ITは経営に踏み込むべき、そしてIT活用の最終目的は「経営のサイエンス化」だITマネジャー覆面座談会 第3回

» 2013年03月04日 10時00分 公開
[PR/ITmedia]
PR

「経営のサイエンス化」こそ、ITが目指すべき最終目標だ

 ITmedia エンタープライズでは過日、さまざまな業界で活躍中の現役CIOや情報システム部門の部長を5人を招き、企業ITをテーマにした座談会を開催した。その模様はこれまで2回に渡って紹介してきたが、今回はその最終回となる。

 前回はBIやビッグデータといった、ビジネスにおける「データ活用」を主なテーマに、各参加者の間で繰り広げられたディスカッションの模様を紹介した。今回はその内容を踏まえた上で、「ではデータ活用をはじめとするITの力を、企業の経営力強化に結実させるには、一体何が必要なのか?」というテーマで繰り広げられた議論を紹介する。各参加者とも、長きに渡って「経営とITの橋渡し」という難しいテーマに取り組んできただけあり、さまざまな持論が展開された。

座談会参加者

  • 風越敬三氏:大手商社 情報システム部 部長
  • 加藤哲哉氏:メガバンク系経営アドバイザー企業 管理グループ 取締役
  • 山本信之氏:Webメディア企業 Webサービス部 部長
  • 藤田竜一氏:大手精密機械メーカー 情報システム課 課長
  • 林建雄氏:大手生保情報子会社 IT企画部 部長

(順不同、氏名はすべて仮名)

ITを核にして、経営に踏み込んだ次世代の戦略部門が必要

イメージ写真

加藤氏(金融) 企業が事業戦略を立案する際には、まずは必ず仮説を立てますよね。ビッグデータは、その仮説を立てるための材料として、さらには仮説検証のための判断材料として非常に有用だと思います。ただし、非定型データも含めて何でもかんでも社内にデータを溜め込んでいっては、いつか必ずパンクしてしまいます。従って、データの収集・活用は戦略的に行うべきで、さらに言えばその役割を担う戦略的な部署が社内にあって然るべきだと思います。いわゆる「BICC」(ビジネス・インテリジェンス・コンピテンシー・センター)のようなセクションですね。これからの経営においては、そのような部門が事業戦略の立案を主に担っていくべきだと考えています。

山本氏(Webメディア) 弊社では今、IT部門主導でまさにそうした戦略部門を立ち上げようとしているところです。これまでは、現場は何も考えずに、トップから降ってきた指令に従ってひたすら走り回るだけで、頭脳労働を担う部署はIT部門以外にはありませんでした。営業企画部門もあるにはあったのですが、名ばかりの存在で、戦略的な仕事のほとんどはIT部門が担わざるを得ない状況でした。

イメージ写真

加藤氏(金融) 本来は、まさにそれこそがIT部門が今後担っていくべき役割ですよね。さらに言えば、財務経理や人事の専門家も交えた、真の意味での戦略部門が今後の日本企業には必要なのではないかと考えています。そもそも、IT部門が事業戦略の立案にまったく関与できていない現状はおかしいのではないでしょうか。本来CIOは、CFOと並んでCEOの右腕として重要な役割を担うべきなのです

林氏(生保) 同感です。スピード経営を考えれば、経営が見るべきデータがいつでもさっと取り出せるようにしなければなりません。それを、まずはIT部門がデータを取りまとめて、それをさらに経営管理部門が分析して……、といったやり方では遅いわけです。やはりIT部門が経営管理の領域まで踏み出して、「IT経営管理部」のような組織ができて然るべきだと思いますね。マーケティングに関しても同様で、IT部門が自らマーケティング的な視点を持って、売り上げに直接貢献できるITの使い方やデータの活用法を考えていくべきだと思います

「なぜそのプロセスとシステムを回しているのか?」が分からない

風越氏(商社) 組織の問題も確かに重要ですが、それと並んで個人的に大きな課題だと思っているのが、業務プロセスの問題です。日本企業はこれまで、ホストコンピュータの時代からコンピュータを使った業務プロセスの自動化・効率化に取り組んできましたが、その結果何が起きたかというと、ITの人たちの役割が既存プロセスの運用だけになってしまって、そもそもの業務プロセスの構造をきちんと理解できる人が極めて少なくなってしまったことです

加藤氏(金融) 銀行システムの世界でも、まったく同じことが起きていますね。業務の現場の人たちは、システムにどういうコードを入力すれば良いのかは分かっていても、その裏で行われている勘定処理の内容をきちんと理解している人が少なくなってしまったんです。

