ただのビッグデータには価値がない、生かすためには人が重要だITマネジャー覆面座談会 第2回

» 2013年02月26日 10時00分 公開
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 ITmedia エンタープライズでは過日、さまざまな業界で活躍中の現役CIOや情報システム部門の部長5人を招き、企業ITをテーマにした座談会を開催した。その内容は3回に分けて順次掲載していくが、今回はその第2回目として、座談会の中でも特に大きく取り上げられた「データ活用」に関するディカッションの内容を紹介する。

 今日、ビッグデータという新たなキーワードの登場をきっかけに、ビジネスや経営におけるデータ活用の在り方があらためてクローズアップされている。いわく、ITの力を駆使してデータを広く収集・分析することで、経営に役立つインサイト(洞察)を導出し、正確かつスピード感のある経営判断を実現するという。しかし、こうしたコンセプトは何も最近出てきたものではなく、1990年代からBI(ビジネス・インテリジェンス)の文脈の中でずっと提唱され続けてきたものだ。

 しかし、では果たしてどれだけの企業がこれまで、実際にBIの恩恵を受けられたというのか? ビッグデータも、ひょっとしたら掛け声だけに終わってしまうのではないか? とはいえ、年々厳しさを増すビジネス環境の中で企業が生き残っていくためには、やはりデータ活用が重要な鍵を握るのでは……。座談会ではこうしたトピックについて、各参加者から忌憚のない意見が相次いだ。

座談会参加者

  • 風越敬三氏:大手商社 情報システム部 部長
  • 加藤哲哉氏:メガバンク系経営アドバイザー企業 管理グループ 取締役
  • 山本信之氏:Webメディア企業 Webサービス部 部長
  • 藤田竜一氏:大手精密機械メーカー 情報システム課 課長
  • 林建雄氏:大手生保情報子会社 IT企画部 部長

(順不同、氏名はすべて仮名)

“顧客の生の声”は一体どこにあるのか?

藤田氏(メーカー) ITの活用によって、これまでデータ化されていなかったものがデータ化されるようになったのは事実でしょうね。例えば弊社では、お客さまからコールセンターに寄せられた声や、Webのアクセス履歴をデータ化して、ニーズ分析を行っています。こうしたことは、かつてはできませんでした。

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林氏(生保) 私のいる生保業界は、そうした取り組みは相対的に遅れていると思います。いまだに営業職員による「フェイス・トゥー・フェイス」の販売スタイルが主で、顧客情報を営業職員が囲い込んでしまっているんです。コールセンターも、ほとんどクレーム対応しかしていません。海外の保険会社では、顧客データを収集・分析して離反防止や不正請求の検知などに生かしている事例がありますから、日本でも本当はできると思うんですけどね……。

藤田氏(メーカー) ただ弊社でも、集めた顧客データをマーケティングや営業活動にどう生かしていくかとなると、まだまだですね。本当は、データの分析結果をそのままネット上の販促活動や、コールセンターでのクロスセル・アップセル施策に反映できればいいんですが、そこまではまだ至っていません。なので、「データの中から経営に利するインサイトが取れているか?」と問われると、「まだそこまで行っていない」というのが実情です。

林氏(生保) 私も、「新しい保険契約を取るためのインサイトはどこにあるのだろう?」と、ここ1年ほどずっと考えているんですが、正直なところまだ解は見つかっていませんね。

山本氏(Webメディア) 弊社に関して言えば、Webサイト上で商品情報を提供するビジネスモデルなので、本当はサイトを訪れるユーザー1人1人のプロフィール情報や行動履歴データを細かく収集・分析することで、もっともっと、きめ細かいサービスをユーザーに提供できるはずだと考えています。ただ、元々雑誌で行っていた情報提供サービスをそのままWeb化しただけのサイトなので、パーソナライズという概念がなかったんです。なので、データモデルも商品中心に組み立てられてしまっています。

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加藤氏(金融) 人中心ではなく、モノ中心のデータモデルになっているわけですね。

山本氏(Webメディア) そうなんです。本当は、ユーザーのサイト内での行動履歴を分析すればニーズが見えてきて、その人に最適なオファーをこちらから提示できるはずなんですが。例えば、Amazonのリコメンド機能のようにですね。でも、現状のデータモデルでも、できることはあると思っています。既にメールマーケティングの取り組みは始めていますし、将来的にはFacebookなどのソーシャルメディアからユーザーの声を集めてくることができれば、さらにもっとユーザーのニーズに詰め寄れると考えています。

藤田氏(メーカー) 弊社のようなモノ作り企業にとっても、ソーシャルメディアの存在感は高まってきていますね。それは、単にマーケティング上のチャネルということだけではなく、ユーザーが商品を消費する場、つまり“コミュニティーとしての存在感”が増しているのです。お客さまは必ずしも“商品というモノ”が欲しいのでなく、むしろ“モノを通じたコミュニティー体験のために商品を購入している”のかもしれない。そうなると、メーカーはもう極端な話、コミュニティー運営企業の下請けのような位置付けになってしまいます。そうならないためには、「お客さんは何をするために弊社の商品を買ってくれるのか?」ということを常に考えて、その期待に応えるにはどんなことができるかを模索していかなければいけないと考えています。

