みんなのクラウドは中小企業の味方田中克己の「ニッポンのIT企業」(2/2 ページ)

» 2012年07月20日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]
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クラウド構築ノウハウを無償提供

 みんなのクラウドはクラウド環境の構築に関するノウハウを無償で提供する。アプリケーションのクラウド化も伝授し、中小IT企業に「地域密着型の、顔の見えるクラウド」を実現してもらう。先のウイングの場合、地元のユーザーなどにクラウドサービスの選定や社内システムとの使い分けなどのコンサルティング、クラウドサービスの導入支援や運用支援などを提供する。他社のサービスを扱う一方、自社サービス商品を開発し、品ぞろえも強化する。

 支援を受ける中小IT各社は同じクラウド基盤を構築するので、自社が開発したアプリケーションは他社のクラウド基盤上で、他社のアプリケーションは自社のクラウド基盤上でそれぞれ利用できる。他社のクラウドサーバをバックアップ用としても使える。松田社長は「1社で、数十台のサーバしか所有できない中小IT企業が100社集まれば、数千台の規模になる」と、大手IT企業並みのITインフラ環境を実現できる点を強調する。

 Webサーバ貸しなどの価格競争に巻き込まれないようにもなる。Webサーバのレンタルは、ゲーム会社を中心に需要が拡大している。データセンター(DC)事業を展開する中小IT企業はそれを取り込もうとして、サーバなどへの設備投資を急いだが、参入企業の増加とともに価格競争が激化した。「サーバのホスティングは個々のユーザーごとに対応する、箱貸しになってしまうからだ」(松田社長)。

 そこで、付加価値をつけるのが「セキュリティ」となるが、これは競合との大きな差別化にはならない。次に、コンテンツでの差別化を目論む。SaaSなどサービスメニューをそろえるだけではなく、例えば、個人所有のモバイル端末から社内に蓄積したデータをどこからでも見えるようにする。サーバ貸しからクラウドへと進化させて、中小ユーザーをOSやセキュリティ、ネットワークなどの煩わしい設定作業から解放すれば、クラウド活用は活発化する。中小IT企業にとっても、ゲーム会社のようにIT資源の利用が大きく変化する企業より、安定的に使ってくれる中小ユーザーを獲得したいだろう。

 こうした状況のなかで、みんなのクラウドが中小IT企業にクラウド事業の立ち上げを提案する。Googleなど大手のクラウドサービスだけを扱っていても、「自分で集金もできない」(松田社長)。ユーザーのニーズにも応えられないこともあるだろう。自ら仕組みを用意し、マーケティングに注力する。中小IT企業が主体的にITビジネスを展開する時代になってきた。


一期一会

 「IT基盤技術を軽視し、業務に走ってしまった。結果、運用ノウハウも弱くなった」。松田社長は中小IT企業の問題点を指摘する。IT技術者に「もっと勉強しろ」とはっぱもかける。頭数で勝負する時代は終わっているのに、そこに収益を求めているIT企業が少なくない。教育費ゼロ、研究開発費ゼロのIT企業もある。しかし、クラウドは間違いなく、これまでの収益モデルを崩す。だからこそ、IT基盤の構築技術を一日も早く習得し、自らクラウド事業を手掛けられる技術力を備えることを薦める。新しいIT産業の創造にもなる。

 1947年生まれの松田社長は、ほかの経営者と経歴が少し異なる。1972年に慶応義塾大学工学部管理工学科卒業し、1977年に慶応義塾大学大学院工学研究科博士課程管理工学専攻単位を取得する。同年に東京理科大学理工学部情報科学科助手、1994年には山梨学院大学経営情報学部助教授になる。現在も同大学教授として学生を指導する。その一方、2000年11月にきっとASPを設立、社長に就く。みんなのクラウド社長、SaaSパートナーズ協会専務理事も務める。忙しい日々を送っているが、技術力に磨きをかけ続けている。パワフルな人だ。

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