イメージ写真

風越氏(商社) システムで業務プロセスを回すことに慣れてしまった現場の人たちは、インプットの方法とアウトプットの見方しか訓練されていませんから、自ずとそうなってしまったんでしょうね。まあ、これまではそれでも何とかうまく回ってきたのかもしれませんが、ここに来てその弊害が徐々に出始めてきているように見えます。

藤田氏(メーカー) 製造業でも、似たような課題が持ち上がってきていますね。例えば自動車業界では、80年代に構築したホストコンピュータ上の「BOM(Bill Of Material:部品表)」を長年運用してきた結果、今では誰もBOMの内部構造を理解できなくなっているという話を聞きます。最近では3D CADを使った設計開発がメインになってきていますが、ではいざ3Dの設計データをBOMと結び付けて管理しようと思っても、BOMの中身を分かる人がもう社内にいない。設計開発業務の一部を海外拠点に移転するような際に、こうした問題が顕在化するようです。

風越氏(商社) 今、多くの日本企業がグローバル化の流れの中で直面しているのが、まさにそのような問題だと思います。例えば、日本国内で回していた業務プロセスを中国の拠点に移管しようと思っても、システムをそのまま持っていくだけではうまくいきません。やはり中国では中国の事情に合ったプロセスとシステムを適用する必要があるのですが、いざこれをやろうとしても、これまで自分たちが国内で回してきたプロセスをひも解いて、適切にローカライズできる人材がいないんです。

イメージ写真

加藤氏(金融) 日本企業の海外でのM&Aが、海外企業ほどに実を結ばない原因も、この辺りにあるのではないでしょうか。もともと日本企業の業務プロセスは、グローバルスタンダードとは異なる部分が多いですから、せっかくM&Aをしてもなかなか業務プロセスの統合が進まないんですね。結局は、買収先企業のシステムをそのまま運用し続けていることが多い。この点は日本企業の海外進出にとって、大きな足かせになっているように思います。

風越氏(商社) そこで重要になってくるのが、「BPR(business process re-engineering)」や「BPM(business process management)」の考え方だと思っています。実は私は一時期、情報子会社に出向して親会社のシステムの見直しを手掛けたことがあったのですが、そのときにビジネスプロセスとそれを支えるシステムを一気通貫で見通せる人がユーザー側にいないことを痛感しました。そんな経験もあって、「ビジネスプロセスをきちんと人間系とシステム系の両面から可視化することの重要性」を強く意識するようになりました。ちなみに弊社では今まさに、企業合併に伴うビジネスプロセスとシステムの統合のために、BPMの取り組みを進めているところです。

加藤氏(金融) 今思い返せば、日本企業はこれまで、何度かビジネスプロセスを根本から見直す(=グローバルスタンダードに適合した統一化を実現する)チャンスはあったんですよね。一度目が90年代に進んだERPパッケージの導入、そして二度目が内部統制(SOX法)への対応でした。でもどちらの契機でも、結局は「なぜこのビジネスプロセスを回しているのか?」という本質的なところで捉えることをせず、「(受け身の)対応」で終わらせてしまったんです。このままだと、ビッグデータも同様に「なぜこのデータが必要なのか?」という本質的な議論がなおざりにされてしまうのではないかと危惧しています。

IT活用の最終目的は「経営のサイエンス化」だ!

風越氏(商社) BPMにしてもビッグデータにしても、ITツールの導入が先行するあまり、その本来の導入目的が忘れられがちになってしまうケースが多いと思いませんか? もちろんITそのものは、うまく使えば経営に必ず利する有用なものだと思っています。経営のPDCAサイクルを回すということは、すなわち仮説と検証を繰り返すことで、そのスピードと精度を上げるためにはITを使ったデータ処理が絶対に必要です。でもツールだけがぽんと出てきたところで、そのソリューションの本質的な価値や活用法が理解できるとは限らないわけです。かと言って、ITベンダに聞いたところで、ちゃんとした答が返ってくるとも限りませんし。

藤田氏(メーカー) ITをビジネスの成果に確実に結び付けるには、「経営のサイエンス化」という発想が1つの鍵を握ると考えています。今、風越さんが仰ったことと同じかもしれませんが、データを使って仮説と検証のサイクルを回すところは、もうITで自動的・高速化してしまえば良いんだと思います。そこには、人間の意志を入れ込みすぎない方が良い。つまり、科学にしてしまうんですね。むしろ人間が絶対に行わないといけないのは、「PDCAサイクルの中でどのような評価軸やKPIを設けて、業務なり活動の評価を行っていくのか?」という部分です。この部分は、絶対に人間にしか判断できません

イメージ写真

加藤氏(金融) そしてその評価結果を、経営判断に迅速に反映させるということですね。個人的には、「データ志向経営」や「経営のサイエンス化」といった考え方は、経営判断の誤りを正して、はるべく早く「撤退(やめる)判断」を下すための方法としても、極めて有効だと思います。今までは、一度決めた事業方針を途中で放棄するのは、なかなか難しかったのですが、ビジネスがグローバル化した今では、1つの判断の誤りが会社の存続を危うくする時代ですからね。

