「伝統的データベースに革新を」、PureDataに込めたIBMの狙い

ビッグデータ活用に焦点を当てたデータベース製品が増える中、IBMは昨年10月に発表した「PureData System」でトランザクション処理専用のマシンをラインアップする。この分野での同社の狙いとは何か。

» 2013年03月19日 08時30分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 IBMは2012年10月、データベースシステム製品群「PureData System」を発表した。PureData Systemではデータ分析とトランザクション処理向けに3モデルをラインアップする。近年注目を集めるビッグデータの分析、活用に加え、同社はなぜ伝統的なトランザクション処理の分野にも専用マシンを投入したのか――。

 PureData Systemは、IBMが推進する「Expert Integrated Systems」構想に基づくPureSystemsファミリーの1つ。ハードウェアやソフトウェア、そして、それらの構築や運用に関するノウハウ、技術、経験など「専門家の知見」を高度に統合した製品だ。大規模データ分析向けの「for Analytics」、次々に取引される業務処理データを蓄積データと照合するといった即時的な分析処理向けの「for Operational Analytics」、オンライントランザクション処理(OLTP)向けの「for Transactions」の3モデルをラインアップする。

佐々典子 主任ITスペシャリスト

 近年にリリースされた統合型データベースマシンは、ビッグデータ分析に着目しつつ、1台でさまざまな用途に対応できるとするものが多い。IBMがPureData Systemで3モデルを展開するのは、「当然ながら目的によってワークロードは異なり、特にデータベースでは性能と効率の面からも専用のシステムが必要」(Information Management事業部の佐々典子 主任ITスペシャリスト)との考えからだという。

 このため分析用途向けでも、同社は顧客分析のような大量データを用いるケースに対してはfor Analytics、不正検知のような目的にはfor Operational Analyticsを企業顧客に提案する。この2モデルに対し、for Transactionsでは金融や製造、eコマースをはじめ、あらゆる業種におけるOLTPの「近代化」を訴求している。

伝統的DBに新たな価値

 OLTPデータベースのような企業にとって心臓部とも呼べるシステムには、非常に高い信頼性や処理性能が要求される。一見すると、PureData Systemのような新しいカテゴリーのシステムを適用するのが、最も難しい領域と思われるが、「for Transactionsはメインフレームから30年近くにわたって培ってきたIBMのノウハウを継承しており、データベースエンジニアが新しい価値を発揮できることを目指している」(大塚知彦技術統括部長)という。

IBM PureData System

 for Transactionsは、PureSystemsシリーズ共通のブレードサーバとDB2、Red Hat Enterprise Linux 6、Storewize V7000ストレージなどから構成される。メガバンクなど大手金融機関でも導入実績の多いDB2 pureScaleを採用したことで、スケールアウトによる拡張性と障害に強い堅牢性を両立している点が特徴となっている。

 「専門家の知見」を凝縮しているPureSystemsだが、大塚氏によれば、PureData System for TransactionsではDB2のインスタンスを作成する「トポロジー・パターン」と、トポロジー・パターンで作成したインスタンスに最適なデータベースを作成する「データベース・パターン」に「専門家の知見」が詰め込まれているという。GUIからクラスタ名とその説明、パターンを指定するだけで良いとのこと。既にDB2のシステムを利用していれば、わずか数十分程度でfor Transactionsの運用を開始できる。

 従来こうした作業は、データベース技術に長けたエンジニアが数週間を費やして設計から調達、設定、テスト、チューニングまでを行っていた。for Transactionsではこのプロセスが劇的に短縮され、ユーザーにもエンジニアのような高度なスキルは要求されない。

 この点について大塚氏は、「エンジニアの豊富な経験やノウハウをいつまでもOLTPの構築といった業務だけに費やすのはもったいない」と話す。企業のグローバル化が叫ばれる昨今、例えば、ますます加速するとみられる企業間での買収や合併では基幹業務システムの統合などが増えていく。また、急成長の進むeコマース分野ではビッグデータ分析に代表される新たなデータ活用も広がっていくだろう。

 データベースを取り巻くこうした環境変化にあって、「伝統的なOLTPの分野はIBMの経験に任せていただき、エンジニアにはより難しい部分で真価を発揮してほしいというのが当社の考えだ」(大塚氏)と述べている。

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