グローバル化に少子高齢化、組織の課題……、ITマネジャーが苦悩を吐露ITマネジャー覆面座談会 第1回

» 2013年02月18日 10時00分 公開
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 安部政権が誕生し、“アベノミクス”への期待から円安と株高が進み、ようやく日本経済に少しの明るさが見えてきた。その一方で、クラウドやスマートフォンの普及など、企業ITを取り巻く環境は大きく変化し、業務改革やコスト削減など、ITマネジャーへの責任やプレッシャーは増すばかりだ。

 そんな中、ITmedia エンタープライズでは、ITマネジャーが抱える課題を洗い出し、解決への道を探るために、さまざまな業界で企業のIT戦略をリードする現役CIOや情報システム部門の部長を5人招き、匿名を前提とした座談会を開催した。参加者は各業界をリードする企業の敏腕情報システム部門長ばかり、さぞかし素晴らしいIT戦略を実施しているのかと思いきや、実際にはこれら先進企業であっても、改革がうまく進まなかったり、データ活用ができていなかったり……。さまざまな現場の悩みが吐露されつつ、その状況を改善し、今後のIT業界を良くしていくための提言などが語られた。彼らはこれらの問題にどう取り組み対応していったのか。本稿では3回に分けて座談会の様子をお伝えする。

座談会参加者

  • 風越敬三氏:大手商社 情報システム部 部長
  • 加藤哲哉氏:メガバンク系経営アドバイザー企業 取締役
  • 山本信之氏:Webメディア企業 Webサービス部 部長
  • 藤田竜一氏:大手精密機械メーカー 情報システム課 課長
  • 林建雄氏:大手生保情報子会社 IT企画部 部長

(順不同、氏名はすべて仮名)

まずは、各社のグローバル化の現状について語ってもらった

 座談会はまず、各参加者が所属する企業や業界が現在直面している環境の変化についての話題からスタートした。多くは国内市場の飽和による、グローバル展開に課題を抱えているようだ。

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風越氏(商社) 私は長く商社で鉄鋼のビジネスに関わってきたのですが、少し前からビジネスの構造が大きく変化してきています。これまでは、海外の鉄鋼を国内に持ってくる仕事が大半を占めていたのですが、近年は国内需要が頭打ちになってきているため、中国や東南アジア地域でのビジネスに重点をシフトしつつあります

山本氏(Webメディア) 私が関わっている業界でも同様ですね。弊社では特定の商材に絞ったWebサービスを展開しているのですが、少子化の影響もあり、国内市場が緩やかに縮小し始めているので、台湾や東南アジア地域でのサービス提供を始めたところです。

林氏(生保) そういう意味では、生保は人口減少の影響をもろに被る業界なんです。今のままでいけば、今後新契約の件数はどんどん減っていくと言われています。また弊社では販売活動の大半を、数万人いる営業職員による対面販売に頼っているのですが、これから国内人口が減っていけば営業職員の数も減ってきます。需要と供給の両面で、人口減の影響をもろに受けています。

藤田氏(メーカー) 弊社では主に、一般消費者向けの精密機械製品を販売しているのですが、早くから海外市場に進出していたおかげで、国内市場の縮小と同時に新興国市場での売り上げが伸びて、幸運にもビジネスを継続できています。かつては、売上高全体に占める国内市場の割合は3割を超えていたのですが、今では1割程度に落ちて、その代わりに中国、インド、ブラジルでの売り上げが急激に伸びてきています

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風越氏(商社) 新興国市場へのシフトは、もはや避けられない流れですね。弊社でも現在、グローバルでのオペレーションを統括する機能を国内の本社から、シンガポールに移管する取り組みを進めています。日本も含めた各拠点は、このシンガポール本社の下に付くという大胆な組織改革になります。

加藤氏(金融) そうなると、組織改変や企業合併に伴うITの問題が、いろいろと出てきますよね。私は長く金融業界にいるのですが、かつては一時期、物流業界にいたこともありました。金融のシステムというのは監督官庁の指導もあって、石橋を叩いて叩いて構築・運用するものなんですが、そこからとある中堅物流会社に転職したら、誰が作ったのかも分からないようなシステムが乱立していて、業態・業種による違いにびっくりしたのを覚えています。しかも、そこはもともと別々の企業が合併してできた会社なのですが、合併前のシステムが統合されないまま、別々に運用されている状態でした。財務会計システムすら統合されていないようなありさまでしたから、これはまずいということでERPパッケージを導入したり、情報系のシステムを全社的に整備したりと大変でした。

ビジネス環境の変化に対応する上での組織やプロセスの課題

 話題は次第に、ビジネス環境の変化に対してどのように組織やビジネスプロセスを変革させていけば良いのか、というトピックに移っていった。どの参加者も、各企業や業界に特有の構造的な悩みを抱えているようだ。

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風越氏(商社) 弊社では現在、先ほどもお話ししたようにグローバルオペレーションに適した組織構造への改革に取り組んでいるのですが、その一環としてグループ企業間の合併も発生しています。そこで問題になるのが、ビジネスプロセスの移管や統合です。もともと独自のビジネスプロセスを回していた企業に、まったく別のプロセスを適用しなくてはいけないケースが発生します。そこで鍵を握るのが、BPM(ビジネスプロセスマネジメント)の考え方だと私は思っています。まずは、統合・移管するビジネスプロセスを、BPMの取り組みを通じて可視化し、その課題を整理することが大事になってきます。その上で、それを支えるITインフラを考えていくというものですね。

