「アメーバピグやアメブロなどのシステム担当者ってどんな人!?」。上智大学の準ミスキャンパスである細野さんが、サイバーエージェント Amebaサービスのインフラ全体を統括する怡土氏に仕事ぶりなどを聞いた。
月間で数百億ものページビューを叩き出すサイバーエージェントの「Ameba」サービス。昨年末の大規模な広告投資によって、今後さらにユーザーからのトラフィック数が増大することは必至だ。サービスを止めることなく、しかも品質を下げずに対応していくためには、俊敏かつ柔軟なシステム基盤が不可欠といえよう。
こうしたサービスを支えるシステムインフラを統括するのが、サイバーエージェント アメーバ事業部 プラットフォーム部門 インフラ事業部 データセンター統括グループ マネジャーの怡土研也氏だ。同氏の仕事に対する心構えや携わったプロジェクトなどからITマネジャーとしての資質に迫る。聞き手は、上智大学 2012年度準ミスソフィアの細野皐月さん。
――まずは、怡土さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
2007年1月にサイバーエージェントへ中途入社しました。それ以前は5〜6年ほどシステムインテグレーター(SIer)で、企業システムの受託開発に携わっていました。実は、2005年ごろに外部委託企業としてAmebaサービスのシステム運用にかかわることになったのですが、その後、サイバーエージェントがエンジニアの採用を強化し、社内でシステム運用が可能な体制になったため、約1年後にパートナー契約が打ち切りになりました。そのタイミングでサイバーエージェントに転職して、引き続きAmebaのサービスを見ることになったというわけです。
Amebaサービスのインフラエンジニアは、今でこそ40人以上いますが、当時は10人に満たない少人数でした。基本的にエンジニアは技術をコツコツ触っているのが好きなので、業務の中ではどうしてもプロジェクトの管理などマネジメント部分がおろそかになりがちです。そこで、自分自身でAmebaサービスにかかわるさまざまなプロジェクトを管理、コントロールするようになり、気が付いたらマネジャーになっていました(笑)。
仕事内容について、昨年はスマートフォン向けサービスのプラットフォームを構築するということでサービス面にもかかわる機会がありましたが、Amebaサービス全体のインフラ基盤管理をメイン業務に、エンジニアの採用や育成にこれまで携わってきました。
――現在、特に注力している業務は何ですか。
主な業務は、ネットワーク全般と、Amebaサービス全体のシステムコストを管理しています。サイバーエージェントのように自社のエンジニアだけでこれだけの規模のサービスインフラを支えている会社はそれほど多くないと思います。一般的には、外部パートナーを活用しているほどのサービス規模です。もちろん、物理的なIT機器やネットワーク回線など持っていないものは外部からレンタルしたり購入したりしていますが、システムの中の作りはすべて自分たちで検討や判断をして、導入、運用しています。大変ですが、やりがいはあります。
――すべてを内製化するというのは会社のポリシーなのでしょうか。
はい、会社のポリシーです。その最大の理由は「スピード感」ですね。例えば、一昨年ごろからサイバーエージェントはスマートフォン戦略を推し進めており、それに向けて新しいシステムを作る必要がありました。外部の会社に頼むと、要件定義やシステム設計の工程だけで1、2カ月かかり、システム完成までには最低でも半年、場合によっては1年以上要してしまいます。それを社内ですべて行えば、かかっても3カ月程度です。
インターネットの世界は、技術にせよ、ビジネスにせよ、移り変わりが目まぐるしいため、サービスを支えるシステム基盤構築のスピードをどんどん縮めていかないとビジネスで勝負できません。そのことは藤田(晋社長)も役員も理解してくれていますので、インフラをきちんと自前でコントロールしてスピード感を損なわないことは、イコール経営方針につながると思います。
スピードを重視するため、サイバーエージェントではコストの承認プロセスが短く、より現場に近いレベルでも判断できます。僕も入社して1年程度でシステムにかかわるコストの決定権を持たせてもらいました。これによって、現場でやろうと決めたらすぐに取り掛かることができます。コストに対する責任は大きくなりますが、それ以上にスピード感が出てモチベーションが高まります。
――Amebaサービスのインフラ全体を統括するリーダーという立場にあります。メンバーをマネジメントする上で心掛けていることはありますか。
自分たちが日々行う業務においては特にありません。ただ、経営判断で会社の方針がガラリと変わったとき、それをメンバーにどう伝えるかという点には気を付けています。「こう決まったから後はよろしくね!」とだけ言うわけにはいきません。普段は自由を尊重して皆仕事をしているけれど、やりたいことばかりやっていても会社は成り立たないのだということを強調しつつも、メンバーのやる気をそがないように、うまくマインドセットしてあげないといけません。
今は、以前のようにトップがひとこと言えばそれで方針が浸透するという状況ではなくなってきてます。会社の規模が大きくなり、人が増え、サービスも多様化すると、いろいろな考えや意見が出てきます。こうした少数派の意見をムゲにしてはこの会社の良さが損なわれますし、かといって、重宝しすぎても多数派が面白くないでしょう。このバランスは本当に難しい問題ですが、どちらにも偏り過ぎないよう気を付けてはいますね。