“データ”は囲い込んでしまうと価値が半減する

加藤氏(金融) 藤田さんの指摘は、極めて重要だと思います。日本企業はそこの部分、つまりマーケティングが弱いんですね。多くの企業はいまだに、高機能・高品質・低価格な製品を出せば必ず売れるという、“高度成長期時代のプロダクト・アウト型の発想”から抜け出せずにいます。でもデータを冷静に見れば、ユーザーのニーズは今必ずしもそこにあるとは限らないことが分かるはずなんです。ただ、今までのBIの取り組みは、「データウェアハウスをいっぱい作って、現場の人に自由に使ってください」というものでした。これでは、データ分析の結果として得られた知見を集約して、全社的なマーケティング戦略の基になるようなインサイトにまで昇華させていくことができないんです。

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風越氏(商社) 弊社の現状がまさにそうです。弊社ではかなり早い時期からLotus Notesを導入して、社内で営業情報や人脈情報を共有するための取り組みを進めてきたのですが、現場単位ではさまざまなデータベースが作られてデータの蓄積・共有が進んでいるものの、それを全社レベルで把握する術がないんです。ただ、ここからは組織論の問題にもなるのですが、現場は現場に課せられたミッションをスムーズに遂行するために情報を囲い込んでしまって、外部に公開したがりません。こうした現状を打破するために、社内SNSなどをうまく活用して、現場で得た情報を会社全体の大きなビジネスにつなげていくための仕組みを作っていきたいと考えているのですが、まだ実現には至っていませんね。

加藤氏(金融) 結局のところ、データの活用は企業全体が発展していくためにやるものですから、組織全体で戦略的に動かないと意味がないですよね。今取りざたされているビッグデータにしても、本当に活用するためには、まずは組織のありようを変えていく必要があると思います。

風越氏(商社) 現場に仕組みを導入するだけでは、うまくいかないんですよね。弊社でもかつて、人事部が音頭を取って人脈データベースの仕組みを導入して、社員全員に人脈情報を登録させたんです。でも、全社的な運用ルールをきちんと詰めていなかったがために、例えばある社員が別の社員の人脈を辿って、勝手にお客さんにコンタクトを取ってトラブルを起こすような事案が頻発して、結局は使われなくなってしまいました。本当は人脈情報のようなデータは、生かし方によってはビジネス上極めて有用なデータであるにもかかわらず、「その扱い方やお作法が伴っていないなぁ……」という感覚を昔から強く持っています。この辺りの課題は、社会学的なアプローチも導入して、もっと深く研究されるべきテーマだと思います。

結局、データを生かすためには「人の判断」が重要なんだ

風越氏(商社) 実を言うと私は、今巷で行われているビッグデータの議論にはあまり関心がないんです。と言うのも、「ただ単にデータをたくさん集めてきたところで、データを見る側にそれなりの分析力や洞察力が備わっていなければ、宝の持ち腐れになってしまう」と考えるからです。本当は、モデリングやサンプリングの技術があって初めて、データの背景にある構造が見えてくるはずなんです。その辺りの議論が、ビッグデータの文脈の中では不足しているように感じます。

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山本氏(Webメディア) 同感です。まずはデータを取る目的があり、かつそれを分析できる能力があって、初めて取るべきデータが見えてくるはずですから、“ただたくさんデータがあれば良い”というものではありません。先ほども申し上げた通り、弊社がモノ中心のデータモデルから人中心のデータモデルへシフトしようとしているのも、まさにそうした考えに基づいてのことです。

加藤氏(金融) 使えないデータをいくら集めたところで、意味がないですからね。私も、やはり最終的には人の判断が重要だと考えています。分析スキルももちろんですが、分析結果からどのようなインサイトを見い出して、それを現実の企業戦略にどのような形で反映していくのか。これはまさに企業全体の経営戦略そのものであり、経営の判断が問われる部分です

林氏(生保) 経営の資質が問われる部分であるとともに、先ほど加藤さんがおっしゃったように組織の問題でもありますよね。弊社のように旧態依然として硬直化した組織では、まさにそこが大きな課題になっています。

加藤氏(金融) そういう意味では、ビッグデータは組織改革のきっかけの1つになるかもしれません。高度成長期に確立された日本企業のフレームワークでは、経営企画部や人事部のような中枢部門が情報の収集と取りまとめを行って、人手と属人的な経験値に頼って戦略を立案していました。しかしそのような機能は、ビッグデータ分析でより客観的、正確かつスピーディーに賄えるようになるはずです。そうなれば、優れた人財をより価値の高い仕事、つまり人の判断がどうしても必要な戦略的な仕事に投入できるようになるでしょう

 ……こうして座談会の話題は、データ活用から組織論、さらには経営論へと移っていった。どの参加者も企業のIT戦略を預かる情報システム部門の部長として、日夜経営とITの関係について考え抜いているだけあり、議論は徐々に熱を帯びてきた。この続きは、次回にあらためて紹介することにしよう。

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