加藤氏(金融) 私自身も経験があるのですが、多くの企業ではIT以前に、業務プロセス全体をきちんと把握している人がいないのが実情です。ましてやITとなると、いつ誰が開発したのかも分からない、ドキュメントもまったく残っていない(整備されていない)ようなシステムが動いていて、「声が大きい人の言うことを場当たり的にやる」ような属人的な運用が日々行われているのが、多くの企業の現状ではないでしょうか。

山本氏(Webメディア) ちなみに弊社のビジネスプロセスはとてもシンプルで、トップの「鶴の一声」しかありません(笑)。現場が自ら考えるという文化がなくて、ひたすらトップの方針に沿って現場が走り回るというやり方ですね。従って、「社員の効率化にお金を掛けるという発想がそもそもない」ような状況です。組織構造もトップの意向をそのまま汲んだ形になっていて、鶴の一声がそのまま現場に直接降りてくるようになっています。でもやはり、実態にそぐわない無茶な指令や、ポイントがずれた方針が突然降りてきて、現場は混乱するわけです。なので今、トップと現場の間に戦略部門を挟むよう、組織改革に着手したところです。

林氏(生保) 生保業界は、かなり事情が異なりますね。同じ金融業界でも、証券系のITではそれこそコンマ何秒を争うようなエッジの効いた世界があるのですが、生保にはそういうのはまったくありませんし、何せお客さまの情報を30年以上保有し続けなくてはいけないので、とにかく保守的なんです。システムの造りも相変わらずメインフレーム主体ですし、現場の人たちはとにかく新しいことをやりたくない(笑)。本当は、国内人口が減り続ける中でビジネスを継続していくためには、ネットをはじめとする新たな顧客チャネルをどんどん開拓していかなければならないはずなんですが、現場からそのような声は絶対に挙がりません。ですから、新たなことにチャレンジしていくためには、上の人間がトップダウンで進めていくしかないんですね。

企業のIT部門は今後どうあるべきなのか?

 ではこうした状況の中、企業のIT部門は果たしてどのような形で自社のビジネスに貢献し得るのだろうか? 各参加者からは、積極的な提言が相次いだ。

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藤田氏(メーカー) 私はもともと、生産管理やSCM(Supply Chain Management)といった、本社の社内向けシステムを主に扱ってきました。ところが数年前に販売会社に移籍して、そこのシステムを担当するようになって以来、IT部門の役割について考えを新たにしました。販売のためのITというのは、社内業務効率化のためのITとはまったく違う世界ですからね。まして、最近では販売チャネルやマーケティングツールとしてのWebやSNSの重要性が増していますから、これからのIT部門はそういったITのトレンドをいかに自社のビジネスに取り込んでいけるかを、戦略的に考えていかなければならないだろうと考えています。

林氏(生保) 生保でも、これからの人口減の時代を生き残っていくためには、さまざまなチャネルでの販売に力を入れていく必要があり、ネットの顧客チャネルも重要なひとつだと私は考えています。ただ、ネット専業の生保が頑張っているとは言え、全体の件数からするとまだまだなので、大手はまだ本気で手を付けようとしていないのが現状です。こうした状況は変えていかねばと思っていますし、さらに「顧客情報の可視化」という、もう1つ課題も解決しなければなりません。そもそも、生保は顧客との接点が特殊で、担当営業が1年に1度会うか会わないかであるため、顧客情報が不足しがちで、かつメンテナンスしずらいのです。生保で最も重要なデータは、顧客の結婚や出産、子どもの入学といったライフイベントに関するものなのですが、現状ではこうした情報は営業職員1人1人が抱え込んでブラックボックス化してしまっていて、とても管理できているとは言い難い。そこで今は、ネットチャネルの開拓と顧客情報の有効活用という両面で、新しい取り組みを進めているところです。

山本氏(Webメディア) 弊社でも今、顧客情報をはじめとしたデータ分析の取り組みを進めています。特に力を入れたいと思っているのが、プロモーションの効果分析ですね。現状では、プロモーションを打ってもその効果をきちんと検証できていません。本来は、アンケート調査やWeb/SNS経由で顧客の声を集め、それらを分析できる仕組みがあれば、プロモーションの企画立案から実行、効果の検証までの一連のプロセスを一気通貫で流せるはずです。そのためには、いわゆる「データサイエンティスト」のような、データ分析の専門家が社内に欲しいところなんですが、そのような人材はどこの企業も熱望していますので、有能な人材がいても“新卒に1000万円以上出せるような大手企業”にすぐ取られてしまいますね(笑)

加藤氏(金融) でも、たとえ有名大学の数学科を出た人材を雇ったとしても、それだけでデータ活用がうまくいくとは限りませんよね。やはり、「どう分析するか」以前に、「なぜこれを分析するのか」「データ分析から何を得ようとしているのか」というそもそもの戦略を考えられる人がいないとダメなんです。もっと言うと、ビッグデータ時代の経営においては、社長自身がデータに基づいた戦略家になるくらいでなければ、きちんとした活用はできないのだと思います。そして、そういった人を育てていくためには、IT部門は「あなたでなくてもできるのに、今最も時間を取られている仕事」はどんどん外部に任せてしまって、より戦略的な分野に注力していくべきでしょう。私もかつて物流会社にいたときに、これを目指してERPや仮想化、クラウドをフル活用しての社内システムの見直しや、保守・運用のアウトソースに挑戦し、かなり効果を得ることができました。

 ……こうして座談会の話題は、最近話題のビッグデータをはじめとする「データ活用の在り方」へと移っていった。果たして、ビジネスの成長に真に貢献するデータ活用の形とは、一体どのようなものなのだろうか? 参加者からはさまざまな意見が飛び出したが、その内容は次回にあらためて紹介することにしよう。

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