“ビッグデータ”が経営を変える

自販機ビジネスでは珍しいデータ活用で新境地開く JR東日本ウォータービジネス(1/3 ページ)

年間で2億レコードにも上る大量データを分析して、ビジネスの次の一手を探るJR東日本ウォータービジネス。自ら取り組んだ“情報改革”によってマーケティングデータの精度が飛躍的に向上した。

» 2012年05月07日 09時00分 公開
[伏見学,ITmedia]

 販売データや顧客情報などを分析して企業のマーケティング活動につなげていくという発想は、ごく一般的なことであり、今に始まったことではない。しかしながら、ITの進展によって、定型的な数値データやテキストデータだけにとどまらず、各種センサーからのデータやソーシャルメディアで生成される画像、映像といった非構造化データなど、企業が扱うデータ量は膨大かつ多種多様になった。いわゆる「ビッグデータ」をいかに使いこなし、事業拡大に生かしていくかというのが現在の潮流である。

 こうしたビッグデータを活用する上で不可欠なのが情報システムである。JR東日本の子会社であるJR東日本ウォータービジネスでは、新たなデータ分析システムの導入とプロジェクトチームを立ち上げることで、マーケティング活動を強化し、ユニークな商品開発に結び付けた。JR東日本ウォータービジネスのビッグデータに対する挑戦を伝えていく。

なぜ売り上げの日次データが取れなかったのか?

 JR東日本ウォータービジネスは、JR東日本グループ向けに清涼飲料の仕入れや卸し事業、駅構内(エキナカ)を中心とする自販機事業などを手掛ける。元々、JR東日本ではエキナカの小型売店「KIOSK」、コンビニエンスストア「NEWDAYS」、車内販売事業を手掛ける「日本レストランエンタプライズ(NRE)」をはじめ30社以上がバラバラに飲料の仕入れや自販機事業を展開していたが、2006年に事業を統合し、JR東日本ウォータービジネスが新会社としてこれらの業務を一手に引き受けることになった。

 JR東日本ウォータービジネスの主力である自販機ビジネスは好調だ。過去5年間の業績を見ると、2006年度に187億円だった売り上げが、2010年度には260億円と、約150%伸長している。JR東日本ウォータービジネスで営業本部長を務める笹川俊成氏は「自販機不況が叫ばれる中、さまざまなメーカーの売れ筋商品や新商品を品揃えしたブランドミックス自販機や、電子マネー『Suica』に対応する自販機を投入して顧客ニーズを汲み取ることで、売り上げ成長を実現している」と胸を張る。

 実は、エキナカの自販機台数全体はこの5年間で横ばい(2010年度で9600台)だが、ブランドミックス機とSuica対応機は毎年増設している。笹川氏は「エキナカやホームなど自販機を設置できるロケーションは限られているため、今後も台数全体は増えないだろう。そこで、効率的な商品の組み合わせや(ブランドミックス自販機など)新機種の投入で売り上げアップを目指していく」と話す。

JR東日本ウォータービジネスの自販機売り上げ推移(出典:JR東日本ウォータービジネス) JR東日本ウォータービジネスの自販機売り上げ推移(出典:JR東日本ウォータービジネス)

 とりわけ期待を寄せるのがSuica対応機だ。SuicaはJR東日本の根幹を形作るサービスであり、発行枚数は約3664万枚(2011年7月時点)とユーザーも多い。実際、Suicaによる自販機の決済率も増加傾向にあり、2012年3月48.1%と消費者のほぼ半数が利用するまでに至っている。現金と比べてスピーディーに商品を購入できる点などが消費者に魅力的であるようだ。

 そうした状況の中、JR東日本ウォータービジネスでは消費者のPOSデータや一部の属性データを取得するために、共同開発した新型Suica決済端末「VT-10」を2009年12月から管轄内の自販機に導入。これによって、現在、約4500台の自販機から単品別の時間帯売り上げや購入場所などのPOSデータを抽出できるようになった。加えて、Suica1枚ごとに与えられるカード番号「IDi」で購入商品の履歴データを把握したり、「Suicaポイントクラブ」の会員データとひも付けて性別、年代、郵便番号の属性情報(非個人情報)を獲得したりすることが可能となったため、自販機ごとに品ぞろえの工夫などが行えるようになった。これらの総データ量は年間で約2億レコード、約100ギガバイト規模に上る。

VT-10で取得できるマーケティング情報(出典:JR東日本ウォータービジネス) VT-10で取得できるマーケティング情報(出典:JR東日本ウォータービジネス)

 VT-10の導入以前、JR東日本ウォータービジネスでは、自販機の売り上げデータは基本的に週次や月次といった一定期間のデータでしか収集できなかった。なぜなら、これまではオペレーターが商品を補充してから、次に補充するまでの間に、どの商品が何本売れたという方法でデータを取得していたからだ。

「毎日商品を入れ替える自販機であれば日次で売り上げデータが取れるが、2日に1度しか入れ替えない自販機だと、どちらの日に売れたか分からない。地方の駅で3、4日に1度しかオペレーションがないと、さらにデータはあいまいになる」(笹川氏)

 このように、従来は月単位、半年単位という長い期間でデータをまとめて、売り上げの善しあしや、商品の売れ筋、死に筋を判断していた。当然のようにデータの精度は低かったが、これでしか分析する方法がなかった。

 笹川氏は「システム導入によって、リアルタイムな売り上げデータが取得できるようになり、消費者の購買行動を細かく分析することが可能になった」と力を込める。また、POSデータの活用は、スーパーマーケットやコンビニエンスストアでは今や当たり前のことだが、自販機においては画期的なことである。今でも他社の多くの自販機は、以前のJR東日本ウォータービジネスのようにしか売り上げデータを取得できないと言われている。

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