――そうした中で、部下のモチベーションを上げるためにどのような取り組みをされていますか。
話をしてお互い納得できない場合、最終的なゴールが大幅にずれていなければ、相手の意見をくみ取り、ひとまずメンバーの好きなようにやらせてみることにしています。成功したらそのやり方で良かったということだし、失敗したら何が悪かったのかを自分自身で気付いてもらうことができます。結果が良くても悪くても自分の責任だということです。
トップダウンで「これをやれ、あれをやれ」と言うのは好きではありません。自主性を持たせて、まずはメンバーに考えてもらい、彼らの思考を止めないようにすることが重要だと考えています。思考を止めるとモチベーションは上がりません。あまり細かいことまで指示、忠告してしまうと、人によっては自分は信用されてないのではと思ってしまう可能性があるので、大事なことはきちんと伝えながらも答えは相手に出させるように気を付けています。
サイバーエージェントという会社は人ありきです。社員の個性や意思をないがしろにしてはこの会社の良さは出ません。今後組織が大きくなり、さまざまな事業が出来ることで、もっと対人コミュニケーションが重要になってくるはずです。
――サイバーエージェントに入社してから携わってきたITプロジェクトの中で、特に苦労したものはありますか。
最初に担当したデータセンター移設プロジェクトが一番印象に残っています。当時、渋谷と新宿の2カ所で少量ずつ借りていたAmebaサービスのデータセンターのキャパシティが足りなくなり、新しいデータセンターをそれなりの規模で借りることになりました。それを私と当時いたネットワークスペシャリストの2人で設計・構築し、既存データセンターからの移設作業の指揮を取りました。
通常だとデータセンター構築は、選定からオープンまで少なくとも半年以上はかかるようなものですが、そのデータセンターはわずか3カ月足らずで選定からオープンまでこぎつけました。その間、データセンターに缶詰になることも多々ありました。今思うとスケジュールもそうですが、体力的にきついプロジェクトでした。
ただ、このデータセンターが立ち上がったことで、インフラシステムの拡張が可能になり、「アメーバピグ」のような大きなサービスを生むことができました。また、データセンター構築の成果が認められ、「ベストプロジェクト賞」という賞をインフラチームでいただくことができました。
――プラットフォーム事業の今後の展望について教えてください。
既に動いているプロジェクトの1つに、4カ所目のデータセンター構築があります。これまでとは比較にならないほど大規模なデータセンターとなり、自社でクラウド環境を実現しようとしています。
サービスが大きくなると、どうしてもハードウェアなどのシステム資産が膨らんでしまい、データセンターも広げていかないとなりませんでした。新しいデータセンターでは仮想化技術によってサーバをギュッと集約できるようになります。
これまではサービスの売り上げや利益とともにシステムコストも伸びていましたが、コストを抑えればその分利益は増えるわけです。まずはAmebaサービスでこのクラウド環境を使い始め、ゆくゆくは子会社も活用することで、インフラ面からグループ全体に貢献できるようになります。技術だけではなくコストの面でも3、4年後には全社にとってメリットが出ると考えてます。
――怡土さん個人としては、この先どのようなことを見据えて仕事をしていきますか。
例えば、10年後にもこの職業で仕事をしているかどうか分かりません。なぜかというと、インフラ技術やネットワーク技術だけで食べていける時代ではなくなりつつあるからです。今後は、プログラミングの技術だったり、マネジメントスキルだったりと、プラスアルファがないと駄目だと感じています。
現在は、米Amazonをはじめとするクラウドサービスを使えば、数クリックでサーバが作れて、そこにサービスを置くことができる世の中なのです。これから何十年先も、企業が自分たちでハードウェアを買って、システム設定するような必要性が果たしてあるのでしょうか。
一方で、インフラ技術者としては、海を越えてサービスを提供していきたいという思いがあります。もし10年後にもAmebaのサービスがグローバル展開できていなかったら、きっと生き残っていないと思います。そうならないためにも、日本から海外に飛び出して、グローバルでのサービスを支えるエンジニアになることを想定して仕事をしていくべきでしょう。
――お話を伺っていると、さまざまな物事を客観的に見ているという印象を受けました。
そうかもしれませんね。これはインフラエンジニアだからということも大きいです。サービスの作り手だと、どうしても自分たちが手掛けたものに愛着が沸いてしまいますが、僕たちはそのインフラ基盤が5年後、10年後にどう変わっていくのかという視点で見ています。分かりやすい例で言うと、サービスが急成長しているときでも、慌てずにシステムコストを抑えるなど、裏ではシビアに状況を見ています。
このように仕事はきっちりとやりますが、遊び心も忘れてはいけません。そうでなければ、サイバーエージェントでインフラエンジニアをしているメリットはないと思います。自分たちが思い描く最高のシステムを作り上げ、それを何百台もデータセンターに並べて、サーバに付けられたAmebaのロゴが暗闇でピカピカと光る――。そういった夢を追い続けていきたいですね。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2013年4月10日
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