「リーダーは成功体験にとらわれるな」——IBM新旧CEOの講演語録Weekly Memo

先週、日本IBMが開催した設立75周年記念イベントで、米本社の新旧CEOがリーダーの在り方について講演を行った。その中から興味深い発言をピックアップしてみた。

» 2012年09月18日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

パルミサーノ会長が語るリーダーシップ論

 日本IBMが9月11日に都内ホテルで開催した設立75周年記念イベント「THINK Forum Japan」で、米IBMの新旧CEOであるサミュエル・パルミサーノ氏とジニー・ロメッティ氏が登壇し、顧客企業などの経営幹部約300人を前に基調講演を行った。

 IBMのサミュエル・パルミサーノ会長(写真提供:日本IBM) IBMのサミュエル・パルミサーノ会長(写真提供:日本IBM)

 パルミサーノ氏はIBMのCEOを2002年3月から務め、2012年1月にロメッティ氏と交代。現在は2003年1月にCEOと兼任した会長職を引き続き務めている。この新旧CEOが揃って日本でスピーチするとあって、その発言が注目されていた。

 基調講演の内容はすでに報道されているので関連記事等をご覧いただくとして、ここではその中から興味深い発言をピックアップし、筆者なりの印象を述べておきたい。

 「リーダーは成功体験にとらわれることなく、常に変化の潮目を見極めることが求められる」(パルミサーノ氏)

 リーダーの在り方についてスピーチしたパルミサーノ氏は、まずこの言葉を口にした。ここで言う成功体験とは、製品、サービスからビジネスモデル、マネジメント、さらには自分自身に起きたことまで含まれる。そして同氏は「自分を変えることが最も難しい」と言い、1990年代初めに約2年間、日本IBMで勤務していた頃のさまざまな経験が、その後に自分が推進したIBMの変革に大いに役立ったと語った。決め言葉は「私を成長させてくれた日本IBMに感謝したい」。心憎いコメントである。

 「リーダーは自分がいなくとも成功できる組織づくりを念頭に置くべきである」(パルミサーノ氏)

 この発言は、「創業者が退いても」と言い換えたほうがわかりやすいかもしれない。つまり、企業が永続するためには、まずその企業ならではの理念や価値観、アイデンティティをしっかりと作り上げる必要があるという意味である。

 パルミサーノ氏によると、昨年で100周年を迎えたIBMは、初代CEOが創業期にその原形を作り上げ、組織に浸透させていった。「その理念や価値観に基づいて、例えば、顧客にどのようにサービスを提供するのか、どの分野に出ていくのか、あるいはやめるのか、どんな人材を求めるのか、などについて考えて決めていく」のがIBMの意思決定の仕方だ。IBMの強さは理念や価値観もさることながら、それを組織に浸透させる制度などの仕組みにあるのだろうと、あらためて感じた。

印象に残った日本IBMイェッター社長の存在感

 「どこの国の企業かということよりも、その地域で固有の価値を提供できるかが重要だ」(パルミサーノ氏)

 この発言は、企業の国籍が今のグローバル時代にどれほどの意味があるのか、という疑問に対するパルミサーノ氏の見解である。そして、その地域で固有の価値を提供するためには、「市場へ参入するのではなく、市場を創造することが大事だ」と強調した。「市場を創造する」とはどういうことか。同氏によると、「その国が抱えるさまざまな問題やニーズをつかみ、その国に対して長期的なコミットメントや投資をしっかりと行い、その国で人材を育てるといった創る努力を続けること」だという。さらに同氏は、「このことは日本の企業にとっても大きな課題ではないか」とも。世界170カ国で合計40万人が働くグローバル企業のトップの指摘に、耳が痛いばかりである。

 「私たちは今、システムが自ら学習する新しいコンピューティングの時代を迎えようとしている」(ロメッティ氏)

 IBMのジニー・ロメッティCEO(写真提供:日本IBM) IBMのジニー・ロメッティCEO(写真提供:日本IBM)

 コンピューティングの新しい時代におけるリーダーの在り方をテーマにしたロメッティ氏のスピーチは、このメッセージに集約される。同氏曰く、「これまでのコンピューティングには、1950年代までの集計マシンの時代と、それ以降のプログラム可能なシステムの時代という2つの時代しかなかった」という。パソコンやスマートフォンも「単に小型化しただけ」と。コンピューティングの本質を考えさせられる見解だが、IBMがリードしてきた時代を中心に考えるとしっくり来るかもしれない。

 それはさておき、そして今、「システムが自ら学習するコンピューティング」という3番目の時代を迎えているというのが、同氏の主張だ。その背景には、ビッグデータの活用という切迫したニーズがあるという。最後に同氏は、リーダーはこうした変化を理解し、対応していくスキルが求められていると訴えた。

 パルミサーノ氏はもちろん、ロメッティ氏もCEO就任1年目とはいえ、堂々たる存在感でスピーチの内容も非常に興味深いものだった。それとともに、今回のイベントで印象に残ったのは、今年5月に日本IBM社長に就任したばかりのマーティン・イェッター氏の進行役としての取り仕切りぶりだ。

 自社の設立75周年記念イベントをトップとして取り仕切るのは当然のことだが、パルミサーノ氏やロメッティ氏にも匹敵する存在感を感じた。考えてみると、設立75周年という微妙な節目ながらも、新旧CEOをはじめ米本社の主要幹部を呼んでこうしたイベントを実施したことで、イェッター氏のIBMでの存在感を日本の顧客企業やパートナー企業に周知できたのが、日本IBMとしては非常に大きな意味があったのではないか。

 イェッター氏は今回のイベントを機に、全国の営業体制を再編するなど、本格的に事業のテコ入れを図っていく構えだ。長らくマイナス成長が続いた日本IBMをどう建て直すか、手腕に注目したい。

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