メインフレームでブロックチェーン? ダイヤ取引の変革に挑むEverledgerIBM Edge 2016 Report

IBM Edge 2016カンファレンスは2日目を迎え、午前のジェネラルセッションにはテクノロジーで新たなビジネスモデルを創造するイノベーターたちが登場した。ダイヤモンド取引の高い透明性に挑む英国の新興企業が着目したのは、ブロックチェーン技術とIBMのメインフレームだった。

» 2016年09月21日 08時00分 公開
[浅井英二ITmedia]
会場となったMGMグランドホテルのカンファレンスセンター

 米国時間9月20日、ネバダ州ラスベガスで開催中の「IBM Edge 2016」カンファレンスは2日目を迎え、午前のジェネラルセッションにはテクノロジーで新たなビジネスモデルを創造するイノベーターたちが登場した。

 IBM自らも成長分野へのシフトを加速しており、企業向けのクラウドコンピューティングやWatsonによるコグニティブコンピューティングに注力、顧客企業とともにイノベーションを実現しようと取り組んでいる。このEdgeカンファレンスがフォーカスするITインフラストラクチャーの分野でもPOWER8、メインフレーム、フラッシュストレージ、そしてSoftware Defined Storageに至るまで、同社のシステム製品は、コンピュータが自ら思考し、迅速かつ的確な意思決定を支援する「コグニティブビジネス」の実現を支える機能が盛り込まれてきているという。

 例えば、巷では「レガシー」とみられているメインフレームだが、IBMはその信頼性や堅牢性に磨きを掛けるだけではなく、昨年8月、Linux専用のメインフレーム「IBM LinuxONE」を発表し、業界を驚かせた。

 この業界で最もセキュアでオープンなインフラに着目し、IBM LinuxONEによって最先端のブロックチェーンネットワークを構築しようと考えた新興企業がある。設立からわずか18カ月のEverledgerだ。

 ブロックチェーンは、「分散型台帳」とも呼ばれていて、仮想通貨を支えていることで知られている。取引記録や資産登録簿などのデータを分散型ネットワーク上の参加者が安全に共有し、管理できるようにするテクノロジーだ。これまで第3者機関を介して行ってきた取引を当事者同士で即時に処理できるようになる。

 IBMもLinux Foundationが中心となって進められているHyperledger Projectに参画し、その標準化に取り組んでいる。記録やアクセスが保護され、高い透明性を確保できるブロックチェーンという新しいテクノロジーの活用は、金融はもちろんのことだが、それ以外の分野でも応用できるという。例えば、不動産や自動車のように価値の高いものを追跡、適正な対価で所有権を移転できるようにするだけでなく、サプライチェーンもリアルタイムで管理できるため、製造業にも応用の幅は広がりそうだ。

Everledgerの創設者兼CEOリアナ・ケンプ氏

 英国・ロンドンに本拠を置くEverledgerは、Hyperledger ProjectベースのブロックチェーンソフトウェアをIBM LinuxONE上で稼働させることによって、ダイヤモンドを鉱山から消費者まで追跡し、ダイヤモンド認定書や取引履歴を記録するビジネスネットワークを構築している。

 ジェネラルセッションのステージに招き上げられた同社の創設者兼CEOのリアナ・ケンプ氏は、「ダイヤモンドの業界にとっては、それがどこから来たのか、その出所がとても重要になる」と話す。Everledgerのビジネスネットワークによって、透明性の高い取引が行えるだけでなく、保険金詐欺の防止にもつながるという。

 また、アフリカの地域紛争を終結させるため、紛争当事者の資金源となっているダイヤモンド、いわゆる「紛争ダイヤモンド」は取引しないことも業界には求められている。

 「かつては信用が大切にされ、それによって成り立ってきた業界だが、ゴールドのように広く投資資金を呼び込むには、テクノロジーによる取引の高い透明性が求められている」とケンプ氏は話す。

 堅牢でオープンなブロックチェーンネットワークは、金融や、こうしたダイヤモンドの取引以外の分野でも応用が始まっている。

ブロックチェーンのセキュアな環境をクラウドサービスでも

 IBM自身も4000社に上るサプライヤーやパートナーと取引する中、年間約2万5000件もの決済に関する紛争が発生し、大きな課題となっていた。IBMの情報システムと取引先の情報システムが別々に稼働し、多くの文書がやり取りされているからだ。争いとなる金額は1件当たり3万1000ドル、解決には平均44日も要している。こうした課題を解決するため、同社ではブロックチェーンネットワークを活用し始めているという。

 これまで第3者機関の介在を必要とし、手間もコストも掛かっていた取引が、ブロックチェーンによって低コストで高い信頼性と透明性を維持して処理できるようになるとすれば、将来はインターネットを介した企業間取引を支える新たな基盤になると期待できる。

 IBMはこの7月、LinuxONEによってブロックチェーンネットワーク用のセキュアな環境をクラウドサービスとして提供することも明らかにしている。同社では、規制のある業界やセキュリティで妥協できないビジネスにとっては、B2Bの取引を根底から変える可能性を秘めたブロックチェーンの検証がすぐに始められるとしている。

(協力:日本アイ・ビー・エム)

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