独自のITサービスで医療費の適正化に挑む広島のシステム会社田中克己の「ニッポンのIT企業」

データホライゾンは医療費抑制につなげる生活習慣病予防サービスなどを創出。元々、受託ソフト開発を手掛けていた同社は、今日に至るまでにどのような事業変革があったのか。

» 2012年02月02日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

 「目標は医療費をこれ以上増やさず、適正化すること」。広島市に本社を置くデータホライゾンの内海良夫社長は、IT技術を駆使して国民健康保険などの加入者に、後発薬の利用を薦めたり、糖尿や高血圧など生活習慣病の予防を促したりするサービスを提供する理由をこう説明する。

 日本の医療費は毎年3%程度で増え続けており、2010年度には36兆6000億円に達した。このペースで増えたら、2025年度には50兆円を軽く超えてしまう。ところが、生産年齢人口(15歳以上65歳未満の働ける人口)は減る一方なので、企業も個人も健康保険費の負担が増えることになる。

 そこで、データホライゾンは医療費抑制につなげるジェネリック医薬品通知サービスや生活習慣病予防サービスを創出した。1982年に受託ソフト開発で事業をスタートした同社が、どのように事業構造を変革させたのだろうか。

レセプトの電子化が原点

 内海社長は創業から2年後、受託ソフト開発での成長に限界を感じて、高収益型事業への転換を模索し始めた。労働集約型の収入は、技術者の人数と稼働時間などによって決まってしまうからだろう。選んだ道がパッケージビジネスだった。養豚管理システムやガソリンスタンド管理システム、調剤薬局向けシステムなど業種パッケージを次々に開発、市場開拓を推進した。

 だが、ある時、1つの業種パッケージソフトの寿命は長くても10年程度ということに気が付いたという。ターゲットにした業種を取り巻く環境が悪化すれば、ユーザーからの値引き要求が厳しくなる。バージョンアップしないユーザーも出てくる。その業種が成熟したら売り上げを伸ばすのが難しくなるので、常に数年先に成長しそうな業種を見つけ出しては、新しい顧客開拓に取り組み続けてきた。

 そんなパッケージビジネスを20年近く続けてきた2000年、レセプト(診療報酬明細書)の内容を調べる「レセプトチェックシステム」の販売を開始した。OCR(光学式文字読取装置)で情報を読み込む技術を3年かけて開発し、2003年から国民健康保険を運営する地方公共団体などの保険者にレセプトの電子化を1枚あたりいくらで請け負うというサービスへと切り替えた。これが今日の売り上げの半分を占めるジェネリック医薬品通知サービスのベースになる。

 2006年7月にサービス提供を開始したジェネリック医薬品通知サービスは、電子化したレセプトの医薬品処方情報から、後発薬に切り替え可能な医薬品を探し出し、その薬品名と価格を国民健康保険などの加入者に通知する。加入者に、「後発薬にすれば、どの程度安くなるのか」を一目で分かるようにするものと言える。厚生労働省が2012年度に、後発薬の使用比率を現在の20%強から30%に高めることを目指していることもあって、この通知サービスを利用する保険者(地方公共団体など)は増えているという。

 次の成長を担うサービスも用意する。加入者に生活習慣病の予防策を知らせたり、早期発見と早期治療を促したりするものだ。年1回受診する健康診断データとレセプトのデータを使って、生活習慣病になりそうな加入者を抽出し、例えば「糖尿病にならないよう生活習慣を改めましょう」と通知する。

 だが、同サービスを利用する保険者は、同社が期待したほど増えなかったようだ。このような健康増進対策を通知する対象者は健常者なので、後発薬への切り替えのような削減効果がすぐに表れるわけではないからだろう。

ジェネリック医薬品通知から重症化予防サービスへ

 そうした中、「2008年度に厚生労働省から通知があり、重症化予防ビジネスが可能になった」(内海社長)。それ契機に、データホライゾンは通院者に重症化しないよう生活習慣を指導する三次予防の開発に着手した。非通院者には通院するように通知する。

 この重症化予防サービスは一次、二次の予防サービスより医療費抑制の効果が期待できる。同社が厚生労働省などのデータから調べたところ、人口透析治療に1人あたり年間約500万円、日本全体で2兆円を費やしている。ところが、890万人の糖尿病のうち、通院者は半分強の490万人である。「軽い症状なので、病院に通わなくても」などと思っているからかもしれない。

 そんな人たちに向けた重症化予防サービスを提供するには、地元の医師会や食生活習慣を指導する看護師、保健師などの協力が欠かせない。そこで、2010年度に広島県呉市で、体制作りや削減効果をみるパイロット事業を実施した。看護師らに食事療法を含めた生活習慣改善を指導する教育や、指導などにあたる合弁会社DDPヘルスパートナーズも2010年12月に設立した。

 パイロット事業の結果について、医師へアンケート調査したところ、「重症化予防プログラムは患者に必要と思うか」との質問に、「大変必要」が20%、「必要」が73%もあったという。「診療に役立ったか」についても、15%が「大変役立った」、64%が「役立った」と回答した。内海社長は、「医療機関からも、患者からも好評だった。透析一歩手前の人に生活習慣を指導したことで、透析にならなかったなど、いい成果を確認できた」と喜ぶ。興味を見ってくれた保険者も出てきているという。

データホライゾンの業績推移(単位:億円)。右側の目盛りは研究開発費の数値 データホライゾンの業績推移(単位:億円)。右側の目盛りは研究開発費の数値

 こうしたサービス内容の拡充もあって、各種サービスを契約する国民健康保険を運営する地方公共団体の保険者は2011年3月の48団体から同年9月には60団体に増えた。内海社長は「2012年3月には75団体を獲得したい」と意気込む。売上高も2011年度(2012年3月期)に前年度比22%増の27億円に大きく伸ばす計画である。経常利益も倍増超の2億5000万円を見込んでいる。


一期一会

 「下請けのソフト開発にしがみついても、将来展望は開けない」。筆者は中堅・中小の受託ソフト開発会社の経営者に、こう言い続けてきた。とは言っても、目指すべき明確な姿を示せたわけではなかった。そうした中で、2年前に広島県情報産業協会で講演する機会があり、同協会会長の内海社長に会って、ジェネリック医薬品通知サービスなどの話を聞いた。

 売り上げが10億円に満たない年でも、データホライゾンは1億円以上の研究開発費を投入して新サービスの開発を行っていた。「これこそ、ITサービス」と思って、内海社長に将来計画などの話を聞かせてもらった。強い信念も感じた。1947年7月生まれの内海社長は、ある経営者に言われたことが頭にある。「会社を経営するのは、国に代わって社員の福利厚生をすること」。社員を幸せにするためにも、企業は持続的な成長を遂げることが大切なのである。

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