企業にも春をもたらすだろう」

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