山本氏(Webメディア) 私はその辺りの考え方を、「今日・明日・未来」という3つの時系列に分けて捉えています。経営判断にITを積極的に活用するというのは、「明日」のための施策ですね。ほかの方も仰っていた通り、私もこの部分ではビッグデータに大きな可能性を感じています。そして「未来」は、もっと長期的な視野に立った事業戦略のためにITを活用するということです。これも先ほど話題に挙がった「情シスの戦略部門化」や「経営のストラテジスト化」といった話に結び付くと思います。そして「今日」のためのITというのは、日々の仕事のスピードアップや効率化に貢献するものです。最近ではモバイルなどがこれに相当するでしょうか。

加藤氏(金融) 私も個人的には、ITで現場の社員1人1人の仕事を効率化できる余地は、まだまだあると思っています。余分(=その人でなくてもできる)仕事に時間を取られている人が多すぎますよ。ITを使ってそういう仕事から人々を解放してあげれば、もっと生産的な仕事に人を割り振ることができますし、あるいは余った時間をプライベートや社会貢献(社会的価値の創造CSV)に使うこともできます。こういう面でも、ITでできることはまだまだたくさんあると思います。

 こうして3回にわたってお届けした座談会は幕を閉じた。日夜経営とITの関係について考え抜いているIT部門長たちだけあり、データ活用から組織論、さらには経営論へと、その話題は多岐にわたった。しかし、従前より言われている「ITはもっと経営に近いところに携わるべき」「日本のCIOは欧米と比較して地位が低すぎる」といった課題に直面していることもあり、最後には「IT活用の最終目的は『経営のサイエンス化』だ」という、日本のIT業界全体への大きな1つの提言を得た。日夜、社内のITシステムの課題に奮闘しているITマネジャーの方々には、ぜひ参考にしていただきたい。

ホワイトペーパーダウンロード

変化に対する企業の順応性を変革し、俊敏なビジネスを実現するIBM ビジネス・プロセス・マネジメントIBM Business Process Managerのホワイトペーパーがダウンロードできます。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:日本アイ・ビー・エム株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2013年4月3日


日々増え続ける膨大なデータに対して、あなたならどう応えますか!?

IT現場ウォッチャー・村上福之が斬る!

迫り来る納期、増えるプロジェクトメンバー。されども何も生み出されない……。そんな「ダメプロジェクト」はなぜ発生してしまうのか。システム開発現場の“負のあるある”について、クレイジーワークス総裁の村上福之さんに寄稿してもらった。

TwitterやFacebookなどの利用につきまとう“炎上”の危険性。企業がソーシャルメディアを活用する場合の炎上リスクについて、IT部門はどう考えればいいのか。「ソーシャルもうええねん」の著者でもあるクレイジーワークス総裁の村上福之さんに寄稿してもらった。

多くの困難を伴う「パッケージ導入」。IT部門が経営陣向けに説明する時とプロジェクトを動かす時では、異なる視点が必要だ。クレイジーワークス総裁の村上福之さんによる連載の最終回は、ITマネジャーに求められる“二枚舌スタイル”について。

ITマネジャーインタビュー連載

ソーシャルメディア情報を活用した株価分析サービスから移動営業所による証券窓口サービスに至るまで、数多くのプロジェクトを統率した敏腕ITマネジャーが示すプロジェクト成功のポイントとは。

納期や予算、メンバー管理……。開発の現場にはさまざまな苦難も付きまとう。オンラインサービスの最前線を指揮してきたクックパッドの井原正博氏は、「ITで価値創造する」というマインドを忘れないことが大事だと話す。

「アメーバピグやアメブロなどのシステム担当者ってどんな人!?」。上智大学の準ミスキャンパスである細野さんが、サイバーエージェント Amebaサービスのインフラ全体を統括する怡土氏に仕事ぶりなどを聞いた。

ITマネジャーあるあるキャンペーン

ITマネジャーや、IT部門に従事する読者のみなさんが業務に関わる「それ、あるある〜!」をTwitterでつぶやいてください。

集まった投稿の中から、編集部が厳選した「ベストITマネあるある」をピックアップし、読者のみなさんが投票。一番共感の多かった「あるある」をその回のグランプリとします。また、各回でグランプリを獲得した「あるある」から、さらなる読者投票で全体グランプリを選出します!
投稿が選ばれた人にも、投票してくれた人にも抽選でAmazonギフト券をプレゼント!

STEP1:@ITM_campaignをフォロー

STEP2:ハッシュタグ「#ITマネあるある」付きで投稿


詳細は特設サイトで!