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ビジネスプロセスのソーシャル化は歴史の必然――ベニオフ氏の見解をFacebookのCIOが支持Dreamforce 2011 Report

» 2011年09月02日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]
パートナーからもらった「Not ERP」を意味するバッジにご満悦のベニオフ氏

 米サンフランシスコで開催中のDreamforce 2011は、9月1日(現地時間)に開催2日目の基調講演を迎えた。「今日は改めて、ITのプラットフォームとその変化について話をしたい」と米salesforce.comのCEO、マーク・ベニオフ氏は切り出す。昨日の基調講演でコンピューティングがパラダイムシフトしてきた歴史について言及し、2010年代を「ソーシャル革命の時代」と定義した同氏は、「ソーシャル革命は新しいプラットフォーム上で成し遂げられる」と指摘する。

 例えばFacebookは、サービスではなく、プラットフォームとして評価する必要があるという。ソーシャルなサービスをユーザーが支持したことがFacebookの成長要因であることは間違いないが、それよりも「55万以上にのぼるアプリケーションのプラットフォームであることが、同社のパワーになっている」とベニオフ氏は話す。「なぜiPhone、iPadが市場で成功を収めたか? それはソフトウェアベンダーが”このプラットフォームでアプリケーションを提供したい”と考えたからだ」

 salesforce.comにとってのパワーとは何か? ベニオフ氏は、ソーシャルなエンタープライズアプリケーションストアであるAppExchangeがその源泉になっているとし、実際そこには1250を超えるアプリケーションが提供されていると紹介する。

AppExchangeのアプリケーション数は右肩上がりの曲線を描く

 だが課題もある。「どのようにして、ソーシャルネイティブなアプリケーションを開発すべきなのか。WebLogic? WebSphere? そうではない。古い(開発)プラットフォームは放っておけばよい。パラダイムがシフトしたら、プラットフォームも変えなければならない。エンタープライズ分野のデータベース(DB)とアプリケーションは、新しいアーキテクチャを備えなければならない」(ベニオフ氏)

既存のプラットフォームを断絶した崖の向こう側に置いてみせるベニオフ氏

 同氏は新しいプラットフォームに求められる要素として、ソーシャルで、リアルタイムにフィードされ、そしてオープンであることを挙げる。また、開発するアプリケーションの情報ストアとなるDBについては、コラボレイティブで、コネクティブであることが必要だという。

 「企業にはソーシャルDBが必要なのに、ほとんどの企業はザック以前(マーク・ザッカーバーグがFacebookを創業するより前の思想で開発されたという意味)のDBを使っている」とベニオフ氏は嘆く。一方、salesforce.comのDB製品であるDatabase.comは、ソーシャルネイティブ、モバイルネイティブなDBだとし、AndroidやiOSでの開発を容易にするSDKが含まれ、企業はソーシャルストリーム上の顧客プロファイルを捉えられると主張する。

ビジネスプロセスのソーシャル化は必然 FacebookのCIO

Facebookのティム・カンポスCEO。昨年に続いてのDreamforce登場となる

 ベニオフ氏の見解を、ユーザーの立場から支持するのがFacebookのCIO、ティム・カンポス氏だ。

 「まずWebの歴史を話そう。インターネットの黎明期は、ディレクトリ、つまりカタログのようにWebサイトを並べ、その中から目的のWebサイトを探していた。Yahoo!はこのモデルで成功を収めた。だがWebサイトの急増により、ディレクトリ検索では対処できなくなり、大量のサイトをアルゴリズムで検索できるサーチエンジンが登場した。これがGoogleのモデルだ。だがここ2年の間で、過去に生成された総量よりも多いWebデータが生み出され、サーチエンジンをもってしても、最適なWebサイトにたどりつくのが困難になってしまった」とカンポス氏は話す。

 「そして今は、ソーシャルの時代だ」とカンポス氏。「ソーシャルグラフで、個人とデータの関係性を指標化すれば、自分が必要な情報はどれかをすぐに見極められる。山のようなデータの中からディレクトリや検索アルゴリズムで探すよりも、はるかに簡単に必要とするデータにアクセスできる」

 同氏は「エンタープライズ分野の観点で話すと、ソーシャルグラフの概念でデータを構造化することは、企業・従業員・顧客の関連性を可視化することだ」と指摘する。例えば多くの企業では、従業員の人事評価は上長が実施しているが、実際の業務は上長とではなく、社内の他部門や顧客との間で行っているはずだ。そのため従業員の人間関係のソーシャルグラフを用い、上長だけでなく社内外の関係者からも360度的に評価すべきだという(Facebookの人事評価もそのようにしているとのこと)。

 「企業を革新するならば、時間をかけてゴチャゴチャと取り組んではダメだ」とカンポス氏は話す。Facebookの社内システムは、データセンター管理や人事・法務などのバックオフィス業務を含め約70%がSaaSを利用しているという。実際、「Facerbookのエンタープライズエコシステムは、そのほとんどがForce.comで稼働している」

Facebook自身の業務システムはほとんどがクラウド化されており、かつその多くがForce.com上にあることが分かる(写真=左)、同時に、スマートフォンやタブレットデバイスでも利用できるようになっている(写真=右、いずれもクリックで拡大)

 そこまで徹底できるのは、Facebookが資金だけでなく開発力を備えているからでは? という問いに対し「そもそもFacebookはサービスを開始してたった7年。われわれのビジネスモデルには“ゆっくりやる”という方法論は通用しない。そのためには短い時間でイノベーションできるプラットフォームが必要。徹底的にクラウド化するのは必然だった」とカンポス氏は話す。「“ITプロジェクトは1週間から長くても数週間で終えるのが当たり前”というFacebookの時間軸にForce.comがフィットしたということ」

 salesforce.comが主張するビジョン「ソーシャルエンタープライズ」についてカンポス氏は、「マーク(注:ベニオフ氏のこと)のビジョンは正しい。ソーシャルテクノロジーがある今、企業のIT部門と営業部門は大きなチャンスを前にしている」と評価する。「現在の企業に、ディレクトリ型に構造化された業務など存在しない。人とデータが流動的に関連しつつ仕事が進むのだから、企業のビジネスプロセスは急速にソーシャル化するのが必然だ」

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