競争の激化で厳しさが増す航空業界で、ITを使ってコスト削減をしようとする会社は多い。そんな中、デスクトップ仮想化で「Windows XP」の移行を低コストで済ませ、さらには飛行機のパイロットにiPadを支給した会社がある。
航空業界へのITシステム導入が進んでいる。安定しない燃油価格に加え、LCCを交えた競争が激化しており、業界を取り巻く状況は厳しさを増す一方だ。競争力を維持するためにITでコストを削減しようとする企業は多い。
アイルランドの首都ダブリンを中心に欧州、そして北米やアフリカなどの長距離路線を持ち、年間1060万人を運ぶ「エアリンガス(Aer Lingus)」も、そんな課題に直面していた一社だ。“ケルトの虎(ケルティックタイガー)”としてIT景気で高成長を遂げてきた同国の経済が、2008年を境に後退したこともあり、大規模なコスト削減を余儀なくされたという。
同社が“IT改革”にかけた時間は約2年。そのポイントは、仮想デスクトップの活用で「Windows XP」からマイグレーションするという「守りの施策」と、タブレットによる操縦室のペーパーレス化を実現するという「攻めの対策」を平行して行ったことだ。
この取り組みを指揮したのは同社のITサービスマネジメント担当ディレクター、デレク・モナハン(Derek Monahan)氏だ。約3年前に同職に任命されてから、彼が最初に着手したのが、社内4500人が使っていた「Windows XP」の移行問題だった。
2014年4月にサポートが終了するXPから「Windows 7」へと移行するにあたって、同氏はCitrixの仮想デスクトップ技術「XenDesktop」の導入を決めた。旧来の投資(主にPC)を維持しつつ新しい環境へと移行でき、大幅なコスト削減につながるためだ。MicrosoftとVMwareの仮想デスクトップも検討したが「柔軟性と速度でCitrixの技術が卓越していた」(モナハン氏)という。移行作業の検討を2013年に始め、実際の作業に入ったのは、サポート終了1カ月前となる2014年3月ごろだった。
OSと合わせてアプリケーションの移行作業も進めた。当初、約570種類ものアプリケーションがあったが、「よく見てみると同じ『Office』でも、複数のバージョンがあるなど重複があり、社員はバラバラのバージョンを使っていた」とモナハン氏は振り返る。
整理の結果、約半分となる275種類のアプリを移行することに。アプリケーション移行や互換性の分析を行うCitrixの「AppDNA」を利用し、部門ごとに移行を行った。最終的に、この作業に1年2カ月ほどかかったという。
Windows 7への移行を機に、ほかにも合理化できる要素はないかと、モナハン氏のチームはシステムの見直しにかかった。そこで彼らが目をつけたのが“印刷作業”だったという。
社内には約1400台のプリンタがあったが、ネットワークに接続しているものもあれば、PCに直接接続されているものもあったそうだ。そのうえ、使い方にも問題があった。「プリンタには常時誰かがプリントアウトしたものがたまっている。不要なものも印刷するのが常習だった。しかもカラー印刷さ(笑)」(モナハン氏)
そこでモナハン氏は、プリンタをすべてネットワーク化し、台数も従来の6%程度となる85台に絞り込んだ。さらに、マシンからプリンタにコマンドを送った後、プリンタでユーザー認証することで初めて印刷が実行される“プル型プリント”技術の「Secure Follow Me Printing」を導入、これにより無駄な印刷を削減した。もちろんモノクロ、両面印刷が基本だ。
また、自宅や出張中でもファイルにアクセスしたいというニーズに応えるため、Citrixのオンラインストレージを利用してタブレット、Windowsマシン、Macと端末を問わずにアクセス、共有できるようにした。これらの施策で、メンテナンスコストは50%、ライセンスコストは60%削減できたという。
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