「おらが町」の信用金庫がFinTechで成長するには?ハギーのデジタル道しるべ(2/2 ページ)

» 2016年09月30日 08時15分 公開
[萩原栄幸ITmedia]
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信用金庫に奮起してほしいこと

 さて、本論に戻りたい。「金融業は絶滅危惧種」と言われるほどの危機的な将来をもたらすかもしれないFinTechだが、これを逆手にとるべきではないだろうか。「うちは信用金庫だから……」という消極的な姿勢は捨ててほしい。ビジネスチャンスは目の前にごろごろと転がっている。

 これまで信用金庫は、地域に密着して活動してきたはずだ。既に年間30万もの人口が減少し、世界一ともいわれる高齢化の波が日本に押し寄せている。地方のシャッター街や限界集落を救うとした政府による「地域創生」の“錦の旗”が掲げられているいま、地域に根差す信用金庫には、解決策の1つに新しい技術を取り込むことでこれらの課題で取り組むことが求められているはずである。

 地方銀行も第二地方銀行もそれぞれの役割があり、信用金庫には信用金庫にしかできないことがある。信用金庫は、地方銀行や第二地方銀行では苦手な分野をよく研究し、地域の特性に応じたオリジナルであり、エレガントな答えを期待したいところだ。

 筆者は、昔からセミナーで「無知は罪悪」と話してきた。知識、アイデア、論理、そして創造力で目の前の「単なる石」を磨けば、光るダイヤモンドになる。FinTechだけでなく、IoTやビッグデータ、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、AI(人工知能)、クラウドと、実にさまざまなテクノロジーの事象が信用金庫の目の前にある。アイデア次第で、それらの組み合わせが無限に広がり、結果として「ドラスティックな収益向上」「限界集落、シャッター街の解消を併せた地域創生」が可能になるはずだ。

FinTechを地域創生につなげていける!?(写真はイメージです)

 ただし、この主体は地域に住む「お客様」であるべきだ。目の前の技術に喜ぶのは、技術者としては合格だが、ビジネスとしては失格である。実際の店舗利用を好む「お客様」は一定の割合(特に富裕層が多い60代以上の世帯)で存在する。技術ばかりに走り、業界新聞の1面に「〇〇システムを構築!」などと祭り上げられて、こうした「お客様」を置き去りにしてしまうのではいけない。

 最も効果が高いのは、従業員教育である。FinTechもその技術を十分に理解できる専任者を1人だけでもぜひ養成してほしい。チーム(技術は専任1人で十分!)が徹底的に現在の環境を分析し、信用金庫の力と地場産業の魅力の全体を包括して、その強みを具現化していける独自の戦略を策定すべきだ。他の金融機関との競争の中で、酒屋の御用聞きのように「リアルな接客を大切にする信用金庫」という特色をあえて打ち出すことも一手になるだろう。

 ただし、焦りは禁物である。ライバルの動向を注視しつつも、「慎重かつ大胆に」という基本姿勢を持ってほしい。前回の記事でも述べたように、FinTechは極めて有力な武器であるが、結局はあまたある手段の1つに過ぎない。主従を間違え、「FinTechに取り組んでいる」という誤った感覚に陥らないように気をつけていただきたい。

 これまでFinTechに踊らされている金融機関の残念な実情を紹介してきたが、「慎重かつ大胆に」FinTechを利用すれば、たくさんの新しい可能性を現実のものにしていけるはずである。そのチャンスは、地方銀行や第二地方銀行、信用金庫や信用組合、JAバンクにも平等にある。金融機関には「FinTechを活用する主役」として、ぜひ頑張っていただきたいというのが筆者の願いだ。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。

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