オープンPaaSがソフトウェアにもたらす無限の可能性――IBMがBlueMixを推す理由IBM Software Xcite Spring 2014 Report

IBMは2月に立ち上げたPaaS「BlueMix」の訴求に世界規模で注力している。同社がPaaSで目指すものとは何かを、クラウドパフォーマンスCTOのアンドリュー・ヘイトリー氏に尋ねた。

» 2014年05月23日 08時00分 公開
[聞き手:國谷武史,ITmedia]

 2014年前半のIBMのソフトウェアビジネスでは、2月のPulse 2014カンファレンスで発表されたPaaSサービスの「BlueMix」(コードネーム)が主役になっている。Pulse 2014に続く4月のImpact 2014ではBlueMixの活用事例も登場した。同社がBlueMixを推進する狙いなどについて、ソフトウェアグループ 技術理事 CTOのアンドリュー・ヘイトリー氏に聞いた。

―― IaaSのSoftLayerやBlueMixなど、IBMのクラウド戦略の展開は非常に速いものがあります。

IBM ソフトウェアグループ IBM Cloud Labs & High Performance On Demand Solutions 技術理事 CTOのアンドリュー・ヘイトリー氏

 ヘイトリー いま、IBMはクラウド戦略を加速させています。これまでオープンソースを中心とするエコシステムの形成など様々な取り組みを推進してきましたが、現在は顧客がオープンソースとクラウドの組み合わせによって何ができるのかを模索するフェーズに入ってきました。様々なビジネスチャンスがあり、IBM内部ではいえばその代表がBlueMixであり、その基盤のCloud Foundryコミュニティにおける活動も同様です。SoftLayerはこうした活動を促進役です。

 こうした取り組みから、顧客にとって大きく2つのチャンスを生まれています。1つはSoftLayerを買収したことで、IBMが世界最大規模のIaaSを提供するようになったこと、もう1つはBlueMixのアーキテクチャです。開発者はあらゆるソフトウェアやサービスの全てをサービスモデル型へと転換できるようになりました。従来、IBMのSaaSでは100種類以上のメニューを提供していましたが、これにBlueMixが加わったことで、顧客やパートナーが独自のコードあるいはサービスと組み合わせて、さらに新しいサービスを提供できるようになっています。

 IBMは、IaaSの領域でOpenStackのオープンなエコシステムを推進してきました。いまは、PaaS領域でもこれまでと同じように、Cloud Foundryによるオープンなエコシステムの形成に注力しています。私が見る限り、Cloud Foundryは世の中のオープンソースコミュニティで最も活発かつ成長著しいコミュニティでしょう。その勢いはOpenStackも同じです。

―― いま、BlueMixにはどのくらいの開発者が参加しているのでしょうか。

ヘイトリー 現時点での具体的な規模は申し上げられませんが、2月の開始時点で既に数千人規模の登録がありました。その後、欧米や日本など先進国市場だけでなく、新興国市場からも多数の開発者が参加しています。IBMの予想を大幅に上回るペースで増えているのは間違いありません。

―― BlueMixはβ版サービスという位置付けですが、正式サービスへ移行することになるのでしょうか。

ヘイトリー 正式にいつ頃はいえませんが、既に幾つかのサービスでは“β”が外れされています。例えば、Cloudant(IBMが2014年2月に買収)のデータベースサービス(DBaaS)やアプリケーションの性能監視、資産管理といったものは、General Availability(GA)になっています。

 BlueMixのサービス全体がGAに移行するということはなく、幾つかのサービスをまとめてある段階にGAへ移行し、それが順次行われていくという形です。ある時期にモバイル関連の複数のサービスがGAに、さらに別のタイミングでアナリティクス関連のサービスがGAになるといったイメージですね。

―― BlueMixではIBMが「Systems of Enganemet」と呼ぶモバイルやソーシャルなど新しい分野のアプリケーションが開発されていると聞きます。多くのIBM顧客は基幹システム上のデータ(IBMではSystems of Recordと呼ぶ)の活用にも期待していると思いますが、どうなりますか。

ヘイトリー 確かにBlueMix上ではSystems of Enganemetにおける新しいアプリケーションが次々に開発されています。こうしたアプリケーションがSystems of Recordの世界とつながれば、より強力な存在になるのは間違いありません。

 IBMではCloud Integration(WebSphere Cast Iron Cloud integration)サービスを提供しており、BlueMixでも新たに提供されるようになったばかりです。Cloud integrationを利用してユーザーが持つデータベースあるいはデータセンターとBlueMixがつながり、APIを介して様々なアプリケーションを安全に利用していけるでしょう。さらには、IBM以外のクラウドサービスとも接続され、Systems of EnganemetとSystems of Recordが結びついていきます。

―― Impact 2014ではSoftLayerやBlueMix、SaaSのポータルを統合した「Cloud marketplace」を発表しました。IBMのクラウドサービスはここに集約されるということでしょうか。

ヘイトリー クラウドサービスには開発者、IT担当者、業務部門と異なるタイプの顧客がいます。SaaSを利用するのはカスタマイズをほとんど必要せず、アプリケーションを直接購入するユーザーが中心でしょう。BlueMixは開発者向けのサービスですが、BlueMixで開発されたアプリケーションとSaaSのようなアプリケーションが融合して使えるようになるという観点が重要だと考えています。

 IBMはサービス型で提供できるソフトウェアを可能な限りCloud marketplace上に展開することで、タイプの異なる顧客であっても彼らの必要とするサービスを提供していく方針です。

―― Impact 2014で発表した「BlueMixガレージ(開発者を技術とビジネスの両面で支援する施策でサンフランシスコに拠点がある)」はユニークな取り組みですね。

ヘイトリー 私はIBMに入社して15年が経ちますが、BlueMixガレージは今までの中でも非常に楽しい仕事の1つになっています。

 その理由は、IBMが単に製品を提供するだけでなく、開発者の支援を通じて今までにない顧客体験を生み出したり、IBM顧客にとっての顧客(消費者など)にも価値を提供できることに気が付いたからです。まだ始まったばかりですが、ぜひ注目していただきたい。

 BlueMix上ではいま、とてもエキサイトな開発が次々に行われています。例えばGameStop(世界最大級のゲーム販売会社)は、BlueMixを利用してゲームを購入する顧客にこれまでに類をみない体験の場を提供していますし、絶えることなく新しいモノを提供していこうとしています。ヘルスケアといった分野ではユーザーの保有するデータと公共データをBlueMix上で組み合わせることによって、新しいデータ分析のためのアプローチを実現を試みています。

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